第1.19話 用語集

平面

-三平面

 九世界を構成する3つの平面のこと。上からアースガルド、ミッドガルド、ヘルモードである。すべての平面はいずれも世界樹ユグドラシルによって貫かれている。

「平面」というのはあくまで呼称であり、個々の平面はけして滑らかだったり均一ではない。またひとつの平面がひとつの大地のみで構成されているわけでもない。


-第一平面アースガルド

 三平面のうちの最上層。神と呼称される民族が住む。

 中央の平野部に第一世界グラズヘイムが存在し、その東側の森林部に第二世界ヴァナヘイムと第三世界アールヴヘイムが存在する。西側には広大な大草原ヴィグリードが存在しており、多くの動植物が暮らしている。

 面積は三平面のうち最小。基本的に常に温暖であり、冬でも雪は降らないほどである。ただし第二平面に近い西側は例外的に強く季節の影響を受ける。


-第二平面ミッドガルド

 三平面のうちの中層。人と呼称される民族が住む。

 中央の大山脈で東西に分割されており、西側から山脈にかけてが第四世界ヨーツンヘイム、山脈から離れた東側の狭い領域が第五世界リュッツホルムである。また東側の南部に第六世界スヴァルトアールヴヘイムが、中央山脈の北部にニダヴェリールが存在しているといわれているが、黒妖精族や小人族の住処に辿り着ける者は少ない。

 三平面のうち最大。また他の平面と違い、広大な海があるのが特徴的である。広大な海洋には世界蛇ヨルムンガンドが巣食う。


-第三平面ヘルモード

 三平面のうちの下層。亡者と呼称される者たちが住む。

 太陽の日さえも僅かな時間しか届かず、第一平面や第二平面からの行き来の手段が限られているヘルモードの地理についてはあまり知られていない。しかし大きく分けてふたつの階層が存在していることは発覚しており、上層は第八世界ニヴルヘイムであり、それから遥か深くに潜った場所に第九世界グニパヘリルが存在しているといわれている。

 第一平面・第二平面から隔絶された場所であるため、その詳細は明らかではない。第二平面からの観察では、ミッドガルドよりは小さいがアースガルドよりも大きな面積があるといわれている。しかしあくまでこれは平面的な大きさに限った話であり、深度を考えるとミッドガルドよりも遥かに広い世界が広がっていてもおかしくはない。




九の世界と人種・民族

-第一世界グラズヘイム/アース神族

 第一平面アースガルドの中央から西にかけてに存在するグラズヘイムであるが、そのほとんどの神口じんこうは平面中央にある首都ヴァルハラに集中している。ヴァルハラは巨大な石壁によって囲まれており、幾度の戦争を経験しながら一度として侵略されたことがない。

 グラズヘイムに住まう民族はアース神族である。そのほとんどは黒か白の髪色であり、体格はそれほど良くはないうえ、神口もそれほど多くはない。しかしながら数多くの〈神々の宝物〉を持つうえ、第四世界リュッツホルムから連れてきた人間族を奴隷兵〈狼被りウーフヘジン〉として使役することで、非常に強力な軍隊を動員することができる。食事の場ではエール酒と蜂蜜酒が好まれる。


-第二世界ヴァナヘイム/ヴァン神族

 ヴァナヘイムは第一平面アースガルドの東部に存在する森林・平野部に住まうヴァン神族の世界である。アース神族よりも神口じんこうはさらに少ないうえ、土地の各地に散って農耕や狩猟を営んでいるため、神口密度は非常に低い。しかし一度戦となれば各地から屈強な戦士が集い、森林を利用したゲリラ的戦略を得意とする。

 ヴァン神族は肌が白く、長身痩躯なのが特徴的である。髪色はアース神族と比較してやや薄く、全体的な容姿としては巨人族にむしろ近い。また、植物や動物に関する知識が豊富な者が多い。アース神族と同様、所有する〈神々の宝物〉も多いが、前戦争でアース神族に事実上の敗北を喫し、結果として多くの〈神々の宝物〉を奪われる形となった。


-第三世界アールヴヘイム/妖精アールヴ

 アールヴヘイムは第一平面アースガルドの北東部の深い森林地帯に存在するといわれている光の妖精アールヴたちの世界である。アールヴはアースガルドに住まう民族の中では唯一「神」として呼称されない民族である。この理由はその姿が他の二神族と大きく異なっているためであると考えられる。

