第4話 不安と期待

公園を出て尼野さんと、並んで歩く。

歩くのはいいが・・・

街中で、尼野さんの格好は目立つ。


「時に尼野さん」

「あねさんと、呼びなさい。私が先輩なんだから・・・」

「まだ俺は弟子入りしていない」

「もう、決まってる」

「誰が決めた」

「私」

たく・・・


「で、尼野さんはどうやって、師匠の弟子になった」

「コネ」

「コネ?」

「うん、そうでもないと、簡単に弟子にならないよ」

確かに・・・


「でも、どんなコネだ?」

「内緒」

教えてくれない。ケチンボ。


「で、どこへ行く?ラーメン屋か?」

「君は師匠を何だと思ってるの?」

「ラーメン屋」

「怒るよ。寄席よ。寄席」

「あの人、落語やってるの?」


ゴツン


「痛い」

「それ以上言うと、叩くよ」

「叩いてから、言わないでくれ」


でも、尼野さんの師匠にかける想いは本物だろう・・・


「で、どこの寄席」

「すぐ近くよ」

「師匠はいつ出るんだ」

「とりよ」

「最後か・・・」

「うん、ベテラン真打ちだもん。一応は・・・」

あんたも、悪く言ってるだろうに・・・


「尼野さん、君は見習いなんだろう?」

「うん、そうよ」

「見習いなら、師匠の荷物持ちとかしなくていいのか?」

「普段はしてるよ。ただ私は学生だから、まだ抑えてもらってるけどね」

「抑えて?」

「うん。卒業後は厳しくなると思うよ」

覚悟は出来ているようだ。


でも、不安よりも、期待の眼のほうが鋭い。


好きなんだな・・・

そういや文化祭でも、やってた気がする。


「尼野さん、落研だった?」

「そうだよ」


俺は、この子を良く知らないが、この子は俺を知っているみたいだ。

後で、訊いてみよう。



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