第8話 弟子入り

「康夫くんは、落語家志望なの?」

師匠に問われる。


「違います」

「どうして?」

「僕・・・いえ、私では勤まりません」

「そっか・・・」

なんだ?がっかりしているのか?


普通はそう簡単に弟子にはしないだろう。

しかも、いきなりきて、OKを出す師匠はいない。


「由紀子から、聞いているんだが」

「何をですか?」

「面白い人がいると・・・」

面白いからで、勤まるほど落語家が甘い世界なら、誰も苦労はしない。


どう紹介したんだ?


「師匠、彼のことですが・・・」

「どうした?由紀子」

尼野さんは耳打ちをするが・・・


いいのか?


「よし弟子入りを認めよう。卒業後に入門しなさい」

「そんなに簡単に決めていいんですか?」

俺は、お笑の経験はない。

落語は趣味でもしたことがない。


確かに、笑点は好きだ。

でも、それだけだ。


寄席も、今日が初めてだ。


「君は、M太郎くんだね」

「どうして、それを?」

M太郎というのは、俺のペンネーム。


笑点のホームページの、大喜利にチャレンジで、座布団10枚貯めて、粗品をいただいたが・・・

1回だけだ・・・


「実はだね、康夫くん」

「はい」

「君をスカウトした理由だが・・・」

「はい」

「正直、見込みはない」

確かにそうだ。

でも、はっきり言われると凹む。


落語家志望ではないので、いいのだが・・・


「実は、由紀子の支えになってやってほしいのだ」

「尼野さんのですか・・・」


師匠は頷いた。

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