 アールヴたちは非常に小柄で、人神じんしんの赤子程度の大きさしかない。手足や頭のサイズは人神の赤子よりも発達しているが、身体は弱く、人神に掴まれただけで骨が折れるほどである。そのぶん体重は軽く、背中に生えた翅によって短時間飛行することができる。この翅は鳥のそれよりは虫に近い。アールヴたちはアールヴ同士でコミュニケーションを取ることができるようだが、人神には声は聞こえず、会話がどのように行われているかは窺い知れず、その思想や文化形態にも不明な点が多い。

 かつては数多く存在していたといわれるアールヴだが、既に多くが人神の前から姿を消してしまっており、その姿を見ることはできない。未だアールヴという種族が存続しているのかさえ不明である。


-第四世界ヨーツンヘイム/巨人族

 九世界のうち、もっとも広い面積を占め、人口が多いのは第二平面ミッドガルドの第四世界ヨーツンヘイムに住まう巨人族である。その名の通り、巨人族の男の多くは他の民族・種族と比較して非常に大柄であり、筋肉質である。そのため、彼らは優秀な戦士となる。一方で女はむしろ小柄なほどで、アース神族よりも身の丈が低いものが多い。ヨーツンヘイムは広く、巨人族はさまざまな場所に住んでいるため、その容姿もまたさまざまではあるが、多くは肌が白く髪色は薄い。その雑多な民族性によって食文化は最も発達している。

 首都であるウトガルドはミッドガルド中央やや東側を貫く大山脈の中の平たい盆地の中に存在する。この場所は巨人族のお伽噺によれば、酒に酔った〈大きい野郎スクリューミル〉という巨大な巨人族が山の中に寝転んだ拍子にできたものであるといわれているが、真実は定かではない。険しい山脈は天然の要塞であり、幾度の戦争でもウトガルドが侵略されたことはことはない。


-第五世界リュッツホルム/人間族

 第五世界リュッツホルムは第二平面ミッドガルドの東部に存在する狭い領域であり、人間族の世界である。平面東側は西側と比較すると温暖な第一平面アースガルドからやや離れているため、特に冬は寒冷である。根深い雪による照り返しのためか、多くの人間族の肌は浅黒く、髪は黒色のものが多い。

 人間族は平面を跨いで存在する唯一の種族ではあるが、第一平面アースガルドの第一世界グラズヘイムにいる人間族は、人間族とみなされないことが多い。《狼套ウーフヘジン》という〈神々の宝物〉をアース神族によって被せられた彼らは〈狼被りウーフヘジン〉あるいは〈狂戦士ベルセルク〉と呼ばれる洗脳奴隷と化しており、本人の人格は奪われているためである。なぜアース神族がヴァン神族や巨人族ではなく人間族を奴隷兵として利用するかは不明だが、第五世界リュッツホルムと第一世界グラズヘイムとの行き来が可能なのではないかという推測がされている。

 なお人間族という呼称は巨大な巨人族と卑小な小人族の中間の人であることから名付けられた。


-第六世界スヴァルトアールヴヘイム/黒妖精スヴァルトアールヴ

 第六世界スヴァルトアールヴヘイムに住む黒妖精族の名は第三世界アールヴヘイムに似てはいるが、種族的性質や民族的特徴は大きく異なる。最大の相違点は身体的特徴にあり、幼体の頃は肌が浅黒い以外は妖精族に似ているが、成長するに従い翅が小さくなり、他の人神に近い容姿となる。

 黒妖精族は第二平面ミッドガルドの東南部にある深い森の中で生活をしており、他民族にはその民族形態や生活様式などは知られてはいない。隣接している第五世界リュッツホルムとの異種間交配はスヴァルトアールヴヘイムでは一般的な行為ではあるが、婚姻というよりも誘拐であり、人間族からは忌み嫌われている。


-第七世界ニダヴェリール/小人族

 第七世界ニダヴェリールに住む小人族は、その名の通り(妖精アールヴや者によって大きく形態を異なる亡者を除いて)他の人神よりも小柄であり、成人しても他種族の子ども程度の大きさしかない。基本的に彼らは狩りが増えてであり、野の獣に天敵が多いため、ミッドガルド中央の大山脈にできた洞穴の中で生活している。

