第2話



タイムカードをつけるな、つまりタダ働きである。そんなこと許されるハズがない。

でもこの会社ではそれが当たり前のように行われていた。


私だけではない。他の人もやっているから仕方がない。そう納得せざるを得ない状況になっていた。


タダ働だけではない。人格否定する上司のパワハラも日常茶飯事となり、何が普通で何が普通じゃないのか愛子は麻痺していたのだ。


もちろん、過去に労働基準法違反で訴えようと考えたこともある。しかし、証拠を集めなくてはいけない。ボイスレコーダーで録音も考えたが、訴えたことがバレたら殺されるのではないかと恐怖した。


仕事を辞めることも考えた。一度、鬼瓦部長にそれとなく辞めたい迄を伝えたことがある。


しかし「辞められる訳ないだろ」の一言のみで取り合ってもらえなかった。


無断欠勤して辞めてやろうとも思ったが、実家まで来られたら家族に迷惑が掛かってしまうし、真面目な性格の愛子には無断欠勤なんて出来なかった。

こうして辛いながらも仕事を続けている。


「では行ってきます。」


取引先様に届ける資料を鞄に突っ込んで会社を飛び出した。

外はすっかり暗くなっていて、街には手を繋ぐ親子やカップルの姿が目に映った。


「誕生日なのに・・・馬鹿みたい。」


滲み出そうになる涙を堪えて一駅先の取引先の会社へ向かった。




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