転生物について、あれやこれや

 ファンタジー=異世界転生、或いは転移と言う風潮が好きじゃない。


 一から世界を作り、国や歴史を作り、キャラクターを作って物語とするのがファンタジーであれば、転生や転移に拘る必要はない。


 ただ、分り易さを求められる、いわゆる「なろう系」もファンタジーだと言うのには異存はない。


 ファンタジーの懐はやたらと広いのだ。


 例え、殆ど現代と変わらない世界で仕事に圧迫されるような世知辛い物語を書いても、猫が喋ると言う一事が混じればそれはファンタジーとなる程に。


 そう言う意味では広義のSF(SFが死んだ? 馬鹿を言うな)とそん色はない筈だが、『ファンタジー=異世界転生、或いは転移』と言う固定観念を持ってしまわれた方は、ファンタジーを毛嫌いする。


 まあ、異世界転生、或いは転移がこれだけ流行れば食傷気味になるのは分からなくも無い。


 等と言いつつ、今書いている新作はばりばりの異世界転生、転移物な訳で、嫌いな方には申し訳ないなと思うのだが。



 私は転生物も転移物も好きだ。


 バロウズ(ERBの方)の火星シリーズは南軍の元大尉ジョン・カーターが火星に転移して、恋の冒険に奮闘する話だし、ラブクラフトのランドルフ・カーター物も転移物と言えなくもない。


 転生で言えば、私の愛するC・A・スミス等は魔術師の転生者であり現代を生きる男が古代の呪具を通して恐るべき神を垣間見て、現世と過去世が交じり合い、無形の者となり果てる「ウボ=サスラ」や、蛮人コナンで有名なロバート・E・ハワードの中編に現世では病弱で死に掛けている男が、前世である強靭な戦士であったころを追憶する「妖蛆の谷」など、幻想怪奇小説には数多あるからだ。


 確かに今流行っているような、転生して無双すると言う流れはあまりないが、まあ、それは私が読んでいる物が偏っているせいかもしれない。


 どちらにせよ、転生物も転移物も昔からある話である。



 昔からあるのは分かったが、昨今のは毛色が違うんじゃないか? と、お思いの方も居るのだろう。


 私でもそう思う。


 だが、それは時代の流れであったり、それこそ流行だったりするだけの話では無かろうか?


 後はその流行が好きか嫌いかだけでしかない気がする。


 ただ、今の転生物を見ていると少し勿体ないと思うのだ。


 今の転生物は、転生する側の視点でしか語られない。


 最初から自分を認識していたり、唐突に過去を思い出すものが多いから当然と思われるのだろうが、そうでは無い物もあるのだ。


 死んだともったら他人の身体に入っていたパターンだ。


 この場合は、急に人が変わる訳である。


 今までろくでも無かった奴が急に紳士的になる、それは当人にしても周囲にしても良い事だろうが、ろくでも無かった奴の意識は何処に消えたのだろうか?


 無論、元の身体の意識が何かを策謀してそうなったと言う話もあるが

そうで無かった場合は如何なるのだろうか?


 そう考えると『ラヴクラフトの遺産』と言うアンソロジーに載っているチェット・ウィリアムスン著の『ヘルムート・ヘッケルの日記と書簡』は、正にそのろくでなしについて思いをはせる手掛かりになるだろう。


 前述の作品がそうだと言う訳では無いが、前世の自分が現世の自分を侵食して、乗っ取ると言うと一気にホラー味が増さないだろうか?


 見知らぬ世界の前世の住人が、自分の心を支配し、自分の意識を消して肉体を乗っ取るのが転生物なのだとしたら、これはいま迄を生きてきた物からしたらとんでもない恐怖では無いか。


 そいつにしてみたら、乗っ取られた後に自分が英雄になろうがハーレムを築こうが、意識が霧散して全く関係が無いのだから。


 その乗っ取られる過程だけで珠玉のホラーが出来そうだなと思うのだ。



 さて、先程書いたが、新作はばりばりの異世界転生物、転移物である。


 ホラーにするつもりはないが、上記の事を踏まえた話作りをしている。


 己のとは言え魂の根底が求める物が、今を生きる者へ幸せをもたらすのか?


『ネクロマンサー・プリンセス ~ボッチの姫に呼ばれたのは異界の魔人~』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054891004768


 はい、そう言う訳でこのエッセイは宣伝だったわけだ。


 もしかしたら、それが一番恐ろしいのかも知れない。(そうかな?)

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