1-7.

 辻木直美が松田希美を殺害した動機は、夫と松田の不倫だった。親友だった松田と夫が自分に隠れて不貞行為を繰り返していることが許せず、蛮行に走ってしまったというのが、辻木の供述だった。

 「それにしても、すごかったですねえ歌ヶ江さん」

報告書をまとめ、書類を片付けていた飯島が、防犯カメラの映像を印刷した歌ヶ江の写真を見ながら言う。

「カメラの映像見ただけで、犯人当てちゃうんですもん」

しかし、権藤は黙ったまま、机の上の書類をじっと見つめていた。

「権藤さん? どうしたんですか。書類片付けちゃいますよ」

飯島が権藤の視線の先を追うと、

「春日原くんの資料ですか?」

机の上には、歌ヶ江のものと同じく防犯カメラから引用された写真がクリップで留められた、春日原の資料があった。書類のほうには、高校入学以降の経歴が簡単にまとめられている。

「へえ、春日原くんって、由芽坂学園の出身なんですね」

県内有数の私立進学校に通っていたこと以外、特にこれと言って特筆すべき点は見られなかったが、権藤は眉間の皺を深める。

「どっかで、見たことある気がするんだよなあ……」

「どっかでって。まさか前科があるとかですか?」

「そういうのじゃない。……まあ、そのうち思い出すだろ」

ふー、と鼻で息を吐く権藤。上司の煮え切らない態度に首を傾げつつ、

「由芽学出身なのに、なんでフリーターなんてやってるんでしょう。あそこってお金持ちの家の子が多いし、大学進学率ほぼ百パーセントですよね」

全く別のところに疑問を抱いていた。

「知るか。……それよりも」

机の引き出しを開けボトルガムを取り出して、三つ一気に口に放り込む。世相の煽りを受けて、署内が全面禁煙になって久しい。苦い顔でコーティングを噛み砕きながら、権藤は低く唸った。

「辻木直美に、入れ知恵した奴がいるな」

「え?」

「あの気の弱い専業主婦が、一人であんな面倒な計画を立てられると思うか」

取り調べ中の辻木は、ひたすら謝りながら泣き通しだった。

「それは確かに……。少し、不自然には思いましたが」

最後には「捕まえてもらえて良かった」と隈のできた目で頭を下げた彼女の姿と、大胆で周到な犯行内容が噛み合わず、飯島も違和感を覚えていた。

「推測だからな。誰にも話すんじゃねえぞ」

「……はい」

立ち上がり出て行く権藤の背中を見送ってから、飯島は真剣な顔で、机に残された資料を見つめていた。

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