 ニダヴェリールの小人たちの多くは手先が器用であり、優れた鋳造技術を持つ。天地創造神話の中では、小人たちは〈原初の三人〉であるヴィー、ヴェリ、オーディンたちの命を受け、数多くの〈神々の宝物〉を作り上げたといわれている。しかし彼らは魔術そのものを理解していたわけではないうえに現在ではその技術は既に失われており、何度か新たな〈神々の宝物〉を作り上げようとする試みはあったようだが、それらは成功していない。


-第八世界ニヴルヘイム/亡者

 第八世界ニヴルヘイムは第三平面ヘルモードに存在している。ヘルモードにはニヴルヘイム以外には第九世界グニパヘリルしかなく、グニパヘリルは深部の一地域でしかないため、ヘルモードのほとんどはニヴルヘイムであるといっても過言ではない。〈霧の国〉という呼称があるとおり、常時発生している霧のために差し込む光は少なく、昼でも常に薄暗い。また熱エネルギーの供給源である〈世界樹ユグドラシル〉も細い根しか存在していないため、総じて寒冷な気候であり、食料も水も限られている。

 ニヴルヘイムの亡者と呼ばれる存在は、第一平面や第二平面に住む多くの者にその呼称だけは伝わっているが、その容姿や性質、なぜ亡者と呼ばれるかを知るものは、実際に亡者と触れ合ったことのある一握りに限られる。亡者とは死者や生ける屍を指す言葉ではなく、人神じんしんからときおり生まれる、通常の人神とは異なる形質を備えた者の呼称である。その異形によって恐れられ、産まれた子はニヴルヘイムに捨てられて亡き者とされる。これがニヴルヘイムの民族が亡者と呼ばれる所以ゆえんである。ほとんどの亡者はニヴルヘイムに捨てられた時点で死亡するが、生き残った亡者は世界樹ユグドラシルの根を伝って己の故郷に帰る日々を待ち望んでいる。

 異形の性質は種々様々であるが、たとえば半死者ヘルであれば腰から上は普通の巨人族とまったく変わらない一方で、世界蛇ヨルムンガンドは翼の生えた巨大な蛇の形をしている。なお亡者は遺伝しやすいといわれており、亡者が産まれた家庭は人里から離れた場所に退くことが多い。


-第九世界グニパヘリル/〈獄犬〉

 第三世界ヘルモードに存在する世界。下層であるヘルモードの中でも深部に位置し、亡者さえも寄り付かない場所である。かつて〈九つの災厄〉のひとつである獄犬ガルムが生息していたといわれるが、現在ではどのような状態なのかも定かではない。

〈獄犬〉は九世界に巣食う災厄のひとつである。他の災厄は外部からやって来るものだが、〈獄犬〉は世界樹ユグドラシルから発生した存在であるとされている。




神物・人物

-イドゥン

〈黄金の林檎〉。栗色の髪を持つヴァン神族の少女。

 父であるヴァン神族の首長である世界樹の管理人ニヨルドと兄である妖精王フレイとともに、前戦争での和睦の使者として第一世界グラズヘイムへとやってきた。しかし戦争の予兆を受け、第三世界アールヴヘイムの近くにある森に居を構えている。

