もし三周年記念ガチャで爆死したあとにゲームのサービスが終了したら。
槙村まき
本編
すっかり世界にスマートフォンが普及して、世界中のほぼみんながソーシャルゲーム――いわゆるソシャゲ(と一般的には呼ばれているがソシャゲというものはSNSなどの専用ゲームのことを指し、スマホやタブレット向けのアプリゲームはネイティブアプリというらしいが曖昧でややこしいので一緒くたにソシャゲと称する)に没頭して、ゲーム依存症患者が溢れかえっている未来。
アルバイトで趣味のお金を稼ぎ、親からの仕送りで生活しているひとり暮らしの大学生の彼――
そんな太郎がハマっているゲームは「召喚対戦」という過去の偉人たちを召喚して、対人戦バトルできる仕組みのゲームであり、レア度により強さが段違いに違うという、重課金どころか廃課金者を何人も産み出している究極のゲームだった。
そのゲームの三周年記念ガチャのために林檎模様の書かれたカードを、溜めていたアルバイトのお金でどっさりと買い込んだ太郎は、ガチャを回すために必要な石を買い込み、さあいざ
だが、結果は凄惨たるものだった。
爆死。爆死。大爆死。
目当てのSSRどころか、SRすらまる被りのキャラしか出ない始末。
この一か月、三周年記念ガチャでピックアップされる目当ての高レアキャラを手に入れるためにキツイ引っ越しのバイトをして溜めたお金が、一日……いや、一時間もたたずになくなってしまったのである。
太郎は叫んだ。
叫んで叫んで、自分のSNSアカウントにログインすると、言葉だけで飽き足らずに、文字に乗せて叫び声を発信した。
そんな太郎のツイートに、たくさんのリプやいいねがつき、ゲーム仲間の憐れみや激励、共感の雨嵐にかられて、少し太郎の気持ちも落ち着いてきた矢先の夜。
それは突如として起こった。
SNSつぶやいたーの「召喚対戦」のアカウントのツイートを通知登録していた太郎はすぐに気づいた。
そして一瞬、魂が抜けた。
『突然の報告で申し訳ありません。「召喚対戦」は本日いっぱいでサービスを終了させていただきます。日々プレイしてくださっているユーザー皆様におかれましてはお詫びと多大なる感謝を……』うんぬんかんぬん。
その文字を太郎は理解できないでいた。
その間にも、問題のツイートのリツイート数とリプ数が伸びていく。
課金をしない主義の無課金勢や微課金勢、それから太郎をはじめとした重課金勢、課金なしでは生きていない廃課金勢の阿鼻叫喚の嵐が、太郎のタイムラインにもたくさん流れていく。
ようやく内容を理解して意識を取り戻してきた太郎も、つぶやいたーに衝動のままツイートをぶち落とした。
『くっそふざけんな死にさらせ!』
太郎のツイートに付く、ゲーム仲間からのリプやいいね、リツート。
でも太郎はそれに満足できなかった。
昨今、増え続けるソシャゲゲーマーに対して、ソシャゲの数も溢れかえるほど存在していた。むしろゲームの方の量が多く、突然サービス終了するアプリなども後を絶たなかった。
だが、誰が想像しただろうか。
コアな課金ゲーマーにより護られ続けていると思われた「召喚対戦」が、三周年ピックアップガチャでユーザーの有り金を吸い込んだ挙句、サービスを終了するとは。
誰が納得できるのだろうか。
大金をつぎ込んだゲームが突然サービス終了して白紙に戻るなんて。
その日、太郎は徹夜して、ゲームに対する愚痴や不満――いや、叫びや嘆きの阿鼻叫喚の嵐をつぶやいたーに呟き続けて、ふと冷静に返った。
冷静になると押し寄せてくるのは、どうしようもない虚無感だった。
「どうして、俺はソシャゲに課金をしているんだ。サービス終了したら、すべてなくなるのに」
そう口にすると、とても虚しくなり、太郎は涙をだあだあ流しながら泣き続けた。
赤子の頃以来の、涙の量だった――
――そして太郎は目を覚ました。
泣き疲れたかような朝だった。鏡を見ると、寝ている間にたくさんの涙を流したのか、目の下や頬が真っ赤に腫れていた。掛布団や枕もびしょびしょだった。
日付を確認すると、今日は四月二日。
今日は、太郎が愛してやまないソシャゲ「召喚対戦」の三周年記念ガチャがある。
ログインボーナスをもらう前に、美味しい林檎カードを買いに行かねばならない。
そこでふと、太郎は既視感に襲われた。
(なにか、同じようなことがあったようなぁ……)
その既視感の正体に太郎が気づいたのは、林檎カードをどっさり買い込んで、いそいそと石に変えている最中のことだった。
(これ、夢で見たやつだ)
夢の中で太郎は大爆死した。
目当てのSSRは召喚できず、つぶやいたーに嘆きのツイートをたくさんした。
まずそれを思い出した。
(まあ、でもしょせん夢だしな。正夢なんてありえねーし)
買い込んだ林檎カードをすべて石に変えてから、いざガチャを回そうと十連ボタンをタップする前に、太郎は夢の中で起こった阿鼻叫喚を思い出した。
ガチャで大爆死したあとに、「召喚対戦」のサービスが終了したことを。
(い、いや、でも、しょせん夢だろ。ま、正夢なんかに、なるわけねーだろ?)
首を振って、雑念を振りほどこうとする。
でも、不安は太郎の全身を覆っていた。
(もし三周年記念ガチャで爆死したあとに、ゲームのサービスが終了したら……どうしよう)
そう考えると、なかなか十連をタップできない太郎だった。
もし三周年記念ガチャで爆死したあとにゲームのサービスが終了したら。 槙村まき @maki-shimotuki
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