9.『コンセプトワーク』大作戦! 後編

 コンセプトの活用について学んできたシリーズも、ついにラスト。

 今回はオリジナルの題目で、『1.基本コンセプト』『2.商品コンセプト』『3.表現コンセプト』の展開方法をなぞっていきたいと思います。


 さて、肝心のお題目ですが、『Vtuber』と『ソーシャルゲーム』としたいと思います。

 ソーシャルゲームは、いうまでもなくゲーム業界の主戦場。

 『Vtuber(ブイチューバ―)』といえば、二次元のキャラクターに音声を当ててYoutubeで活動するバーチャルアイドルなどを指しますが、2016年に誕生して以来、ネット界隈でだいぶ一般化した感があります。


 一時の熱気はひと段落しましたが、誕生してまだ3年程度。

 進化する余地があるはず! 我がその旗振りをしたい! なんて熱い思いを秘めたクリエイターになってみましょう。ただ、その情熱だけでは人は動かせません。


 『Vtuber』の長所を踏まえつつ、開発サイドにとっても、利用者にとっても、メリットのある企画に組み立てるのが、今回のコンセプトワークの課題になりそうです。


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●1.まずはVtuberの特性を分析


 企画の肝になりそうですので『Vtuber』の特性を、おさらいしたいと思います。


○Vtuberは広告塔になる

 Yutube全体の傾向ですが、人気のユーチューバーに自社商品を紹介してもらう。など、チャンネル内でコンテンツを紹介して認知度を上げるという販促行為が、一般化しています。


○定期的に配信しなければならない

 Vtuberを含むユーチューバーは、理想では毎日、少なくとも2・3日に1回は新しい動画を投稿するのが作法です。でなければ、すぐに人々から忘れ去られます。

 常にリソースが割かれるという意味では、大きなデメリット。

 しかし、『キャラやコンテンツを露出する頻度が増える』という発想の転換ができれば、メリットにも化けそうです。


○ファンとのコミュニケーションが重要

 Youtubeでの生配信で顕著ですが、視聴者のコメントを受けてVtuberが反応を返してくれるという双方向コミュニケーションも、この方式の目玉でしょう。


 ザッと浮かぶ範囲だと、こんな感じでしょうか?

 利用無料のYoutubeがプラットフォームになる以上、直接ここで、大きな利益を得ることを考えるよりは、販促の一環として捉えるのが妥当。

 有名チャンネルとのコラボ企画は、よく見られる例ですよね。同様に、販促・広報の一環として、位置づけたいと思います。


 ただ、今回はさらに一歩推し進める感じで。

 ゲームとセットで、オリジナルVtuberを送り出す形でいろいろと、妄想してみたいと思います。


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●2.『基本コンセプト』を考える


 まずは結論から。

 2・3時間くらい筆者が頭をひねった結果の、仮想新作ソーシャルゲームの『基本コンセプト』をまとめてみました。


A:『ほぼ毎日、更新されるコンテンツ』

 ソーシャルゲームが成功するかの指標に、定期的(毎日・週一など)にプレイするアクティブユーザーの数があります。

 そこで、ゲーム内イベントに加え、後述の公式バーチャルユーチューバーの仕組みも利用して、『平日は毎日更新されるゲーム』を実現! 毎日、大勢を集客できる、環境を実現します。


B:『魅力的なキャラクター』

 ゲーム内の世界を5大国に分け、その代表として魅力的なキャラを設定します。

 キャラクターデザインは、○○先生が担当!


C:『公式Vtuber配信で露出度アップ』

 ゲームリリースに合わせて、上記の5大国の代表がバーチャルユーチューバーとしてデビュー! 月間19億人がアクセスする動画サイト、Youtubeで、彼らが平日毎日、ゲームの情報を配信します。新規ユーザーを獲得すると同時に、成績優秀プレイヤーや陣営を配信内で紹介するなど、ロイヤリティを高める手段としても活用します。(※1)



 初だしのアイデアもあるので解説します。

 まず、【A:ほぼ毎日、更新されるコンテンツ】から。

 定期的にゲームをチェックしてくれる人の方が、プレイの熱が高い。故に課金もしてくれるはず――という傾向に異論はないと思うのですが、今回はその対策として、『ほぼ毎日、更新されるコンテンツ』を目標にしてみました。


 毎日、新しいがそこにあるから、毎日、プレイヤーがチェックしてくれるという論法ですね。ただ、本当に毎日、新機能を追加すると、開発サイドが過労で死んでしまうので、以下の2つの手法を併用します。


 まずは、ピックアップガチャの採用。

 これは、任天堂発のソーシャルゲームの中でも成功している『ファイアーエムブレム・ヒーローズ』などでも採用されている手法ですが、【例:スキル×××を持つキャラクターたちの排出率が高い、ピックアップガチャ】というのを、2・3日ごとに開放します。