 ほとんど知られてはいないが父や兄とは血の繋がりはなく、ニヨルドによってどこからか連れてこられている。

 懐中時計のような形状の《金環ブリーシンガメン》を常に首から下げている。


-ヴェー

未来スクルド〉。九世界創生譚の〈原初の三人〉のうちのひとり。栗色の髪の利発な少年。


-ヴィリ

過去ウルド〉。九世界創生譚の〈原初の三人〉のうちのひとり。亜麻色の髪の少女。内向的。


-ウトガルド

〈夜の番人〉。巨人族のかつての首長。第四世界ヨツンヘイムの都市も同じ名であるが、これはかつて存在したという巨人族の古い首長に由来する。


-ウル

〈雪目〉。アース神族軍に所属するアース神族。

 もともとは軍人ではなく、弓の腕を買われてに身を置く狩人である。アース神族としては珍しく、他の神族や人種に対して穏健な立場を取っているが、発言力は強くない。


-エイル

〈治癒者〉。アース神族の医師。


-エーギル

〈槍の手〉。アース神族軍に所属する将のひとり。


-オッタル

〈針毛〉。第五世界リュッツホルム東端に住まう漁師。フレイドマルの息子のひとり。


-オーディン

〈独眼の主神〉。また〈絞首刑台の主〉とも。人脈と政治手腕を駆使して第一世界グラズヘイムのアース神族たちの現在の首長となったアース神族。

《戦槍グングニル》を持つがそれが実戦で振るわれることはほとんどない。ヴァルハラ都の為政者の館ヴァラスキャルヴを居としているが、アース神族と巨人族の戦いの少し前から姿を消している。


-オーディン

現在ヴェルダンディ〉。九世界創生譚の〈原初の三人〉のうちのひとり。〈独眼の主神オーディン〉と同じ名を持つ。


-グリッド

〈力〉。巨人族の女。


-ゲルド

〈火炉番の娘〉。グリョートナガルダルという食堂を経営する巨人族の女。ウェーブのかかった長い金髪と左右色の違う瞳の持ち主。


-シアチ

〈鉄の心臓〉。第四世界ヨーツンヘイム西部の砦街スリュムヘイムを治める巨人族。


-シアルヴィ

〈疾き〉。リュングヘイドの息子。


-シギュン

〈苦難の運び手〉。狼の母ロキがかつて呼ばれていた名。


-シグルド

〈竜殺し〉。《狼套ウーフヘジン》を被る〈狼被りウーフヘジン〉の人間の男。〈戦乙女ブリュンヒルド〉に同行している。

 通常は〈狼被り〉となると意識を支配されるが、シグルドの場合はそれが起きていない。また人間でありながら〈三剣〉のうちの一振りである《聖剣グラム》を持つ。

 言葉を喋ることができないが、〈戦乙女〉とはある程度意思が通じている(とブリュンヒルドは思っている)。


-シフ

〈金の簪〉。アース神族の女性。


-スクリューミル

〈大きい野郎〉。巨人族のお伽噺に登場する、山より巨大な大巨人。彼が均した第二平面ミッドガルドの中央が第四世界ヨーツンヘイムの首都ウトガルドになったといわれている。


-スルト

〈火の国の魔人〉。

 お伽噺に現れる光り輝く魔人。〈力の滅亡ラグナレク〉に際し、九世界を浄化するためにやってくるといわれている。


-チュール

〈軍神〉。魔狼フェンリルに右腕を食われ、隻腕になったアース神族。

 フェンリル拘束の報酬として《魔剣ティルヴィング》を得ている。


-トール

〈雷神〉、〈巨人殺し〉、〈投げつける者〉など様々な異名を取るアース神族軍最強の男。やや赤味がかった髪と髭の持ち主。

 最強の〈神々の宝物〉として知られる《雷槌ミョルニル》を持つ。


-ニヨルド

〈世界樹の管理者〉。ヴァン神族の現首長。フレイとイドゥンの(義理の)父親。


-バルドル

〈裁き〉。アース神族の将。

 地位が高く、現首長である独眼の主神オーディンがいないグラズヘイムでは政や軍事に強い発言力を持つ。


-フェンリル

〈魔狼〉。狼の母ロキの呪われた三人の子のうちのひとりである亡者。

 巨大な狼の姿をしており、第一平面アースガルド西のヴィクリード大草原に住んでいたが、軍神チュールによって捕縛され、《銀糸グレイプニル》などの〈神々の宝物〉によって自由を奪われる。


