新しい約束
雪 よしの
第1話俺たちの再会
俺はしゃがみこん頭をかかえた。3年目の同窓会。夜に宴会の予約をとった居酒屋”海民”が、電話にでねえ。昨日は連絡ついたのだが。
「よ、麻木、どうかしたか?お腹でも痛いとか」
「黒木~~。どうしよう。予約してた居酒屋”海民”が電話に出ない。一名追加するんでかけたんだが」
集まったクラスメートは、顔を見合わせる。
俺たちは、川上町川上高校を、3年前に卒業。俺たちを最後に、学校は閉校になった。3年生の時は俺たち27名しかいなかったけど、高王生活は充実して楽しかった。仲もよかったし、今はラインでやりとりしてたりする。
5月12日(つまり今日)、声かけをして、同窓会を開く事になった。集合場所は、今は閉校になった川上高校のグランド。午後になったとたん、少し曇って来た。風もでてきた。満開のエゾヤマザクラが濃いピンクの花びらをちらしてる。
「麻木・・・ところで今日の出席者は結局、何名になったんだ?」
「20名かな、日曜日に仕事がある奴も多いからな。」
もう一度”海民”に電話をしたが、呼び出し音が鳴るだけだ。
ちょっとまずいか。グランドで話しに花を咲かせてる同級生たちに声をかけた。ここからバスで1時間のM市で働いてるヤツもいる。
「海民と連絡がつかないんだ。何か知ってる奴いるか?」
「ああ、そういえば”海民”、不況のせいか人が、たまに行ってもガランとしてたわ」
そう教えてくれたのは、クラズのマドンナ的な存在だった洋子ちゃんだった。M市で働いてる。
俺の大声は、みんなに届き、それぞれ一斉にスマホで検索をはじめた。
SNS情報なのか、”海民”の経営者が、給料未払いのまま、行方をくらましてるという情報を見つけた。まじかよ。
「わりい、皆。予約してた”海民”だめかもしれない。」
俺たち20人はざわついた。っと、数えると今は19人。
「まだ来てない奴がいるけど、誰だ?」
「氷室君。川上町の実家の農業を継いでるらしい。担任がチラっと聞いた」
その言葉に、周りから驚きの声があがった。
「氷室君、私、東京の危ない自由業やってるって聞いた」
「俺は、刑務所にいるって聞いたぞ」
「なんだか、ヘタこいて、カニ漁船に乗せられたって話しも聞いたぞ」
実は仲良し27名の中で、氷室君だけは、少し謎だったんだ。仲が悪い訳じゃないんだが、ツルんで遊ぶとかはなかったし、授業中も休み時間も爆睡してたり、遅刻早退の常習。髪は金色の、ツンツンヘア。いわゆるヤンキーといってもいいか。昨日になって俺に出席の連絡をしてきた。
俺たち19人、グランドで呆然として中、ブルルと警戒なエンジン音聞こえた。グランド横に軽トラックがとまり。噂の氷室君が出て来た。作業着に長靴、トラックには農作業に使ったのだろう器具がのかってる。
「チィーっス。仕事の途中、抜けて来た。今日は夜、何時から宴会?」
「氷室!!!」
皆の声が重なった、”お前、本当に農業やってるんだな”という言葉は、俺以下全員飲み込んだ。
「ちょっとばかし寒くなってきたし、夜には雪がちらつくかもな。みんな外にずっといたら風邪ひくぞ。で、宴会はどこで何時?」
お前の興味はそれだけかい!とつっこみたいのを、我慢。”海民”の話しを説明した。氷室は黙って聞いて、少し考えたあと、どこかに電話をした。
「オッケー。こっちでやろうぜ、今、川上町の地区会館をおさえたから。こっから車で10分。そこでジンパやろうぜ。そうと決まったら、M市に肉と野菜、お酒の買い出しだ。誰か言ってくれる?」
いやいやいや、決まってないし。氷室ってこういうキャラだっけ?
「氷室君、ジンパって何?それに、”海民”だって、たまたま連絡がとれないだけかもしれない。」
「じゃあまあ、とりあえず、その店の偵察だな。店がつぶれてたら、こっちでジンパ。ジンギスカンパーティーするべ。いつも高校で学園祭の終わりにやってたじゃんか。本当ならバーべキューのほうがいいんだろうけど、何せ今日は季節外れの寒さだからな」
そうだったな。生徒数が少ないので、教員も地区の人も手伝ってくれた。最後はジンギスカンで終わり。で氷室は、学祭の準備はしなくても、そこだけはかならず参加してたもんだ。
女子たちは。偵察もしくは買い出しにでた.もし海民が営業してたなら、M市にくりだす。そうでなければ、買い出しだ。
M市に行った女子からの連絡がきた。
{”本日をもって閉店します”って店の扉に張り紙がしてあった。周りい従業員らしき人がいるけど、店は鍵がしまってて開かないそうよ」
決まりだな、もう頼みは氷室しかいない。彼は女子に買い物の大雑把なリストをおくった。
*** ** *** *** *** *** *** *** ***
ジンパは大成功。しかも安くすみそうだと、俺はホっとした。
肉をほおばる氷室の横顔を見つつ、確か、こいつって成績悪くて留年ぎりぎりだったんじゃなかったっけ?職員室に呼び出しくらって、補修でなんとか卒業できたとかなんとか。
「よ、麻木。札幌の生活はどうよ。すっかり都会人じゃねえか」
「氷室、お前、ラインの返事が、”文字を打ってるヒマねえ”の絵文字ばっかだったよな。それに妙な噂とびまくりだったようだぞ」
その後、俺は氷室の事を根掘り葉掘り聞いた。
なんでも、祖父母は農家で、その手伝いがてら、川上高校に通ってたんだとか。高校はオマケかよ。その時は、実家の農業は破綻寸前。無口だったのは誰にも言わなかったのは、意地と見栄、そして本当に忙しくて疲れてたんだとか。”先生方も事情を知ってるから、だいぶ大目にみてもらった”なんて天真爛漫に笑う氷室。
「あら雪だわ。桜が咲いてるのに、これなら花散雪ね。信じられないけど。」
「ははは、洋子ちゃんは、変わらないな。頭がいいというかフウリュウっていうの?でも大丈夫。例え花はちっても、桜はこのくらいの雪にはビクともしねぇし」
しばらく、皆の話しを聴いてて、少し高校時代が懐かしく思った。もう戻る事の出来ないあの頃。思い出の校舎は、そのうち解体されるのだろう。もともと古い建物だったしな。
「洋子ちゃんとも相談してるんだけどな。おれらの高校、閉校になったじゃん。あれ、町長が粘って、廃校をカイヒしたんだと。で、卒業生と一緒になって、今、川上高校の再開を目指してるんだ。何かいいアイディアとかあれば、協力しちくれ。
クラスでも浮いてた俺が頼むのも、もし分けないんだけど」
俺は氷室の提案をクラスに回した。氷室は変わった、いやもともと、こういう性格だったのかもしれないが。
3年間、校舎は時折、行事に利用されるぐらいで、ほぼ無人だったそうだ。それにかかわる人は、再開に向け活発に動いていた。
「ねえねえ、氷室君の金髪ヘアって、実は蜂が怖いからなんだって。蜂は黒い物を攻撃するからね。蜂よけね」
「おめ、バラすなって」
二人で楽しそうにジャレてる。アーア、氷室のやつ、上手い事やってる。
で俺たちは、新しい川上高校を作る会 を結成し、その日は朝まで話しをしたんだ。これまでの3年間の事、これからの事も。
新しい約束 雪 よしの @ashibetu
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