60. 大プロットと小プロットを書きたい

 プロットとは「あらすじ」のこと。

 物語の構成を、短い文章でまとめたものを指します。


 アニメの製作現場の場合、脚本を書く前にプロットを作成するようです。

 脚本だと、1話30分(本編の長さは約21分)で、200字詰め原稿用紙におよそ65枚前後の文量になる模様。

 これだけの文章量にいちいち目に通すのは骨ですし、「話の流れが気に入らない! 原稿用紙65枚分、全部書き直し!」となったら、目も当てられません。


 そこで脚本を書く前に、A4用紙1ページ程度で簡単にあらすじ=プロットをまとめる。まずは大まかな流れの案を簡潔に固め、関係者に提出しOKをもらう。

 GOサインが出たら、始めて脚本に取り掛かるという寸法なようです。


   ↓←←←←←←← NG

   ↓        ↑

 プロット作成→プロットチェック→OK→脚本・シナリオ作成(※1)


 ゲームのシナリオ作成現場でも、だいたい同じような流れです。

 アニメほど分量は定まってはいませんが。

 皆さんが画面上で目にするシナリオテキストを書く前に、プロットを作成します。


 プロットとは、いわばシナリオ・脚本に先立って作成する設計図なのです。


 さて、いざプロットを作成するとなっても、注意点があります。

 プロットには複数の種類があるのです。


 仮にここでは、「大プロット」「小プロット」と名付けておきましょう。


 「大プロット」とは、ストーリー全体の概要を定めたものを指します。

 全13話構成のアニメシリーズだと、シリーズ一連の流れを少数のページで分かるようにする形になるでしょうか。


 対して、「小プロット」は1話ずつ分割して、それぞれの流れを定めたもの。

 全13話構成のアニメだと、13本の「小プロット」ができることになります。

 「大プロット」と比して、各話の詳細に触れる設計図になるでしょう。


 ゲームシナリオでも「大プロット」「小プロット」は使い分けます。

 ゲームの開発においてシナリオは、何十~何百というテキストファイルに分割して執筆するものですが――対応した何十~何百という「小プロット」が作られることが多いです。


 「大プロット」が物語の全体をおおざっぱに定めたものに対して、「小プロット」はそれらを分割して詳細に記した設計図にあたるわけです。


 なお、この「大プロット」「小プロット」という名前は業界全体に通じる共通言語というわけではありません。現場によって呼び方が変わります。

 ある現場では大プロットを「基本プロット」、小プロットを「詳細プロット」と呼んでいましたね。


 名前だけでなくプロットに確定した構成はなく、書き方は現場によって変わります。

 私の場合「小プロット」だと、


 ・テキストファイルの頭に、そのシーンで起こる出来事を箇条書きで要約する

 ・その下に、「小プロット」本編を書く

 ・表示する、背景(場所)やイベントCGも記しておく

 ・↑上記が、小プロットをさらに細かくブロックに分ける役割を担っている


 ようにしていました。

 私はテキストファイル(txt)でプロットを作っていましたが、エクセルファイル(xlsx)でプロットを作るケースも散見されます。


 さて、かように「シナリオや脚本を書く前にプロットは作るよね」「種類が複数あるよね」という具合でプロのシナリオライターにはなんとなくの共通見解は形成されていると思うのですが。先述の通り、書き方自体に決まった作法はありません。


 よって、各々のシナリオライターで、「プロット」という単語に対するイメージは異なります。ですので、「50KB程度で、世界観とプロットを作ってください」と依頼されると、とても困ってしまいます。


 まず、このコラムで名付けた「大プロット」を想定しているのか。

 それとも、細かい物語の流れまで記す「小プロット」を想定しているのかが分からない。


 小プロットを想定しているのなら、50KBではとてもじゃないけど足りません。

 (なので、納期や仕事の分量を交渉しなければならなくなる)


 50KBだと、25000文字、薄いライトノベル1冊の15%~20%程度の文章量でしょうか。

 こう説明すると、十分な文章量があるようにも思えますが、シナリオライターというのはテキストを多めに書きたがる人種です。(※2)


 「50KB程度で、世界観とプロットを作ってください」などというふわっとした依頼の仕方をすると、「大プロット」と呼ぶには詳細に過ぎる設計図が。「小プロット」と呼ぶには色々足りない、でも大河的な大作の設計図が、70~80KB程度で納品される可能性があります。(※2)


 いや、実際にあったんですよ。

 ただこれはシナリオライターさんが悪いのではなく、仕事を依頼した人が言葉足らずだったのが原因です。プロット作成の仕事を依頼するのであれば、


 『今回、先生には、我々の現場では「大プロット」と呼んでいる物語全体の大枠の設定――原案の作成をお願いします。テキスト量は50KBくらいで。詳細な「小プロット」はこちらでイラストなどの素材を使いながら作成するので、まずは●月〇日までに初稿をお願いできますか? 登場するキャラクターの設定はまずは最小限の数名分のみで構いません。わき役はこちらからも提案するので、後で一緒に考えていきましょう』

 

 これぐらいは情報が欲しい、いやまだ足りないぐらいかもしれません。

 でも、先方の先生が「大プロット」「小プロット」という言葉を使っていなくても、こういう伝え方をすればなんとなく言わんとすることは伝わる……はず、だよね?

 あるいは、「大プロット」というとどのあたりまで設計するのか? と、先方から具体的な質問を引き出す契機にはなるでしょう。



■今日のまとめ■

・シナリオや脚本を書く前に、設計図であるプロット=あらすじを作成した方がいいよ。

・プロットには「大プロット」「小プロット」があるよ。(呼び方は現場で異なる)

・ただ「プロット」と表現すると、大プロットが欲しいのに「小プロット」が、小プロットが欲しいのに「大プロット」が納品されることがあるよ。



(※1)

 アニメの現場だと、脚本をもってライターによる設計図づくりは完了。

 作画サイドにバトンタッチ。

 この脚本をベースに、絵コンテと呼ばれる次の設計図づくりが始まるようです。


(※2)

 シナリオライターやデバッガ―として数十タイトルの美少女ゲームの作成にかかわってきましたが、想定していたシナリオ量で完成したゲームは1~2作品程度。

 それ以外は、テキスト量は予定をオーバーしました。50KBでテキスト作ってね? とお願いしても、たいがいもっと増えます。(※3)


(※3)

 これは、文章書きたいというシナリオライターの性に一因がありますが、別の事情もあります。イラストは1カットといえば、1カットですが、シナリオは総量を読みづらい。

 シナリオ製作を発注する側としてはテキスト量が少ないほど、お支払いする原稿料も少なく済むため、ついつい少なめに見積もってしまいがちである。という、依頼する側の悪癖も影響していると私は考えています。

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