儚さ

 リサとトミーは帰る。帰り道も音楽の話だ。


 駅に着く。改札に入る。

トミーといつものように笑って別れる。

その後トミーが見えなくなったら、

リサは改札へ戻る。改札を出る。来た道を戻る。


 渋谷警察署近くの歩道橋。

リサは手擦りに手を添え、その上に顎を乗せる。


 後ろを歩く人たちの声、足音、物音、音という音。

見える景色。ビル、窓の明かり、看板の明かり。

国道246号線の走る車、その走る音、クラクション。

ライヴハウス内で付いた、

煙草の煙の混じった匂いのする自分の髪。


 そのうちリサは五感がぼんやりしてくる。

タナカのことを思い出していた。出会いから今日までのこと。

短くとも長くとも、何も感じることはなかった。


 リサは顎を手から離し、上半身を伸ばす。

ぼんやりとした目でぼんやりと呟いた。


「タナカさん、好きでした。」


 リサは両手両腕に力を入れ、手擦りによじ登る。

そしてそのまま勢いよく246にダイヴした。


 リサの儚さは、

始まる前に終わってしまった初恋のように儚かった。




THEME SONG

HONG KONG STAR / メノマエデオチテ

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渋谷ダイヴ 凪 景子 @keiko012504

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