第三話:黒装の魔術師、21世紀前半にて、世界の終わりを傍観する。

拝啓、突然ですが、世界が滅びます。

 拝啓、父さん母さん、兄ちゃん姉ちゃん二次元の妹、クラスのマドンナの栗花落つゆりさん、部活のマネージャーの遠崎くん、お隣の家のアレクくん、ついでに親友のかける、お元気ですか?

 突然ですが……俺が転移した異世界が滅ぶまで、秒読みが始まったようです。



 俺は今、異世界が焼却される現場に居合わせています。



 ……うん。俺、何言ってるんだろうと思うけど、そんな状態らしい。



「なるほど。彼女はよほど人類が嫌いらしい。全ての人類を、殺意を持って焼却し、魂を消却している」


 俺の傍に居る、全身黒づくめの黒髪の青年がそういったのを、俺は茫然としながら聞いていた。


「直に……ここも焼け落ちるだろうね」



 遠くで、巨大な炎が女性の悲鳴を上げながらのたうち回り、あらゆるモノを焼いていく。

 悲痛な叫びが、更に多くの叫びを巻き込んで、怨嗟が目の前に広がっていく。



 俺から少し離れたところで、人が、人々が悲鳴と共に焼け落ちる。

 炎の中に骨を黒く残して、人が、人々が燃えていく。


 俺は、すぐ傍に居る青年の胸倉を掴んだ。

 だが、何を言えば良いのか、俺の頭はうまく言葉を紡いでくれない。


「なんだい? ……ああ、キミはこう言いたいわけだ。

 『どうして、人々を助けないのだ』と……その答えは単純だよ、茶島 シュン」



 青年は俺の腕をひねり上げながら、淡々と、言い聞かせるように俺に言う。



「ボクには、彼らなんて何の価値もない。世界が滅びようと、ファンタジアの全ての人類、生物が焼け苦しみながら死のうとも何の感慨も湧かないよ」


 そして、続けて言う。


「それよりも、だ……茶島 シュン……キミの師匠はいつ来るんだ? このままでは、キミ使徒の同行者も焼け死ぬのに」



 不気味な笑みを浮かべながら、彼は続ける。



「ああ、早く……早く来ないかな……白磁の少年、か……

 この手で、殺せる時が……もうすぐ近くまで来ている!」



 そう言って高笑いするその青年の傍で、人が、人々が、世界が……焼け死んでいく……



 どうして……こうなった……



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