第9話 支え

「康夫くん、由紀子をどう思う?」

「尼野さんですか・・・?」

「ああ」

尼野さんを見る。

一生懸命働いている。


「学校では、いつも明るく振る舞っていますね。

落研の部長も務めて、人気者です。でも・・・」

「でも?」

「何だか寂しげですね。もちろん明るくはるのですが、どこか無理をしているような・・・」

「そこだよ」

「そこ・・・ですか?」

師匠が頷く。


とても、真剣な表情だ。

弟子というより、我が子を見る目だ・・・


「由紀子は、見所があるが・・・」

「はい」

「いかんせん。まだ子供じゃ。もしかしたら、ぽきっと折れるかもしれん」

「確かに」

「その時の為に、支えになってほしい」

「支えですか?」

それなら弟子でなくても・・・


「この世界では、少しでも早く入門したほうが偉い事は、知ってるね」

「ええ」

「君が、入門してくれれば、由紀子もあねさんとしての自覚が出る」

「でも、それは、重荷になるのでは?」

師匠は首を横に振る。


「由紀子は、君の事が好きみたいだ」

「ええ、友達と言ってました」

「そういう意味ではなく、弟を好きなる感覚だ」

「弟ね」

由紀子は、俺に何を望む?


「由紀子には才能がある。しかし、そのためには支えが必要だ」

「支えですか?」

「落語家というのは、二つ目のうちに結婚する人が多い」

「確かにそうですね」

「その理由は・・・わかるね」

「ええ」

詳しくはわからんが、だいたいのことはわかる。


「由紀子は母性愛が強い。君のあにさんになれば、だんだんと実力を発揮出来る」

「そういうもんですか?」

「ああ」


尼野さんを見る。

無言で嘆願しているように見える。


「わかりました。」

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