14.『ソフトベンダーTAKERU』の思い出
ソフトベンダーTAKERUは、1986年~1997年まで日本国内で稼働していた、世界初のパソコンソフトの自動販売機です。
主に取り扱っているのは、PC-98、MSX用をはじめとするパソコンゲーム。
日本全国に300台ほど端末がおかれ、そこから数百種類以上の候補からソフトを選んで自由に購入することができました。(※1)(※2)
ただ、まさかこの物量のソフト全てを端末本体に蓄えるのは、スペース的に不可能ですので、そこで一工夫。
【A】という商品を選択し料金を入れると、全国に一か所だけにあるホストコンピューターにアクセス。
【A】というソフトの情報だけをダウンロードします。
全国300か所の端末には、データが入っていない空のフロッピーディスクが用意されており、そこにソフトの情報を書き込んで商品をその場でクラフトしてしまうという豪快な仕組みでした。(※3)
どこかで、覚えがあるシステムだなと思案を巡らせてみると、現代でいうダウンロード販売に非常に近いサービスであったことに気づきます。
今でこそ、パソコンやスマートフォンでデータをジャンジャンやりとりしていますが、ソフトベンダーTAKERUの可動当時は、インターネットすら実用化されていなかった頃。(※4)
パソコン通信という手段もあることはありましたが、高嶺の花で、パソコン所有者でもネット環境を整えているのは、少数派でした。(スマホは影も形もない)
ネット配信がまだ未来の技術とみなされていたころに、パソコン通信の専用端末を全国に配置するという力業で、ダウンロード販売を実現したのが、ソフトベンダーTAKERUの正体だったのです。
なお、これ以外にも、先進的な取り組みがなされており、
・数年前の人気ゲームをベスト版として、お安く販売(※5)
・同人ソフトも取り扱う(※6)
・ダウンロード販売なので原則、売り切れがない。
・ソフトベンダーTAKERUでしか買えない、オリジナルゲームもリリース(※7)
と、このあたりも、現在のダウンロード販売のメリットを先取り。
また、操作系には当時珍しかった、タッチパネル操作を採用。2004年に発売して大ヒットを飛ばしたニンテンドーDSを、10年以上も先取りした、意欲的なサービスでした。
ただ、残念ながら、商業的には成功といえなかったようです。
ネット環境が未熟だった当時、通信費が高くついたのが原因の模様。
TAKERUを開発したのは、ミシン製造や通信カラオケ(JOY-SOUND)でも活動していた、ブラザー工業で、カラオケと通信網を共有するなどして、経費削減の工夫をこらしていたようなのですが……。それでも赤字体質から抜けられなかったそう。(´;ω;`)ブワッ
ダウンロード販売が盛況な昨今と比較しても、アイデアは完璧。ただ、送り出した時代だけが悪かった。そんな悲哀と業を背負った、ソフトベンダーTAKERU。
彼との記憶がときどき、私の耳にささやいてくるのです。
かつて失敗したサービスでも時代が変われば、あるいはちょっとだけ工夫を加えれば、スタンダード化するほど劇的ヒット商品に変貌すると……。
それこそ、ソフトベンダーTAKERUと、ダウンロード販売の関係のように。(※8)
(※1) PC-98、MSX用をはじめとするパソコンゲーム
他にも、FM TOWNS、Macintosh、X1、PC-88、Windows、X68000などに対応。
家庭用ゲーム機に例えれば、ニンテンドースイッチ、PS4、X-Box360の主力機からはじまり、WiiやDS、PS2などの旧世代ハードの懐ゲーまで買えるイメージ。
(※2) 端末が置かれていたのはパソコンショップとか。筆者の地元では、なぜか文房具屋にも設置されていました。
(※3) フロッピーディスク
磁気ディスク。磁気を使った記録メディア。今でいうスマートメディア。CD-ROMやDVD-ROMが普及するまで、パソコン用の記録メディアの主力だった。
(※4) マイクロソフトのOS、Windows95(1995年発売)の登場からインターネットが普及しはじめたので、厳密にいえばソフトベンダーTAKERUの活動末期には、インターネットと多少、競合していました。
(※5) 例:信長の野望・三国志シリーズ
(※6) 例:宝魔ハンターライム、DOKIDOKIプリティリーグなど。ただし、後に家庭用ゲーム機に移植されることも。
(※7) 売れた本数に応じて、製作者にロイヤリティが払われるなどまさに、今の同人ソフト流通と同じような仕組みだったようです。
インターネットがない当時、コミケ以外に同人ソフトの販売量&露出機会は少なく、ソフトベンダーTAKERUが、ゲームカタログそのものになっていました。
(※8) 近年の例でいえば、NEOGIO-X(2012年発売)。1990年代にゲームセンターで稼働していたゲーム30本をパックしたゲーム機で、後のファミコンミニ、スーパーファミコンミニの手法を先取りしていました。
また、NEOGIO-Xは、据え置きゲーム機、携帯ゲーム機の両方として使えました。これも、ニンテンドースイッチを先取りしていたと言えましょう。
でも、NEOGIO-Xは、ほとんど売れなかったという。なんでや!
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