アルトコロ
鬼嫁キドリ
かぐや姫1
昔々、【アルトコロ】になんでも欲しがる女の子が生まれました。
夜闇を思わせる長い髪に、妖しく微笑む瞳は星のよう。輝く夜の女神のようだと人々は口にし、やがて彼女にはカグヤという名前がつきました。
彼女は自分へ言い寄る男達に言いました。
「私に触れたいのなら世界でひとつを持っていらっしゃい。そうしたら、そばにずっと置いてあげる」
その言葉で世界中の男達は競うようにカグヤへ貢ぎ物を贈りました。カグヤはそれだけ魅力的だったのです。
そして、それは一介の男だけに限りませんでした。アルトコロにある5つの国のうち、4つの国王達も彼女の熱に浮かされてしまったのです。
東の島国【オニガシマ】の国王は、海を割るほどの魔力をもつ蓬莱の玉の枝を。
西の帝国【サンドリヨン】の国王は、いくらでも水が溢れ出す仏の御石の鉢を。
北の山国【ブランシュ】の国王は、暖かな火を自国にもたらす火鼠の皮衣を。
世界の中心【ワンダーランド】の国王は、国を天高く支えていた龍の首の珠を。
それぞれカグヤに差し出しました。
世界にひとつだけ。一番大切な宝物。
その贈り物に彼女はたいそう喜びました。
カグヤはすっかり自分の虜になった王達と不死の妙薬を交わし、一緒に贅沢な日々を送りました。
しかし、南の国【ガーデニア】の若い王子だけは彼女の美貌でも堕とせませんでした。
婚約者との結婚を控え、幸福に包まれる王子。カグヤは彼が欲しくて欲しくてたまりません。
ついに彼女は蓬莱の珠の枝で王子を黄金の像へと変えるとそのまま、連れ去ってしまったのです。
その国の宝物、鳥達を操る燕の子安貝も一緒に。
国の王様と王子様を奪われたどころか国宝も失ったアルトコロは、大混乱です。
東の国は海に飲み込まれ、西の国は水を失い荒れ果て、南の国は周囲を囲む樹海を自由に越える術を失い、北の国はあっという間に雪に包まれ、支えを失った世界の中心は地の底深くに落ちてしまいました。
疲弊する人々を横目にカグヤと4人の王様は遊び耽ります。
そんなカグヤ達を許せなかったのは、4人のお妃様と王子の婚約者でした。
彼女達は力を合わせてカグヤにかける呪いを産み出しました。
カグヤに向けられた呪いは彼女の持つ蓬莱の玉の枝に一度は弾かれてしまいましたが、それは夜空に突き刺さり、その力を余すことなくカグヤに降り注ぐ【月】となりました。
彼女の体を【月】の呪いが焼き尽くす前に――――
「まぁ、なんて恐しいこと。誰か私を助けてくださらないかしら」
カグヤの呼びかけに王様達は自らの体を差し出し、その骨で車を組むと彼女を乗せて朝へと走り出しました。
それからというもの、カグヤと【月】はアルトコロをぐるりと廻る追いかけっこをし続けることになってしまいましたとさ。
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