34. 運動学習と対戦格闘ゲーム 'TURBO

 前2回では、運動学習の理論のうち、


 〇初期―フォームの正確さを身につける

 〇後期―速さと適応性を身につける


 の法則について考えてみました。

 後編では、また別の法則を使って、効率の良いトレーニングを考えてみたいと思います。


 運動を分類する一つの手段として、

 『周期運動』『断続的な運動』

 の2つに分ける方法があります。


 『周期運動』とは、始まりと終わりの区別がない同じことを繰り返す、運動のことです。【歩く】【走る】【泳ぐ】などが該当します。


 対して、『断続的な運動』とは、始まりと終わりが明確にある運動です。

 【バットを振る】【ボールを蹴る】といった動作が挙げられます。


 さて、運動学習において一般的には『周期運動』の方が、習熟の効率が良いとされています。


 たとえば、【自転車をこぐ】動作について。

 初回では、ゆっくりとこぐという練習ができない(スピードを上げないと、自転車は安定性を得られない)ので、習得につまずきやすい動作であるとお伝えしました。

 一方で、【自転車でこぐ】も、左右のペダルを回し続ける点に注目すれば、『周期運動』の一種です。

 よって、冒頭の『ゆっくり練習したいのに練習できねぇ』の壁さえ超えて、ペダルを繰り返しこげるレベルまで達してしまえば、習熟効率は一気にアップします。


 【泳ぐ】などもそうですが、何かのコツをつかんだら不意に【自転車に乗れるようになった】【泳げるようになった】という経験をした人は、意外と多いのではないでしょうか。


 このツボにはまると、一気に習熟度が早まる『周期運動』の特性が実は、対戦格闘ゲームの難易度にもかかわっているように思います。


 たとえば、【永久連続技】。

 永久連続技といえば、


 小パンチ×3 → 中キック → 少し前進 →

 小パンチ×3 → 中キック → 少し前進 →

 小パンチ×3……


 といった様に、操作に失敗しない限りいつまでも攻め続けられ、相手は何もできなくなるような慈悲のないコンビネーションを指します。


 一種の不具合、ゲームの調整ミスであり、時に大問題になる要素ですが。

 この【永久連続技】こそが、『周期運動』であり、初心者にとって厳しい状況を生み出しているのではないでしょうか。


 操作がおぼつかないプレイヤーにとって、

 『小パンチ×3 → 中キック → 少し前進』のこの1ブロックの動作を正確に行うのすら困難です。

 一方で、一度『小パンチ×3 → 中キック → 少し前進』をマスターし、次の『小パンチ×3』まで繋げることさえできれば、『周期運動』は練習効率がいいという法則が発動。すぐに【永久連続技】が習得できてしまう。


 初心者にはとても難しく、上級者には覚えるのがとても簡単なのがこの【永久連続技】なのです。


 初心者に門戸をあけて、プレイヤーの裾野を広げるためにも。また、フェアな対戦環境を成立させるためにも。【永久連続技】はやはり、無いに越したことはないのでしょう。


---


 ただ、なにも『周期運動』の特性のマイナス面ばかりに、目をとらわれず必要はないでしょう。


 対戦格闘ゲームのムーブは原則、『断続的な運動』の集合です。

 必殺技――波動拳コマンド(↓\→ + パンチボタン)などは明確に、始まりと終わりのある動作。『断続的な運動』なので練習効率が良くありません。


 でも、疑似的に『周期運動』に近づけたトレーニング場を容易できれば、初心者救済の一助になるかも。


 そこで、波動拳コマンド(↓\→ + パンチボタン)を練習させるのであれば、1回入力に成功すれば終わりではなく。

 5回成功すればミッションクリア! といった課題を与え 『グッド、グッド、グッド、グッド、グレイトォォォ!』 といった風にコンピューターに合否を判定させる。

 そんなトレーニングモードがあると、練習の効率が上がりそうです。


 かつて、『龍虎の拳』という対戦格闘ゲームに用意された『超必殺技伝授』というコーナーが、

 【30秒以内に、超必殺技のコマンドを6回成功させること】

 という、まさにこの手の連続入力のミッションに挑戦するものでした。

 思い返すと理にかなっていたように思います。

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