12.アメリカンピザとゲームの歴史
日本人にとってピザといえば、アメリカの国民食のイメージ。ですが、その起源は紀元前のヨーロッパ。特に地中海の沿岸で、誕生したといわれています。
薄く伸ばしたパンを『食べられる皿』として使い始めたのが始まりで、16世紀にトマトが南米大陸からヨーロッパに伝来(※1)。18世紀にイタリアのナポリで、チーズとトマトを用いたピザが生まれ、イタリア王女がいたく気に入ったため、彼女の名を取って『マルゲリータ』と名付けられました。
アメリカにピザが伝わったのは、19世紀末のこと。
ヨーロッパから、新大陸アメリカに移住する入植者の中に、イタリアのナポリ人も含まれ、故郷の味としてピザを持ち込みました。
ナポリ系のパン職人、ジェナード・ロンバルディが1905年にニューヨークで、北米で初めとなるピザ専門店を開業。ニューヨークはアメリカ大陸入植の玄関港であり、行きかう多様な民族の間でピザの味が広まり始め、後にこの料理の本場のひとつにニューヨークが数えられるようになりました。(※2)
さて、ここまで数々の進化を遂げて、我々の知っているピザにだいぶ近づいてきましたが、完全体になるには、またアメリカの国民食になるには、もうひと工夫必要でした。
1933年にパッツィ・ランシエリが、ピザのカット売りを思いついたのです。
それまでピザは常に丸いホールのまま提供され、レストランでテーブルについて食べる。また、たとえ持ち帰ったとしても、座って食べるものと見なされていました。
パッツィはこの常識を破り、小分けにカットした、『スライスピザ』を発案。
・片手サイズで、歩きながら食べられるファーストフードに進化
・小腹が空いたときにちょうどいい、食べきりサイズに
と、お客さんのウォンツを満たして、大ヒット。
また、お店にとっても、
・一枚の大判ピザをカットすることで、大勢の人に売ることができ、利益率アップ
・ピザの食べ歩きする人が、無料の広告塔になってくれるよ
と、Win×Winのいいことづくめの販売法でした。(※3)
その後、1950年~60年代に宅配ピザのシステムが考案され、今も日本人も目にする、パーティ食の地位が確立され、現在に至ります。
幾つものステップを踏んで、現代の形に進化したピザですが、私的に慧眼だと思うのは、1933年の『ピザのカット売り』しょうか。
ただ、ピザをカットするだけ。
ノウハウも費用もかけずそのアイデアだけで、お客さんのニーズを満たした。ピザを後の世に残る形で進化させました。
しかし、その単純な閃きにたどり着くまで、アメリカにピザが伝来してから30~40年。地中海の『食べられる皿』から、1000年以上も要したわけです。
慣用句で表せば『コロンブスの卵』ということになるのでしょうが、その一見シンプルな閃きに着想するまで、驚くほどの月日を要しました。
商業TVゲームの歴史が、およそ50年。(※4)
私がかつて活動していた美少女ゲーム業界の歴史が、およそ40年。
ソーシャルゲームに至っては、10年そこそこです。
ピザの歴史を鑑みれば、まだまだゲームというジャンルも完成には程遠い。
まだ認知されていない『コロンブスの卵』的なアイデアが残されているのではないかと、期待してしまいますよね。
(※1) トマトの原産地はアンデス山脈(南米のペルー)。メキシコで栽培されていたのを1522年にスペイン人が発見、ヨーロッパに持ち帰った。ただし毒があると誤解され、ヨーロッパでも、その後伝来した日本でも、当時はもっぱら観賞用だった模様。
(※2) アメリカ初のピザ専門店
ピザの売り買いは以前からなされていたが、ニューヨーク州の商業許可書を獲得した正式なお店としては、1905年のジェナードの店が最初とされている。
(※3) 大勢の人に売ることができ、利益率アップ
例えば、1枚2000円の大判ピザを、8等分して1切れ300円で売るとする。
すると、300円×8=2400円の売り上げになって、お店ウハウハ。
購入者としては、大判ピザを買った方が費用対効果がいいわけだが、『2000円払わないと食べられなかった味が、(少量といえども)たった300円で食せる』ため、不公平感よりお得さが勝る。
(※4) 商業TVゲームの歴史、およそ50年
起源にも諸説あるが、今回は、世界初のアーケードゲーム『コンピューター・スペース』(1971年)の発売を基準にカウント。
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