第三話予告
いつの話だったか……先生とこんな話をした気がする。
「そういえば茶島くん、この間、簡単な魔術を使えるように、教科書、渡したよね? どれぐらい読めた?」
「え? あ……その……は、半分? ほ、ど……」
とある移動中の電車の車内、夜明けの光が山の稜線から宵闇を切り裂くように伸びているのが車窓から見える。
けれどその灯りがまだ室内に満たされていない、この薄暗い客室の中で、向かいの席に座り本を読んでいる先生に俺は答えた。
「な、内容がその……難しくてですね……」
「え? あれで!? ……そうか……んー」
先生が俺に渡してきたのは『豚でもわかる魔術基礎』という、ちょっと小ばかにしている厚手の本だ。
内容は、翻訳スキルのおかげで読めなくはないのだが……
「というか、やっぱり異世界人には魔術なんて無理なんですよ。なんですか? 『丹田から魔力の流れを感じ、それをゆっくりと手から、昇る陽炎か蒸気のように出るイメージで』って……気功かなんかですか? 念とか?」
先生はあきれ顔で少し笑ったあと、本から目線を外さずに俺に言う。
「んー、確かに、魔術の素養が濃かった時代と、魔術の素養が薄かった時代の差は、
車窓から見える山の稜線から、白色の光が夜を薄めていく。
「これで……あ、はい。俺には魔術の才能なんてないです。……ちくしょう……だいたい、何ですか? この『ヨハン・フィドル』って著者。すっごい要所要所で読者を小ばかにしてくるんですよ!」
先生は本を閉じ、俺から『豚でもわかる魔術基礎』を受け取って答える。
「ヨハンは……僕の弟子だよ」
「弟子? 弟子の本なんです?」
先生は肩を竦めて続ける。
「弟子を断ってもなお、弟子入りしたいというんで、無理難題として書かせた物なんだ、これは。『弟子入りしたいなら、才能がない者でも解るように魔術の基礎を書いた教本を作成してきなさい』ってね」
「で……そのお弟子さんは無理難題をクリアして見せたと……」
「ああ……彼はすごい才能の塊だった。僕をこえるほど逸脱した魔術の才を持った少年だった。だがそれだけに……少々性格に難がある。根は良い子なんだがね……多分。
会っても、関りは持たない方が良いだろうね。難儀するよ。君も僕も」
第三話:黒装の魔術師、21世紀前半にて、世界の終わりを傍観する。
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