第3話
その日はロンドンムーンが主催するイベント、
『ロンドンナイト』の日。
場所はお馴染みのルインズ。
ナカムラがかき集めたかっこいいバンドが集結する。
リサは早めに出勤し、適当な時間に仕事を上がり、
適当に渋谷に向かうつもりでいた。
店では客がトイレに行く時は、それに付いて行く。
そして客が用を足して、
トイレから出てきたらウエットティッシュを渡す。
これが店の決まり。
リサの相手をしていた客がトイレに立つ。
一緒に行くリサ。客は人目を気にしている。
トイレに着くなり、客はリサの腕をひっぱる。
自分と一緒にリサと個室に入る。
狭い空間。
この後の自分がどうなるか、どうでもいいリサは無抵抗。
ただ壁にもたれていた。
店のドレスは安物の丈が短いワンピース。
すぐに下着を膝上まで下ろされてしまう。
客はズボンを脱ぎ、下着も脱いだ。
客が近づく。
客の唇がリサの唇に触れる寸前。
リサに衝動が走った。
拒絶反応だ。
リサは客の胸を思いっ切り両手で強く押した。
酔っている客は壁にぶつかり、
その後ふらつきながらトイレの陶器のタンクに頭がぶつかる。
客はそこでぶっ倒れた。
冷めた目でリサは見る。
客は動かない。リサは自分の下着を元に戻した。
客の胸に手を当て体を揺らす。びくともしない。
強く揺らすも、やはり反応はなかった。
リサは何事もない顔で個室を出て、トイレから出る。
そのまま更衣室に向かった。
暗い店内、賑わう店内。
リサごとき一人いなくなっても誰も気づきはしない。
リサは渋谷に向かう、ルインズに向かう。
ルインズに着く。
とても分厚くとても重い、ルインズの扉を開く。
イベントだけあって、
いつものライヴより人が多く、賑わっている。
トミーは既に来ていた。いつものように仲良くしゃべる。
何事もなかったように。
タナカはいない。来ていない。
その日のロンドンムーンのドラムはヘルプが
主催のロンドンムーンの出番が来た。
その時リサは、既に期待をしていなかった。
タナカなくしてロンドンムーンはありえない。
そう思っていた。
演奏、パフォーマンス、アレンジ。
思ったより、なかなかいいものだった。
しかしリサは『違う、足りない』そう感じていた。
全てのバンドのライヴが終わり、打ち上げに入る。
人は減らない。賑わったままだ。
リサはナカムラに話し掛ける。
今日のステージの感想を言う。
ナカムラはいつも優しく、その時も礼を言われた。
そして他のバンドマンが近寄ってきて、バンドの話を始めた。
トミーはドリンクコーナーへ行った。
リサはちょっとだけ、ひとりぽつんとなった。
そこに綺麗な女性が現れる。
美人でお洒落で見惚れてしまうほど。
ナカムラと仲が良いらしく、何やら話している。
どうやらその女性も、普通に仕事をしている傍ら、
音楽活動をしているらしい。
その女性がナカムラに言った、はっきり聞こえたこと。
「エーケーどうなるの?彼女、妊娠したんでしょ?」
リサの時が一瞬止まる。
なぜかそれだけは確かに、はっきり聞こえてしまった。
そこへトミーが戻ってきた。
リサのためにコーラを持ってきてくれた。
リサはトミーと話す。楽しそうに。
何事もなかったように。
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