 新機能や、新キャラを2・3日ごと提供するのはしんどいですが、過去キャラの復刻ガチャであれば、提供可能でしょう。


 もう1つの方策がこの仮想企画案の目玉である、『公式Vtuber』の配信です。ゲーム開発・運営班とは別に、『公式Vtuber』配信班を組織。

 コンテンツ本体内で更新がない日も、『Vtuber』の新作動画を配信することで、『ほぼ毎日、更新されるコンテンツ』を、実現しようという狙いです。



 続いて、【B:魅力的なキャラクター】については、冒頭の説明文の通り。

 世界を5大国にわけたのは、それぞれの代表を、平日の月火水木金・曜日に対応して分担できれば、後述のVtuber配信の際に理想的と考えたからです。


 最後に、【C:公式Vtuber配信で露出度アップ】ですが、日替わりで、各国の代表キャラが、新作動画を配信するイメージです。

 1キャラが配信するのは、平日の特定の曜日だけ(週1回)の想定。


 もし、対象キャラ(5人)全員を、主力Vtuberとして活動させるのが難しいのであれば、『A国の少女姫は引きこもりのため、いわゆるゆっくり系動画で済ませようとする』『でも、みんながこの国に所属して活躍すれば、Vtuberデビューするかもね』など、理由付けをして、活躍度に差をつけてもいいかもしれません。(※2)


 以上、Vtuberの特性(定期的に更新しなければファンがつかない)を逆手にとって、世界初の『ほぼ毎日更新されるゲーム(土日を除く)』を目指す、企画にしてみました。(※3)(※4)


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 さて、ここまでVtuberとソーシャルゲームの組み合わせならではの活用法を、追及してきましたが、販促のことばかりでコンテンツ内の面白さには、ほとんど言及できていません。


 ゲームは面白くてナンボ。

 これでは、企業の都合ばかりで、商品失格です。

 そこで、コンセプトワークを1歩進めて、『基本コンセプト』→『商品コンセプト』に発展させたいと思います。


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●3.『商品コンセプト』を考える


 原始的な狙いを定める『基本コンセプト』から、ユーザー視点を入れてより具体化したのが、この『商品コンセプト』です。

 ただ、今回の企画案については、『C:大興奮のトレジャーハント! ダンジョン探索!』を追加した以外は、テキストの微調整で終わっています。


A:『毎日、新しいがあるコンテンツ!』

 ソーシャルゲームが成功するかの指標に、定期的(毎日・週一など)にプレイするアクティブユーザーの数があります。

 そこで、ゲーム内イベントに加え、後述の公式バーチャルユーチューバーの仕組みも利用して、『平日は毎日更新されるゲーム』を実現!

 毎日、人が集まり、プレイヤーに新しい発見がある環境を実現します。


B:『魅力的なキャラクターリーダー』

 ゲーム内は5大国に分かれており、その代表として魅力的なキャラクターが登場。

 キャラクターデザインは、○○先生が担当!

 ダウナー引きこもり姫や、甘やかしすぎる王女たちが、プレイヤーたちを応援します!


C:『大興奮のトレジャーハント! ダンジョン探索!』

 プレイヤーは、5大国のいずれかに所属し、巨大なダンジョンに挑戦!

 探検の成果はキャラとお宝――見える成果として、コレクションが可能です。

 ゲームシステムは、人気ソーシャルゲーム『艦隊これくしょん』でおなじみの、ハックアンドスラッシュ=適度に緊張感のあるRPGを採用します。(※5)


D:『公式Vtuber配信で露出度アップ』

 ゲームリリースに合わせて、上記の5大国の代表がバーチャルユーチューバーとしてデビュー! 月間19億人がアクセスする動画サイト、Youtubeで、彼らが平日毎日、ゲームの情報を含めて配信します。

 新規ユーザーを獲得すると同時に、成績優秀なプレイヤーや陣営を配信内で紹介するなど、ロイヤリティを高める手段として活用します。



 と、このようにゲームシステムは、ハックアンドスラッシュを採用しました。

 今回の企画は、『成績優秀者はVtuberに褒められる』のを売りにしているため、プレイヤーの腕が、成功・失敗に反映される形が望ましいからです。


 そういう意味では、トレーディングカードゲームや、アクション系も候補に入ります。昨今の流行りである、eスポーツとのからみも期待できそうですね。


 ダンジョン探索をメインにしたのは、ハックアンドスラッシュと相性がいいから。

 成功失敗にこだわるゲームシステムであれば、ただのポイントより、【お宝をたくさん獲得してウハウハ!】の方が、プレイヤーが燃えると思いますので、トレジャーハントをモチーフにしました。(※6)


 トレジャーハンターという職業を知らない人も、人気コミック『HUNTER×HUNTER』に登場するハンターならば聞き覚えがあるでしょう。


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●4.『表現コンセプト』を考える


 ここまででおよその販促方法と、ゲーム内容が固まりました。

 最後に、表現コンセプト――ユーザーが見てワクワクする、好感を持ってもらえる表現にコンセプトを書き換えましょう。


A:世界初の『毎日、新しいがあるゲーム!』

 ついに、世界初の『ほぼ毎日更新されるゲーム』が登場!

 毎日、遊べば、毎日、新しいワクワクが見つかる!

 365日、プレイしても飽きない、1万回遊べる大作ゲームの登場です!


