おまけこぼれ話 まほろば2
これは茶島が異世界転移をしたばかりの頃の話である。
霧に煙る国、ユースのとある廃屋の扉を“まほろば”へと通じるようにし、初めて“まほろば”へと案内された茶島は、タマモちんに連れられ、玄関からすぐ傍の扉へと案内される。
濃い木目のシンプルな扉だ。
「ここが食堂ですね。主に、タマモと先生がスイーツを食べるのに使います」
“まほろば”は先生の魔術で増築が可能だが、増築には時間がかかるため、作業が終わるまで、食堂に住むように言われた茶島であった。
だが、元々料理に興味を持つ彼にとって、食堂、特に異世界の食堂というものには興味を引かれる物が有った。
故に期待に胸を膨らませてしかるべきなのだが……
「へぇ……異世界の食ど……げぇ!? なにこれ!!」
茶島の目に飛び込んできたのは、ゴミの山だった。
大きな楕円の木製の机が一つ。その周りに木製の簡素な作りの椅子が三脚。
だが、他が見えない。文字通り、見えない。
壁紙は白色、なのだろうか? 若干茶色っぽい色がついているのだが……というか、壁にまでゴミが詰まれて壁のほとんどが見えない。壁がそうである以上、もちろん床は足の踏み場が無く、床の様子も分からない。
部屋の壁際にあるのは食器棚、だろうか? 埋もれている。奥に通じる通路もあるようだ。だがゴミが多くて通れそうにない。
何かのケーキ屋の箱。スイーツの包み。お菓子の袋。ビニールゴミ。瓶にペットボトルに紙パックに革袋。よく見ると食べかすも大量に落ちている。
ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、またゴミ、その上でゴミ、更にゴミ……そして、虫。
「じゃあ、茶島さんにはいったんここに居てもらって」
「嫌だ」
茶島は思わずそう口にした。
「へ?」
「なんでこんなゴミだらけのところに居なくちゃならないんだ! というか、掃除は!? 前に掃除したのはいつだ!?」
タマモちんがちょっと後ずさる。
「掃除……しなくてもなんとか」
「ええ? 足の踏み場が無いんですけどどうしてんの!?」
迫る茶島、退くタマモちん。
「えっと……頑張れば、なんとか?」
確かに、人類支援ユニット、などと名乗り、ローブなどに変身できるタマモちんからすれば、足の踏み場などなくても何とかなるのかもしれないが。
「俺にはそんな魔法みたいな
そこに先生が現れる。
彼が持つ『
先生が茶島に言う。
「ああ、茶島くん。部屋の希望はあるかね? どんな部屋が良い、とか。内装はすぐに揃わないと思うけど」
「そんなことより何このゴミ!」
「え?」
先生もちょっと引き始める。
タマモちんは、怒れる茶島を脇にそっとその場を離れ、奥からケーキの箱を持ってきて、机の上に置き、その中からチーズケーキを引っ張り出して食べ始める。
「ごみの分別とか以前に床に捨てちゃだめでしょ!」
タマモちんがチーズケーキのラッピングを床に捨てる。
「特に生ごみはダメ!! 絶対に!!」
タマモちんがおずおずとチーズケーキのラッピングを拾う。
「というか、もしかしてゴミ処理所が無いんじゃないですよね?」
「え、まぁ……一応、ほら、僕もタマモちんも、食事が必要なわけではないし……病気にもかからないし」
「俺は一般人です! 俺もここに暮らすなら、その辺はちゃんとしてもらわないと困るんだって!!」
先生も気おされて退き始める。
「う、うん。そう、だね。すまない。ごみ処理所も増設しよう」
そして、茶島は言う。
「とりあえずですね……今欲しい物があります」
「あ、うん……なに、かね?」
すっかり引いている先生である。
「ゴミ袋とゴミ箱と掃除機ですよ! 濡れ雑巾と乾拭き雑巾、消毒アルコールに歯ブラシとスポンジ! マスクとゴム手袋も! 掃除用具をください!!」
「ちゃ、茶島くん、ちょっと怖い」
「怖くて結構!! 足の裏にスナック菓子の欠片がつかなくなるまで、今から俺が掃除ます!!」
その後、先生とタマモちんはゴミを床に捨てることは無くなった。
また、この『まほろば』にゴミ処理施設が、茶島の部屋より先に増築されたのは言うまでもない。
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