アリス
アルトコロの地の底【アンダーランド】にアリスという女の子がいました。
天真爛漫で、どこかふわりとしている彼女が地下の住民達は大好きでした。帽子屋はアリスを毎日お茶に誘い、ウサギやヤマネはケーキやお菓子をテーブルからはみ出すまでかき集めました。
「うわぁ☆おいしそぉ☆」
アリスはテーブルに乗ると大きなケーキに腰を下ろして手づかみでお菓子を口に運びます。ここではマナーなんて口煩く言う人はいませんから、お行儀の悪いアリスはお茶会が楽しくてたまりません。
毎日毎晩彼女達は笑い合いました。
しかし、ある日。空から不思議な物落ちてきました。赤くてキラキラしているそれをアリスは拾い上げると、
「キラキラしていてステキだわぁ☆」
かけてしまいました。
レンズはアリスの視界をぐるりと変えて、世界をとてもクリアにました。
暗い暗い地の底は、ぽっかりと空いた空の穴から入るわずかな光しかありません。さっきまで楽しんでいたお茶会のテーブルはぐちゃぐちゃで、時計の秒針は嫌気を指していました。薔薇は血の気を失ったように真っ白。文字達は本の中にいることを嫌がり逃げていき、ページもそれにビリビリと続きます。
裁判官のいない法廷で気の狂った動物達が裁かれますが、いつだって無罪。罪状の読み上げもないので、何をしたのかもわかりません。
アリスは愕然としました。
無秩序が全て見えてしまったのです。かつてこの地が空にあり、【ワンダーランド】と呼ばれていたなんて信じられません。
アリスは木槌を取ると甲高く打ち鳴らしました。
「聴きなさい!この蛮族ども!貴方達に誇りはないのか!!」
これには住民達も驚き裁判所に集まります。沢山の耳がアリスに向きました。
「まずはじめに薔薇は赤くなくてはいけないわ。今すぐ塗りなさい!そして逃げた文字とページも連れてきて!厳正な裁判をして職務放棄を裁くのよ!」
カンカンと木槌が振られます。
ひとしきりアリスが叫び終わると住民達はヒソヒソと話し始めました。
「可愛かったアリスがどうしてあぁなったんだろう」
「きっとあのヘンテコなレンズのせいだ」
「ボクらと同じで現実なんて見ないアリスがいい」
「夢に浸る方が楽しいじゃないか」
それはさざ波のように広がりやがて、
「【元のアリス】に戻そう」
みんながそう言いました。
それからというもの、隙あらば眼鏡を奪いにくる住民を木槌で返討ちにするアリスの改革が始まりました。
「無闇やたらと時間を奪う為、お茶会は略奪罪!改革を邪魔する奴は悪だ!」
無秩序に秩序を悪に正義をふりかざすアリスは、さながら女王のようでしたとさ。
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