B:『魅力的なキャラクターリーダー』

 ゲーム内は5大国に分かれており、その代表として魅力的なキャラクターが登場。

 キャラクターデザインは、○○先生が担当!

 ダウナー引きこもり姫や、甘やかしすぎる王女たちが、あなたを応援します!


C:大興奮のトレジャーハント! ダンジョン探索!

 プレイヤーは、5大国のいずれかに所属し、巨大なダンジョンに挑戦!

 探検の成果は、新しい女の子の仲間や、伝説の武器や、黄金色の財宝! コレクションがはかどります。キャラを愛でたいだけの人も、こだわり派のゲーマーも納得のハックアンドスラッシュ=ダンジョンRPGを採用しました。


D:『公式Vtuber配信で露出度アップ』

 ゲームリリースに合わせて、5大国の代表がバーチャルユーチューバーとしてデビュー! Youtubeで、平日毎日、ゲームの情報を含めて配信します。珍しいお宝が発見できれば、彼らが祝福してくれるかも!? 最新情報もお送りします。


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 以上、『新規ユーザーの獲得』やら『ロイヤリティ』やら、プレイヤーが目にすると冷めてしまう単語を省きました。


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●5.『コンセプトワーク』まとめ


 ここまで、コンセプトワークの展開の仕方をなぞるために、架空の企画を立ててきました。

 『Vtuber』と『ソーシャルゲーム』を組み合わせたいという、発想からスタートし、『世界初の毎日更新されるゲーム』を発案。

 さらに、それに合うゲームシステムである、『ハックアンドスラッシュ』『お宝収取ゲーム』を付加。最後に、商売の臭いを消して、ユーザーにとっての面白さ・メリットを紹介する文章に昇華しました。


 このように原案を、ブラッシュアップしてより良いものにしていくこと。

 開発サイドのメリット→利用者のメリットに繋げるのが、コンセプトワークの神髄であり目的です。


 ……え? こんな企画、金がかかりすぎて、現実的じゃない?

 いーじゃん、妄想なんだから。自由にさせてくれても。


 ただ、昨今の、イラストやアニメーションにお金をかけてクオリティを上げるスタイルは、そろそろ限界が見えてきている気がします。

 人気IPとのコラボに頼るスタイルも、数年後には種が尽きるでしょう。

 仮にヒット作になっても、借り物のIPを使っての成功では、自社の資産にはならないですしね。


 こういう新しいことに挑戦して、自社の武器を増やすことに意欲的な企業さんが、そろそろ増えてきてもいいのかなという気もします。


(※1) ロイヤリティ

 顧客の愛着度。社員の忠誠心。知的財産の使用料のこと。

 この文章中では、冒頭の意味で使用。ロイヤルティとも。


(※2) ゆっくり系動画

 『softalk』などのゆっくりボイス、テキストを読み上げる機械音声を使って、ゲーム実況や解説を行う、動画のこと。キャラクターのイラストを動画に登場させて、彼ら彼女らが喋っている体で、漫才風に進行することが多い。

 マイクやスタジオ、美声の持ち主でなくても、音声を含む本格的なコンテンツが創れるのが魅力。

 一方で、機械音声であるためか、Youtubeでの収益化の認定が難しいなどの問題が発生し、まさに今、過渡期にある。


(※3) 似たような販促を行ったのが、2015年に放送されたアニメ【モンスター娘のいる日常】。【 ほぼ毎日◯◯!生っぽい動画 〜実録!モン娘の60日〜】と称し、アニメ放送期間中の平日は日替わりで、新作のWebアニメをニコニコ動画で配信した。

 また、ジャンルは違うが、AbemaTVで毎週月~金曜日に放送されている『声優と夜あそび』や、テレビ朝日で月~木曜日に放送されている『お願いランキング』など、テレビ放送のバラエティ番組では、毎日配信は割と一般的か。


(※4) 曜日替わりという点に注目すれば、特定の曜日にだけ解放されるダンジョンを実装するという手も。つまり、『ほぼ毎日、更新されるコンテンツ』というのは、実は既存のサービスの組み合わせでさほど難しくなく、実現が可能。

 なので、キャッチフレーズとして『毎日更新するぜ』と言い切る勇気と、コミュニティの楽しそうな様子を『Vtuber』と絡めて外に発信するのが、本企画案のオリジナリティであり肝だといえる。


(※5) ハックアンドスラッシュ

 ゲームのジャンルの1つ。

 【戦闘準備→ダンジョンなどに突入→財宝ゲット→また戦闘準備→ダンジョン……】というルーチンを繰り返す、作品を指す。

 撤退すべきか、ダンジョンの奥へ進むべきかを常にプレイヤーに問うような、緊張感と戦略性、目的達成時の射幸性、中毒性の高いものが多い。

 ローグ系、不思議なダンジョン系、DIABLOのほか、艦隊これくしょんや、ウィザードリィなどが代表的。


(※6) トレジャーハンター

 遺跡や深海、沈没船、秘境に潜り込み、宝を探す人。

 お宝目当ての、冒険家・探検家のこと。世界でもっとも有名なトレジャーハンターは、インディ・ジョーンズ博士か。

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