-ブリュンヒルド

〈戦乙女〉。褐色の肌に長い銀髪を持つアース神族。


-フルングニル

〈金のたてがみ〉。〈神殺し〉の通称を持つ巨人族軍最強の男。その二つ名通り、短い金髪を有している。

《赤球ギャルプグレイプ》という双鉄球を持つ。


-フレイ

〈妖精王〉。ヴァン神族首長であるニヨルドの息子。

 栗色の髪を持つ長身痩躯の美形であり、軽薄な見た目に違わない性格をしている。

 三剣の一振り、《妖剣ユングヴィ》を持つ。


-フレイドマル

〈銀の斧〉。第五世界リュッツホルムの東端に住む漁師。


-ヘイムダル

〈白き〉。アースガルド大草原ヴィグリードで見かけられる苔生こけむした像にも似た物体。

 詳細は不明であるが、その姿は遥か昔から見かけられており、人でも神でもない存在である。外観は風雨に晒された結果として白く色の落ちた人神じんしんの姿をしている。一見すると生物には見えないが、長時間観察するとその身体が徐々に動いていることがわかる。かつては第二平面ミッドガルドにおり、それが第一平面アースガルドに移動してきているため、アースガルドに存在する何かを目指していると考えられている。

 腰に《楽刀ギャラルホルン》という曲刀を佩いているが、それが抜かれた姿を見た人神は存在せず、その能力は不明である。


-ヘズ

〈無明〉。アース神族の将。裁きのバルドルの弟。


-ヘル

〈半死者〉。〈狼の母ロキ〉の呪われた3人の子のうちのひとりである亡者。

 幼い頃に第三平面ヘルモードに突き落とされ、亡者の中で生活してきた。本人も亡者であり、下半身が腐っているが、《殻鎧フヴェルゲルミル》を身につけることで辛うじて形を保っている。ただし外観が明らかに不自然なものとなっているため、マントや腰布で隠そうとしていることが多い。

《殻鎧》は〈独眼の主神オーディン〉でさえも知らない唯一の〈神々の宝物〉である。


-ミストカーフ

〈泥の大巨人〉。魔法によって出現した巨大な大巨人。弱点は心臓。


-ユミル

〈霜の巨人〉。九世界の礎となったといわれる大巨人。


-ヨルムンガンド

〈世界蛇〉。〈狼の母ロキ〉の呪われた3人の子のうちのひとりである亡者。

 第二平面ミッドガルドの海を囲えるほどに巨大だといわれている有翼の大蛇(ただし実際はそこまでは巨大ではなく、小山ほどの大きさである)。産まれてすぐに海に突き落とされたため、一般常識などを知らない。


-リュングヘイド

〈鉄の短剣〉。第五世界リュッツホルムの村に住む人間族の女性。


-レギン

〈鉄銛〉。第五世界リュッツホルム東端に住まう狩人。フレイドマルの息子のひとり。


-ロキ

〈狼の母〉。魔狼フェンリル、半死者ヘル、世界蛇ヨルムンガンドの母親。独眼の主神オーディンの愛人としても知られる。一見すると童顔な女性だが、猛禽のような羽と犬のような耳という特異な容姿を持つ。なお、耳は人神じんしんのそれとは別に存在しているため、二対の耳がある。

 巨人族ではあるが、第一世界グラズヘイムの首都ヴァルハラにあるヴァラスキャルヴの館の主塔最上部に軟禁されている。軟禁とはいっても窓からの出入りを見咎められることはなく、ヴァラスキャルヴの中庭などで時折その姿は見かけることができる。

《炎斧レヴァンティン》、《羽靴フレスヴェルグ》、《双翼ナルヴァーリ》など複数の〈神々の宝物〉を持つが、いずれも戦闘用とは言い難い。


-ロスクヴァ

〈福音〉。リュングヘイドの娘。



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-オード

 ノルウェーのトーン中央病院に入院中の妹を見舞う少年。公立小学校の七年生。


-ヘイド

 トーン中央病院に植物状態で入院している少女。


-オーディン

 トーン中央病院に時折現れる老人。


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-夕美ゆみ

 ノルウェーのギンヌガガップ研究所に勤務する日本人女性。霜月夕美しもつきゆみ


-リーグ

 ノルウェーのトーン中央病院の医師。夕美の恋人。



道具

-神々の宝物

 三柱の魔法の一、魔術を施された魔法の道具。

 ほとんどの〈神々の宝物〉は所有者のエネルギーを何らかの他のエネルギーに変換する力を持ち、使用は容易である。たとえば《雷槌ミョルニル》であれば推進力と雷に変換し、投げるだけでその力を発揮させることができる。

 その作動原理を理解しているのは〈宝物〉に魔術を施した〈原初の三人〉のみである。魔法が使える彼らがなぜ〈宝物〉ーーしかもそのほとんどは便利な道具というよりは戦闘用の武具であるーーを作り出したのかは知られてはいない。

