63. 構図を考えるのが得意・苦手な人

 筆者が開発にかかわっていた美少女ゲームといえば、「セクシー・美麗なイラスト」が花形。

 私は絵心がないため、美少女ゲームの作画作業に直接かかわることはできませんが。

 「こういうイラストを描いてね」という依頼書――いわゆる、コンテ(絵コンテ・字コンテ)を、何百から、下手したら1000カット近く手がけました。


 そうして、イラストの設計書をしたためて周りの協力を仰いでいるうちに、「構図を考えるのが得意な人」「苦手な人」の差や特徴。対処法がなんとなくわかってきました。

 というわけで、今回は、「構図を考えるのが得意・苦手なスタッフ」のお話。

 「構図を考える」能力を大別すると、以下の3パターンにわかれるでしょうか。


・A:頭の中でデザインできて、それを絵で出力できる人

・B:頭の中でデザインできるが、絵で出力できない人

・C:頭の中でデザインできない人


 『A』は、絵描きさんやグラフィッカーさん、また絵心のある企画職やシナリオライターが該当します。普通に、絵が描ける人を指しますね。


 問題は『B』と『C』です。 ←多くの企画職・シナリオライターはここ!


 『B』の人は、頭の中では適切な構図が考えられますが、他人から見える化(絵に)するだけのスキルが指先にありません。

 (見える化できないだけで、構図の良し悪しは脳内判定できる)

 そこで、


・文字で指示を出す「字コンテ」を作る

・デザイン用の人形にポーズを取らせて、写真を撮り「絵コンテ」代わりにする

・参考画像をたくさん用意して、文字で指示を出す


 後はこういった、出力するためのツールを用意すれば対応可能です。


 やっかいなのが『C:頭の中でデザインできない人』。

 こういう方に絵の設計書をお願いすると、無茶な構図を指示してしまう(※1)――ということも珍しくありません。

 しかも、頭の中でイラストの構図を考えられるかは、生まれつきの才能に左右されるもののようで……付け焼刃では、改善できない。

 海千山千の有能なベテランのシナリオライター・企画屋が……いざイラスト案を出そうとすると、ポンコツになってしまうのです。


 この辺りは、天は二物を与えないといいますか、餅は餅屋。

 『C』の人には無理して、字コンテや絵コンテを作成してもらわず、あくまでアイデアの原案だけ出してもらって、続きは


・A:頭の中でデザインできて、それを絵で出力できる人

・B:頭の中でデザインできるが、絵で出力できない人


 にバトンを渡してしまうのが吉でしょう。(※2)

 また、自分が『C』だと自覚しているスタッフは、細かいところまで口出しするのは控えた方が良い結果に繋がるかもしれません。


 さて、番外編として、実はもう1つ、Dパターンがあります。

 ある種の職業病として、


・D:頭の中でデザインできないけど、ペンで出力できる人


 という方々が稀にいるのです。

 それは、ずばりアニメーター。

 特に動画マン出身の方々に、イラストの作画をお願いした場合です。

 どうやらアニメーター出身の方は、「指示と寸分たがわぬ作画をする」というお仕事をされてきた故か、


 「参考画像A」を渡して、こういう絵を描いてねと依頼書を出すと、

 悪気が無く、「参考画像A」をトレース(※3)したかのようなイラストを納品してしまう――勿論、全員が当てはまるわけじゃないけど、そういう方もいらっしゃるようでした。


 実際にトレースしていなくても、トレースしたかのように見えると、「盗作したんじゃないか」という疑いをもたれる原因となります。

 これは、リスキー。


 そこで、アニメーター出身の人に、美少女ゲームのイラストをお願いする場合は、社内の絵心のある人(つまり『A』の人)に、適切な絵コンテを作ってもらい、アニメーターさんに資料としてお渡しする。

 トレース風に納品されても大丈夫なように対策していました。


 (参考画像だけを渡すと、参考画像通りに作画する恐れがあるため)


 アニメーターさんが悪いというわけではなく、それぞれの職歴、生まれつきのセンスに端を発する得意・不得意があるということで。

 美少女ゲームの作画に限った話ではありませんが、相手の特性を知っておき、それに合わせた依頼の仕方の引き出しを作っておくが吉。

 トラブルを未然に防ぐ一助になるのではないでしょうか。


 後、自分が『A~D』のどれに該当するか分かっておくと、周りに迷惑がかからなくて宜しいかと思います。


■今日のまとめ■

 ゲームのイラストの構図にかかわる能力について、以下の4パターンの人材ががいるのじゃよ。

・A:頭の中でデザインできて、それをペンで出力できる人(本職の絵描き)

・B:頭の中でデザインできるが、それをペンで出力できない人(シナリオライター・企画屋、工夫次第でコンテが切れる)

・C:頭の中でデザインできない人(シナリオライター・企画屋、コンテ苦手勢)

・D:頭の中でデザインできないけど、ペンで出力できる人(アニメーターの人とか、参考資料そっくりに作画を行う手癖がついている人)


 自分の特性と、相手の特性に合った指示の出し方ができるといいね。



(※1)

 【正面から】人間を見上げているのに、【後ろから】じゃないと見えない「オシリ」に何かのギミックを載せようとするとか。

 それ、1カットの画面じゃ入りきらないよ! みたいなイラスト案はよく見かけます。


(※2)

 逆に、『C』の人がずっとコンテを主導して、自分の考えたアイデアに対する修正を許さない! という立場を取られると開発現場は地獄になります。地獄でした。


(※3)

 原図を薄紙などに透かして、そのまま写すこと。

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