白雪姫


アルトコロの北の山国【ブランシュ】には大きなお姫さまがいました。

雪のように白い肌だったことからスノウと名付けられた彼女は、お妃さまの愛情をたっぷりと受けてさらに大きく大きく育ちました。


「お母さま。今日も外がお祭りみたいね」

雪の中から聞こえるのは国民の叫び声でした。

この国の宝【火鼠の皮衣】を持ち去られてから、寒さは飢えを運んできました。それはどんどん広まって、やがて人びとの心の温もりもひんやりとしてしまったのです。

「スノウ王女は大飯食らいだ!」

「大きな体だから悪いのだ!」

「私たちの食料を平らげてしまうぞ!」

そんな声が冷たい風とともに暖炉のそばまで吹き込んできます。

お妃さまは優しく髪を梳きながらスノウに言いました。

「あぁスノウ。どうか悲しまないで」

「でも、私はたくさん食べてしまうよ。みんなの分も食べてしまうよ」

「大丈夫。ママにまかせてあなたはおやすみなさい」

お妃さまは懐から赤いリンゴを取り出すと、そこに薬を一滴二滴垂らします。赤から紫に変わったそれを、お妃さまは愛おしそうにシャリと口に含みました。


「あなたのことはママが守るわ。」




お妃さまはどろりと溶けて、スノウを優しく包み込みました。

姿を変えたお妃さまは真っ赤なフードで彼女の耳を塞ぎ、城の門を開けて外へ出ます。鬼のような形相の民衆たちもこれには驚きました。


「聴きなさい。民衆よ」

スノウの声でお妃さまは語ります。


「国の食料が尽きた今、外へ奪いに行くほか道は無い。武器を持て。豆の木の巨人を討ち滅ぼした我らが力、見せつけてやろうではないか」

なんとも堂々としていて、それでいて大きな体から出る朗々とした声は山々に反射しながら国中へ響きわたりました。民衆は呼応するように雄叫びをあげると、戦いの準備を始めました。怒りや不満とは矛先が少し変わればこんなものなのです。


ひとつ白い息を吐いて赤い頭巾となったお妃さまはスノウに囁きました。

「大丈夫。またママが守ってあげるからね」

深く深く眠っているスノウには少しも聞こえませんでしたとさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る