 なお、一部の〈宝物〉は同様のものが複数存在している(《狼套ウーフヘジン》など)。しかしそれらはひとつひとつに刻まれた魔術や元となった素材が微妙に異なるために、その魔法そのものも異なる場合がある。


-狼套ろうとうウーフヘジン

 頭から被る狼耳のついた外套のような形状の〈宝物〉。

 被せられた者は被せた者の命令を聞く〈狼被りウーフヘジン〉あるいは〈狂戦士ベルセルク〉と呼ばれる奴隷兵となる。

 第一世界グラズヘイムではこの〈狼被り〉が非常に多く、日常生活でも軍事面でもアース神族はこの〈狼被り〉に頼って生活をしている。


-赤球せっきゅうギャルプグレイプ

 金の鬣フルングニルの持つ鎖付きの双鉄球。

 二つの鉄球はそれぞれ力を加えることで赤熱し、投擲すると呪力を推進力に変換することができる。また所有者がその名を呼ぶことで手元に引き寄せることもできる。

 非常に単純な能力と見た目ではあるが、巨大な鉄球のついた鎖は剣や斧に比べて取り回しが難しく、また手元に呼び戻す能力についても扱いをしくじれば己の手を潰す可能性もあるなど、扱いには熟練を要する。そのぶん他の〈宝物〉に比べてエネルギー変換過程のロスが少なく、単純な威力では他の〈宝物〉に勝る。


-楽刀がくとうギャラルホルン

 白きヘイムダルの持つ曲刀。

 ヘイムダルがその剣を抜く(というよりまともに動いている)ことがほとんどないため、その能力については不明。刀身には複数の穴が空いており、この穴を介して音を発生させ、魔曲を使用している様子が目撃されているが、魔曲(魔法)を奏でるのはあくまでヘイムダルの能力であり、ギャラルホルンそのもの能力ではない。


-銀糸ぎんしグレイプニル

 魔狼フェンリルが寄生されている糸。

 対象の体内に入ると心臓に寄生し、骨や肉を砕きながら自身の質量を増やしていく。この過程で一部の内臓器官の機能は失われるとともに対象に多大なる苦痛を与える。しかしグレイプニルが臓器の役割を果たすとともに周囲の生物を捕食して栄養の一部を宿主に分け与えるため、宿主は何らかの外的要因か老衰以外で死ぬ可能性はなくなる。


-戦槍せんそうグングニル

 独眼の主神オーディンが持つとされている投槍。

 投擲することで目標として定めた地点に狙い違わず飛んでいく。また、その名を呼ぶことで呼び戻すこともできる。


-魔剣まけんティルヴィング

 軍神チュールが持つ剣。三剣のうちの一振り。

 あらゆる願いを叶えるといわれているが、詳細は不明。


-九還きゅうかんドラウプニル

 灯台に設置されていた連結された腕輪。

 連結された腕輪によって作られた輪を潜ると、別の場所へと転送される。


-縛鎖ばくさドローミ

 魔狼フェンリルを拘束する鎖。

 対象に接触すると自動的に絡みつき、その行動を制限する。形状や強度も自在に変化する。


-双翼そうよくナルヴァーリ

 狼の母ロキの背中に生える猛禽の翼。

 呪力を貯め込むことができ、ロキはナルヴァーリによって常人の何倍もの呪力を有している。翼の大きさは溜め込んだ呪力に依存し、全身をすっぽりと隠せる程度のサイズから背中に僅かに残る程度のサイズまで大きく変わる。

〈宝物〉であるが、装着するというよりロキの背中に癒着しているため、簡単に取り外しはできない。またロキは飛行する際にこの翼を使っているが、これはあくまで補助的な推進力と方向舵の役目として使っているだけであり、翼だけで飛べるほどロキの体重は軽くはない。飛行を可能としているのは《羽靴フレスヴェルグ》である。


-金環きんかんブリーシンガメン

 黄金の林檎イドゥンが首から下げる懐中時計。

 九世界の安定を保っているらしいが、イドゥン自身もその力についてはよく理解していない。

 

