16.Youの脳は知ってる? 『エッジ効果』

 エッジ効果とは、その名の通り端っこの法則。

 『部屋の端――つまり壁ぎわにいると、なんだか落ち着くわぁ』という心理のことです。


 その大本は、野生動物に狩るか狩られるかの生活を送っていた、原始時代からの刷りこみだと考えられます。壁ぎわだと、敵から身を隠しやすい。

 壁を背にすれば背後を取られることがなく、死角が無くなり、部屋全体を簡単に見回すことができる。

 よって、安全な壁ぎわに居たいし、心地がいいの。という【無意識の選択】が、人間の脳内に働いているからだとされています。


 このエッジ効果を、積極的に取り入れているのが、飲食業界です。

 例えば、先日、私が秋葉原で立ち寄った、レストラン・サイゼリヤ(中央通り店)は、150人以上入れるほどの大型施設で、施設全体は正方形に近い間取りになっていました。

 ただ、正方形で広すぎる故、このままだと壁に面していない真ん中の席が大量にできてしまう。そこで、パーテーションや観賞植物を使ってテーブルの間を即席の壁を作って区切り、全ての席を強制的に壁ぎわにしてしまう。

 そうやって、多少見通しが悪くなり利便性が悪くなったとしても、壁ぎわを大量生産して、居心地のいい空間を実現していたのです。(※1)


 居心地がよければ、顧客満足度が上がり、同チェーン店をまた利用してくれる。

 レストランに長居している間に、追加注文をしてくれるかもしれない。

 ランチやディナーなどの繁忙期には、2時間程度の滞在時間に制限を設けて回転率を上げる一方で、落ち着く「いい席」を意図的に作り出し、利益の最大化を果たしているわけですね。


 こんな感じで、『エッジ効果』自体は、とてもシンプルな法則です。

 なぁんだ、その程度のことか。と、思われたか方も多いでしょう。

 ただ、レストランの間取りで、この法則が利用されていることに気づいていた人は、どれだけいるでしょうか?


 上記のサイゼリヤに限らず、大手レストランチェーン店を観察してみると、大半がこの『エッジ効果』が活かされた間取りがなされていることに気づかされます。

 また、ビルの中にあるテナント(貸店舗)の多くは、まるで江戸時代の長屋の様に、一区画が【長方形】になるよう設計されています。【正方形】の間取りより、壁ぎわが多くなるという点においても理にかなっているでしょう。(※2)


 食事処を利用すれば誰しもが体験しているはずなのに、確かに認識できているとは限らない。こんなことは、コンテンツ開発現場でも、ままある気がします。


 たとえば、私は14年間、美少女ゲームの開発をしていましたが、その過程で【成人向けのソーシャルゲーム】のタイトルとのコラボを何度か仕掛けました。

 プラットフォームこそはちょっと違うけど、R18タイトル同士。従妹みたいな立ち位置です。が、打ち合わせの過程で、美少女ゲーム業界のお約束が、ソーシャルゲーム開発の先方に通じなかったことがありました。(※2)

 また、反対に、ソーシャルゲームのスタッフから見ても、「こいつら、わかってねえぇなぁ」ということも、あったことでしょう。


 知識という財産は、ちょっと住処が違うだけで、我々が想像している以上に分断されているもののようです。


 前向きな言い方をすれば、異業種から学ぶ点はとても多いといった感じでしょうか。『エッジ効果』に関していえば、行動心理学の分野に入るのでしょうが、意外な学問に目を向ければ新しいサービス改善のヒントは得られるかも。


 アクセス解析や、ユーザーアンケートの結果から教訓を得るのも大事。

 ですが、違う畑からやってきた専門家から助言をもらうというのも、同じくらい貴重なのだと思います。



(※1) しかも、壁の下側は不透明な木製。壁の上側は透明なアクリル製。

 つまり、立っている時、移動している時は見晴らしがよく、席で座っている時は視界が遮られ、エッジ効果が発動する仕掛けになっている。


(※2) 反対に、ショッピングモールなどのフードコートだと、見通しのよさが重要視され、テーブルが区切られていることは稀。その理由を考えると、お店サイドの色々な目的意識が見えてきそう。


(※3) 例えば、雑誌に特集記事を組んでもらう場合の締め切りとか。印刷媒体はかなり締め切りが早く、Web媒体特有のギリギリでタイトなスケジュール感覚で動いていると、ことごとくで間に合わず、色んなチャンスを逃してしまう。

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