辞めると言えない私たち
春夏秋子
第1話
いつからだろう、ブラック企業なんて言葉が流行りだしたのは。
いつからだろう、私たちが会社に仕事を辞めたいと言い難い世の中になってしまったのは。
そんなことより今日は4月8日は私、中村愛子の24歳の誕生日である。
数字の並べられた画面と睨めっこしながら、愛子はどうやったら仕事を切り上げられるか回らない頭で考えていた。
「帰りたい・・・。」
そんな呟きも虚しく、営業部長の鬼瓦こと武藤武は愛子の仕事の進歩を確認して盛大なため息を吐き出す。
「こんな簡単なことも出来ないのか!取引先様に迷惑掛けておいて、資料の修正もトロいなんて馬鹿か!」
「すみません・・・。」
「資料作り終わったら取引先様に届けに行けよ!」
「はい・・・。」
今日は休みなんだけどなあ、という言葉はギリギリ飲み込んでパソコンと向き合った。
取引先様に送るはずだった資料に不備が見つかり、休日にも関わらず呼び出された愛子は鬼瓦部長にビクビクしながらも資料をなんとか完成させた。
「資料出来ました。確認お願いします。」
鬼瓦部長に刷ったばかりの資料を渡す。
今日は日曜日ということもあり、オフィスには人が殆どいなかった。
「いつになったらミスが減るんだろうな。19時までに取引先様に届けろよ。その後こっちに戻ってきて他の仕事を手伝ってもらうからな。」
「え・・・?届けたら終わりではないのですか?」
「当たり前だろ!ミスしたんだからそれくらい当然だろ。」
「・・・・・・そんな・・・。」
確かにミスしたのは私だが、休日出勤だしこの後予定も入っていたから帰りたいのだけれど・・・。そんな反論も出来るはずなく、
「もちろんタイムカードはつけるなよ」
という鬼瓦部長の一言で愛子はまともに立って居られなくなった。
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