シンデレラ
アルトコロの西の国【サンドリヨン】に名前と脚のない女の子がいました。
【サンドリヨン】から仏の御石の鉢が奪われると、やがて人びとの心に満たされぬ渇きをもたらしました。最初は水。その後は亡き国王の座の奪い合い。暑さで喉が乾くように、欲深い心はどんどん渇いていきました。
その余波は女の子にも覆い被さりました。内戦が起こるたび、彼女と孤児院の家族は手数として駆り出されました。どんなに幼くても問題ありません。囮になればいいのですから。
次々と死んでいく家族を見ながら女の子も自分もこう死ぬのだと思っていましたが、意地悪な姉達はこう言うのです。
「私の分まで生きてね」
その言葉はどんどん数を増していきました。女の子は言いつけを守り、生きる為に強くなりました。勇猛果敢で華麗な脚技でどんな屈強な兵士も蹴り倒し、いつしか血で赤く染まった靴を見て【赤い靴】と恐れられるようになりました。
しかし、いくら強くてもいつどうなるかわからないのが戦いです。金の斧、銀の斧、鉄の斧を使いこなす傭兵に女の子の脚は切り落とされてしまいました。
それからというもの孤児院と言う名ばかりの暗い質素な部屋で彼女は壁にもたれかかって、ぼんやりと過ごして居ました。働けない彼女をママは殴りはしますが、殺しはしません。ですからずっと彼女は姉達の言いつけを守っていました。
そんなある日、聞きなれない靴音を響かせて猫がやってきました。長靴を履いた猫です。
「やぁ、はじめまして【赤い靴】。私はプス。君の主人の使いさ」
プスと名乗った猫は女の子を豪華な屋敷に連れて行きました。
「今から君には我が主人、カラバ侯爵の兵になってもらう。その義足はそのためのものさ。さぁ、汚い身なりを整えて。これから大事な用事があるのだからね」
ぱんぱんと手を叩くと、侍従達は女の子に美しい服とガラスでできた義足を履かせ、ボサボサの髪を整えていきました。
「【赤い靴】の呼び名もいいが一度負けた名前は捨てよう。これからはシンデレラと名乗るといい」
最後の贈り物をもらったところでシンデレラはどうしてと尋ねました。猫は答えます。
「偉いお人はみんな誰が一番強いのかを決めたがっているのさ。だから武闘会を開いているのさ。自分が傷つかないように、優秀な兵隊を用意してね」
プスはヒゲを弄りながらにやりと笑いました。その顔はヒヤッとしたものを感じるほど恐ろしいものでした。
「だから君にはそこで活躍してもらうよ。そうだなぁ。十二時の鐘がなるまでに全員を倒してほしい。そうすれば平民出の主人を悪くいうものはいなくなるだろう」
シンデレラは言いました。
そうすれば、生きていられる?
その問いにプスは一瞬目を丸くしましたが、すぐにゆったりと答えました。
「あぁ死ぬことはないよ」
姉達の呪いのような切望とガラスとは思えない硬い義足を携えて、シンデレラは武闘会へ向かいましたとさ。
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