第4章(4)
結局手を離してくれない北上さんと僕はやってきた内回り電車に乗り込んだ。車内後ろの空いている席に並んで座り、ロープウェイの入り口を目指す。
「ココア飲まないの?」
隣に大事そうに僕が買ったココアを持つ北上さんに尋ねると。
「うーん、折角だから展望台で見ようかなあって」
少し嬉しそうに言うものだから、僕も少し照れ笑いを浮かべてしまう。
「あ、あと……本当に手、このまま……?」
「むぅ、峻哉は嫌なの? 手繋ぐの」
「いっ、いや……そういうわけじゃ……」
「ならいいよね?」
「う、うん……」
やはり、僕はペースをつかめない。
彼女の手袋越しに伝う温もりは、僕の心臓の鼓動を少しだけ早くさせた。
電車は中心街から住宅地へと景色を変えていき、それにつられて乗客の数も減ってきた。
段々とバイト終わりの疲れと、車内の暖房の気持ちよさに負けて、僕はうとうとし始めた。
つい、彼女の方に頭を預けてしまい「ご、ごめん」と謝る。
「バイトからだもんね、疲れてるよね」
「だ、大丈夫だよ、それにあと少しで降りないとだし」
「あんなに必死になって走って来たもんね、疲れるよね、ふふっ」
「その件に関しては申し訳ないと思っています」
「しばらくはなんでも言うこと聞いてくれそうだなあこれは」
「……はい」
「ははは、嘘だよ、そんなことしないから安心して」
そんなふうに話していると、市電はロープウェイ入り口の駅に着き、僕等は電車を降りた。
「うっわ、寒いね」
開口一番、そんな感想が漏れる。
「もう九時過ぎだしね」
「うー」
身震いしつつ手をこすり合わせる北上さんを連れて、僕はロープウェイの駅まで向かう。時間が合えば無料のシャトルバスがあるけれど、ちょうど九時の便が出てしまったのと、歩いてもそんなに時間がかからないから、歩いて向かっていた。
平坦な道から急斜面が続く丘に差し掛かった。
「ここら辺滑りやすいから、気を付けて」
後ろ手に退く彼女にそう伝える。
冬道で滑りやすいのは、斜面だ。上り坂や下り坂は勿論、左右に歪んで傾いている冬道も凄く滑りやすい。そして、ここの急斜面は、地元民でも手すりが無いと怖くて歩けにレベルのものだ。
いやぁ、時間がないから、シャトルバス待つ余裕もなくて……。
何気に展望台まで行く最終便が近いから、結構焦ってはいるんだ。
「うん、わか――きゃっ!」
すると、僕の右手が急に引っ張られた。反射で声の方を見ると、体勢を崩して転びかけている北上さんの姿が目に入り、
「うわっ!」
手を繋いでいた僕も、一緒に転んだ。
僕が少し滑り落ちるような形で転んだから、結果的に彼女を覆いかぶさるような感じになった。
「あ、……ご、ごめん」
「私こそ……」
「た、立てる?」
僕はおもむろに立ち上がり、繋いでいない左手も差し出し、横になっている北上さんを起こそうとする。
「あちゃーやっちゃったなー雪まみれだよ、はは」
体のあちらこちらについている雪を払ってから、彼女は僕の両手をとり、立ち上がった。
「ありがとう」
そうして、徒歩でなんとか麓の駅にたどり着いた僕等は、終電一個前のロープウェイ、ケーブルカーを乗り継いで、展望台へと上った。
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