第二話:哲学者、14世紀前半にて、通りすがりついでに追われた少女を救出する。

拝啓、突然ですが、またしても死にそうです。



 拝啓、父さん母さん、兄ちゃん姉ちゃん二次元の妹、お元気ですか? 突然ですが、またしても俺は死にそうです。


 俺は今、異世界のとある町、古めかしい西洋風な感じの町のその裏路地の一角に隠れています。


 腕の中には小さな女の子を抱えながら空の樽の中に隠れて……待って、警察から逃げてるわけじゃないからな! 事案じゃない!! そうじゃねぇ!!



 ごほん。……えーっと? あ、うん。そんなこと言ってる場合じゃないんだ。



 俺はひょんなことから、この女の子と一緒に人狼……あの人外の怪物から逃げている最中だ。

 逃げた先で咄嗟に空の樽を見つけ、彼女を抱えて中に入って蓋を閉めた。ここは真っ暗で埃っぽいが四の五の言ってはいられない。

 姿が見えないが、怪物が近くに居ることは分かる。

 なにせ足音や荒い吐息の他に……


「どこだ? この近くだろう? 匂うんだよ。わずかに混じる……人の匂いだ。血の匂い……美味そうな匂いだ」


 奴は喋りながら、辺りを散策しているからだ。

 それに、女の子は、あの人狼に襲われて肩を怪我している。傷は深くは無いが見るには痛々しい傷だ。なにより、血が落ちれば逃げるのは難しくなる。こんな傷で不衛生なところに隠れたくはないが、背に腹は代えられない。


 あの人狼は、俺たちを追い詰めて殺すことを“楽しんでいる”……だから、わざと他の隠れられそうな場所ばかりを探して、徐々に徐々に近づいてくるのが分る。


「どこかなぁ? ここかなぁ? 違うなぁ。じゃあ、この隣かなぁ?」


 そして、人狼の……怪物の足音が俺たちの隠れる樽のすぐ傍で止まる。


「ああ、どうしようかなぁ、あとは、この樽だけみたいだなぁ」


 真っ暗な中、樽の側面を鋭い爪が引っ掻く音がする。

 腕の中で、女の子が小さく震え、すすり泣く声が漏れる。



 ともあれ、今まさに、今一度俺が言えることは一つだ。




 どうしてこうなった!!




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