「なんかさ、怖そうな人じゃない? 目とかさ釣り上がっちゃってるっていうかさ。真面目すぎる感じがして嫌だよね。なんか学校の先生みたいでさ、私なんかじゃ会った瞬間に怒られそうだよ」

「彼女の職業は科学者だよ」男は言う。

「ああ。そっち系なのね。うん。それっぽい。言われてみるとすごく納得できる。そんな顔しているもん」と少女は嫌そうな顔をして言った。

「見たことない?」男は聞く

「ない」少女はすぐに答える。

 それから少女はにんまりと微笑みながら男の体の上に自分の体を無理やり重ねてきた。男は吸っていたタバコを灰皿でもみ消した。少女も思いっきりタバコを吸ってフィルターぎりぎりまでその長さを短くすると大量の煙を空中に怪獣の真似をしながら吐き出て、男と同じように灰皿でタバコをもみ消した。それから二人はお互いの唇をくっつけるだけのキスをする。

「とりあえずもう一回しようよ。これは無料ってことでいいからさ」と少女は言う。 

 無料でいいとはどういうことだろう? と男はすこし考えてみる。少女が自分のことを気に入ってくれたということなのだろうか? それとも少女は男のことを金を持っている人間と認識したのだろうか? どちらかというと後者の可能性が高いように思えるが、まあどちらでも構わない。最初から男に異論はない。お金を払わなくていいのなら、それに越したことはないのだ。

 男は無言のままそんな少女に言葉の代わりに微笑みを返すと、二人の周囲に広がる最低な世界から逃げるようにして自分に甘えてくる少女の頭を、そっと優しい手つきで撫でた。すると少女はとても嬉しそうな顔をした。

 ……もしかしたら少女は誰かの温もりを求めていたのかもしれない。嬉しそうな少女の顔を見て男は自分には似合わない、そんな場違いなことを考えてしまった。

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