61. 「~すべき」は使うべきじゃない!?

 現代はストレス社会だと呼ばれて久しいですね。

 リモートワークが普及した――とはいっても、面倒な人づき合いが避けられなかったり、デスクワークも多かったりと、クリエイターという業種もストレスには悩まされがち。

 できたら、レスな生活習慣を心がけたいものです。


 というわけで、今回は「ストレスがかかる言葉づかい」のお話です。

 心理学は、イラショナルビリーフ(非合理的な信念)といって、ストレスを呼びこみやすい言い回しや考え方があると指摘しています。


 イラショナルビリーフを遠ざけた方が、ストレスに暴露せずに済むわけです。

 気になるその内容ですが…


 平たくいえば、事実からかけ離れた極端な思いこみ。

 具体的には、「~すべき」という言い回しが該当します。


 ・会社に1000万円の損失を与えてしまった → 死んでおわびすべきだ

 ・赤ちゃんは母乳で育てるべきだ

 ・既読無視をせず、すぐに返信すべきだ


 などなど。冷静に、客観的に考えればそんなことはない。

 マイルールで縛りつけたら、毎日が息苦しくなっちゃうじゃん。

 と、開き直れるのですが。


 「~すべき」思想にとらわれていると、不必要に自分の心を追いつめ、行動の自由を奪ってしまうわけです。


 無論、イラショナルビリーフが悪さをするのは、自分自身に対しでだけではありません。

 周りの友人や家族、後輩に対して「~すべき」という論調を連発してコミュニケーションを迫るのは、価値観の一方的な押しつけにあたる。


 相手の決定権を奪ってしまう。価値観を強要しちゃっているわけなので、相応なストレスを話し相手に与えてしまう危険があります。


 価値観を押しつけるという意味では、「~した方が良い」という、言い回しもイラショナルビリーフ(非合理的な信念)にカウントされます。


 「~すべき」ほど言葉の圧は強くありませんが、多用は禁物。

 好意で「~した方がいいよ」とアドバイスしたつもりでも、相手にとってはイライラ、大きなお世話。かもしれないことは念頭に入れてもいいかもしれません。(※1)


 と、ここまでなら、「非合理的な信念、避けたいね」で話が終わるのですが。

 ちょっと、困ったことがあります。


 インターネット上でのニュースの表題や、記事の本文を見ると、「~すべき」という言い回しがやけに多く散見される気がします。

 それに倣ったのか、YouTubeでアップロードされる解説動画のタイトルにも「~すべき」が増えてきているような……?


  例:三国志ファンなら絶対に遊ぶべきゲーム5選

  例:【絶対に後悔する】100円ショップで買うべきじゃないもの

  例:パソコンが遅いと感じたら、削除すべきソフト3選


 う~ん、なんなんでしょうね?

 これだけ多用されているということは、「~すべき」という言い回しにも何らかのメリットがあるのでしょうか……?


 例えば、「~すべきだ」と断言した方が権威があるように見える、とか?


 家電紹介専門チャンネルを運営するYouTuberが「この春はこの掃除機を買うべきだ!」と自信満々に太鼓判を押せば、「彼・彼女がそこまで言うのなら……」とファンも納得して真実であると受け止めやすいのかも。


 アメリカ合衆国のトランプ前大統領がそうでしたが、少々乱暴でもズバッと断言した方が、嫌う人も増えるけど、熱狂的な支持者が増えるのかもしれません。


 YouTubeに投稿された動画や、インターネットのトピックスは一期一会。

 気に入らなければクリックされずに、それでおしまい。


 無難な表現をしてすぐに忘れられてしまうよりも、インパクトのある物言いをした方がいい。一部の人に注目された方が得である――という戦略を立てるのであれば、「~すべき」という言い回しにも利用価値があるのかもしれません。


 もっとも、私は日常的に付き合うような人に対してはいい関係を作りたいので、できるだけ「~すべき」は避けるかなぁ。(※2) 


 以前、ゲームのデバッガーとしてプロジェクトに参加した際に、


 「ここはこう直すべきだ」


 という報告書を上げたことがあります。

 すると先輩から「その言い方は角が立つからやめなさい」と窘められました。


 デバッグというのは、プログラマーをはじめとする開発スタッフのミスを炙り出す行為。どうしても重箱の隅をつつくような形になります。

 ゲーム開発の終盤の工程で皆さん疲れがたまっていることもあり、場がギスギスしやすいものです。


 そのタイミングで、「~すべき」と価値観を強要するのは、確かに危険。

 不用意だったと反省しています。


 非合理的な信念を使ってはいけないとは言いませんが、使う場面、使い方は見極めたいものですね。(※3)



 なお、最後に。

 イラショナルビリーフ(非合理的な信念)があるのですから、反対の「合理的な信念」もあります。ラショナルビリーフといいます。

 代表的な言い回しはこれ、↓


 「~するにこしたことはない」


 やった方が好ましいけど、しなくても構わない。

 お勧めの選択肢はお伝えするけど、最終判断を下していいのはキミだ。

 てな具合で、決断する権利を相手に譲っているのがポイントでしょうか?



■今日のまとめ■

・イラショナルビリーフ(非合理的な信念)は、自分にとっても他人にとってもストレスの原因になるよ。

・具体的には、「~すべき」「~した方が良い」という価値観にとらわれすぎることだよ。

・開発現場はギスギスするものだから、使わないにこしたことはないかもね。←イラショナルビリーフじゃない言い回し



(※1) ~した方が良い

 このような行動や意見の優劣、善悪を問うような言い回しは「倫理的な良い」と呼びます。意見の優劣をつけることを前提とするため、相手と対立することが少なくありません。両雄並び立たず。

 一方、「味が良い」「顔が良い」というような個人的な感想(好き嫌い)の範囲でおさまる場合は、「好選の良い」と呼びます。個人の主観でしかないので、誰かと意見が異なっても併存が可能です。

 相手に持論を押しつけるという形であるため当然、前者の方が、イラショナルビリーフ(非合理的な信念)としての側面が強いことになるでしょう。


(※2)

 本コラムでも、一応、「~すべき」「~した方が良い」という言い回しは抑えるよう心がけております。(使ってないわけではない)

 「●●をしたら、××の危険があるよ」という情報を述べるにとどめて、信じるかどうかは読者様に任せるとか。

 私が「~すべき」「~した方が良い」という言葉を使っていたら、読者さんに強く印象に残ってほしい一文であることが多いです。


(※3)

 私の主観が強く含まれますが、ゲームやアニメといったサブカルチャーを愛する人々は、強権的な物言いをする人より、自分たちと同じ高さの目線で語る人を好むことが多いような気がします。そういう意味でも、私だったら「~すべき」路線は控えるかなぁ。

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