-殻鎧かくがいフヴェルゲルミル

 半死者ヘルが身につけている全身鎧。

 その主機能は亡者となり下半身が腐っているヘルの身体と体機能を保ち、さらに外界から護ることである。そのため主機能は下半身に集中しており、上半身はただの鎧に過ぎない。ただし左手の手甲のみ呪力ルーンを保てないヘルが外部から呪力を吸収するための機構が存在している。

 特殊な機能を持った鎧であるため、下半身の形状は非常に歪であり、一部は非常に太く、一部は骨のように細い。ヘルはこの歪さを腰布などで隠そうとしている。

 ヘルがこの鎧をどこで手に入れたかは不明であり、独眼の主神オーディンがその存在と能力を知らない唯一の〈神々の宝物〉である。


-羽靴うかフレスヴェルグ

 狼の母ロキが持つ靴。

 装着者に影響する重力を軽減する。ロキはこの力と《双翼》による羽ばたきの二つを使い飛行しており、どちらかひとつでも欠けると飛ぶことができない。


-雷槌らいついミョルニル

 雷神トールが持つ大槌。

 頭部が衝突すると雷を発生させる。呼ぶと投擲地点に戻ってくる。

 基本的に投擲して用いられるが、柄を持って叩くこともできる。ただしその場合には所有者も負傷する可能性があるため、そうした使い方はされないことが多い。

 なお、柄は長い。


-妖剣ようけんユングヴィ

 妖精王フレイが持つ剣。三剣のうちの一振り。

 ひとりでに戦う剣。宙を舞い、所有者の意思を読み取って刃を振るう。


-炎斧えんぷレヴァンティン

 狼の母ロキが持つ手斧。

 刀身の温度を高める能力を持つが、同時に刀身の高周波振動と高電圧の発生を行うこともできる。一般的に〈神々の宝物〉は衝撃等によっては破壊されないような魔術が施されているが、その魔術によるプロテクトは複数同時に起動することが困難であり、異なる手段によって同時に高いエネルギー負荷をかけられると破損する可能性がある。レヴァンティンはそれゆえ〈神々の宝物〉を破壊することが可能であり、〈宝物殺し〉とも呼ばれる。

 ロキが所有しているものは一般的な斧というよりは、非常に刃が短い調理用の鉈に近い形状である。これは他の者が所有していた者のコピーであり、コピー元は柄つきの半月斧バルディッシュに近い形状であった。しかし〈宝物殺し〉を戦闘で使用することは困難であることから、工作用に改良され現在の形になった。


-封錘ふうすいレージング

 魔狼フェンリルを拘束する錘。

 質量と体積を自在に変える。縛鎖ドローミに絡み、対象の行動を制限する。




場所・建造物

-ヴァラスキャルヴ

:第一世界グラズヘイムの首都ヴァルハラに存在するアース神族首長の館。槍のようにそそり立つ主塔とその周囲の外環で構成されており、外環はアース神族の戦士たちの住居機能も兼ねている。また主塔の最上部には狼の母ロキが軟禁されている。


-ヴァルハラ

 第一世界グラズヘイムの首都。周囲を幾重もの壁に囲まれている。


-ヴィグリード

 第一平面アースガルド西部に広がる大草原。基本的に温暖であり、常緑の風景が広がっている。ただし第二平面の影響を受けやすい虹の架け橋ビフレストの付近では四季の変化が深い。


-グリョートナガルダル

〈火炉〉。火炉番の娘ゲルドが経営する食堂。


-スリュムヘイム

 第二平面ミッドガルドの虹の架け橋ビフレストのたもとにある砦街。


-バリ

 第二平面ミッドガルドの西部にある砦街スリュムヘイムの近くにある森。


-ビフレスト

〈虹の架け橋〉。第一平面アースガルド西部と第二平面ミッドガルドを繋ぐ三色に彩られた橋。アースガルドとミッドガルドを繋ぐものとしては世界樹ユグドラシルを除き、もっとも巨大。


-ムスペルヘイム

〈どこでもない場所〉。九世界のいずれにも属さない炎の巨人の世界。どこにでも存在するが、どこにもない。


-ユグドラシル

〈世界樹〉。

 三平面を貫く樹。その見た目はトネリコに似る。

 三平面を物理的に安定させるほか、現在の九世界では太陽は(夜になれば姿を消すものの)ほとんど動かず、また熱エネルギーの供給源としては弱いため、ユグドラシルが九世界のエネルギーを供給しているといっても過言ではない。




