第2話 来年には私、大人になっちゃうの?!
セイタカアワダチソウってご存知でしょうか?
私がまだ小学生だった頃、通学路の線路上に敷き詰められた砂利石の脇から高く伸びたそれを見て、私は勝手にススキだと思っていました。
私の生まれた所は何処を見渡しても山、山、山、山。先の景色なんて見えやしない。
『こんなに山に囲まれて、私はこの先どこにもいけやしないんだ』
そう思いながら、毎日山に囲まれた土地にある小学校へ登下校しては、その度に憂鬱な気分になったものです。
私は母を愛していた。
つい最近生まれた妹のことは、よく分からないけれど、時々かわいいと思った。
父は。
分からなかった。ただ突然怒鳴ったり物を投げつけてくるから、怖いとは思っていた。
私は何故だか、この頃から漠然と、見慣れて見飽きた線路沿いにそびえ立つセイタカアワダチソウのもっと先、その先の山々を見て、『どこか遠くへ行きたいな』と思っていた。
そしてもう一つ。
何故だか私は、自分は大人になれないと思っていた。
精神性の話ではなく、自分は大人になる前に死ぬと、信じ込んでいたのだ。
その思いは恐らく小学生だった当時が一番強く、しかしその後も馬鹿馬鹿しいと自嘲しつつも、やはりどこかで信じていた。
第1話で書いたように、この頃、私は色々な事情から自分は普通の人とは(悪い意味で)違う、という事に気づいていた。
けれどそれは本人が訝しむ程には、他人から見て顕著な物ではなかったようで、当時の私を知る大人達はただ『大人びた子だった』と口を揃えて言った。
この頃私はアニメの再放送でお気に入りの話があった。
それは妖怪人間ベム。
特にオープニング曲が好きで、
《♪闇に隠れて生きる~俺たちゃ妖怪人間なのさ》
《♪月に涙を流す~俺たちゃ妖怪人間なのさ》
《早く人間になりたーい!》
の節が幼い私の心を慰めた。
姿形は人間と似ているが、どうにも人間に似て非なるもの。
私も同じだ。私も、早く人間になりたいなぁ、とベム一行を見守っていた。
閑話休題。
そんな私も、どうにか人間に擬態しながら生き延び、19歳にまでなった。
『え?私もうあと1年で20歳?…来年には私、大人になっちゃうの?!』
そんな当たり前の事に戦慄した、19歳の当時。世界情勢、取りわけヨーロッパ社会情勢は非常に緊迫した状態であった。
ISISによる日本人人質2人が殺害された事件は未だ、記憶に新しい。
パリ同時多発テロを始めとし、パリシャンゼリゼ警官襲撃、ノートルダム大聖堂警官襲撃、ニーストラックテロ、ベルギー連続テロ、ロンドンウェストミンスター襲撃テロ、ロンドン橋バラマーケット襲撃テロ、ロンドンフィンスベリーパーク襲撃。
小娘の自分が覚えている事件だけでもこれだけの数になる。
私には、当時でかれこれ4年来のフランス人の友人がいた。
彼女は語学を専攻する大学を目指していて、特に日本が大好きであり、将来的には大学生になったら留学先は日本と決めているほどの筋金入り。
ニュースでは度重なるテロでフランスへの渡航を取り止めたという日本人のインタビューが流れており、彼女が日本に来るときに(渡航禁止等の問題で)航空券はとれるものなのだろうか、とふと思い立ち、何となく航空券予約サイトを覗いてみた。
成田空港⇄シャルル・ド・ゴール
往復便75,550円?!
呼ばれているのだと思った。
気がつくと、私は3ヶ月後の航空券を購入ボタンをポチっと…。
どうなる、私。
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