災厄・事象

-ラグナレク

〈力の滅亡〉。

 これまでに幾たびも起きてきた九世界を破壊せんとする事象。しかし実際に九世界が破壊されたことはない。

 ラグナレクの際には必ず火の国の魔人スルトが現れる。


-九つの災厄

力の滅亡ラグナレク〉の訪れの原因となる獣の姿を借りた災厄たち。〈力の滅亡〉の際に必ずしもこの災厄が現れるわけではない。


-死爪ヴェズルフェルニル

 鱗の生えた猛禽の姿をした災厄。

 巨大な爪を有しており、その爪に触れた者を腐らせるといわれている。羽を有する災厄はヴェズルフェルニルのほかは火竜ファヴニルとフレスヴェルグのみであるが、ほとんどの災厄は飛行し、また個体は大量に存在する(あるいは死亡してもすぐに復活する)という。


-獄犬ガルム

 他の災厄とは違い、どのような災厄を九世界にもたらすのかは知られておらず、またその形質や容貌についても知られてはいない。ただ第九世界グニパヘリルに存在するということのみが伝わっているが、その伝承自体の信頼性も不確かである。また、他の災厄は外からやってきたものであるが、ガルムのみは九世界(というよりもその中に存在する世界樹ユグドラシル)から発生したものであるという。


-刻喰らいグリンカムビ

 蛇の尾を持つ鶏の姿をした災厄。

 周囲の物質や生物を石化させ、時間とともに風化させる。他の災厄と比較すると行動周期が非常に明確であり、さながら四季のように一定の期間を経て九世界を侵食する。


-黄金のグルヴェイグ

 光り輝く人神じんしんの姿をした災厄。

 正体不明、能力不明の災厄。〈火の国の魔人〉のような黒い輝きとは異なり、より明るく、正視不可能なほどに輝く人神程度の大きさの存在。詳細な姿は輝きによって正視不可能なため不明。害についても眩しい以外では不明。唯一判明しているところでは〈死なず〉の能力を持っており、槍で突き刺されて三度火炙りにされながらも生きていたとされる。


-邪龍ニドヘグ

 胴の長い龍の姿をした災厄。

 毒の吐息を発し、動けなくなった獲物から呪力ルーンを吸収し、さらに喰らう。火竜ファヴニルに次いで巨大であり、さらに知能が他の災厄よりも高い。

 かつて九世界に一度だけ現れたと伝えられるが、それ以上の情報は伝わっていない。最後には第三平面ヘルモードに逃げたとされている。


-火竜ファヴニル

 飛竜の姿をした災厄。

 主にミッドガルドを侵略してきた火竜である。九つの災厄の中で最も危険な存在であるといわれており、その炎の息吹は山さえも溶かし、湖を蒸発させたといわれている。ミッドガルドにはそうした災厄の跡が史跡として残っている。

 殺すことは可能だが、伝承では火竜を殺した者は次に火竜になるという伝説がある。しかしある時期に魔法の力を受けた〈竜殺し〉の英雄によって倒され、二度と火竜の炎は受け継がれなかったと吟遊詩人には歌われている。


-黒きフレスヴェルグ

 光を反射しない鴉の姿をした災厄。

 具体的な形は判然とせず、一切の動作なく飛行し、人神の前に降り立つ。接近すると奇病にも似た症状を発症し、死亡するとも、亡者と化すとも伝えられている。

 

-四本角ヘイズルーン

 巨大な角を持つ鹿の姿をした災厄。

 角を振り回すことであらゆるものを切り裂くとされており、三平面すらその例外ではない。基本的に人神に対しては無関心であり、現れるや否や大地を切り裂くが、口伝では攻撃を加えた人神に対しては反撃し、周囲の人神を残らず切り裂いたとされている。


-歯のラタトスク

 目のない栗鼠の姿をした災厄。

 単体では非常に小型な獣であり、殺害は容易である。通常時は数体が〈世界樹〉の枝や根を齧るのみであるが、その本性が露わになるときは爆発的にその個体数を増加させ、あらゆるものを食い散らかす。

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