鬼祓い

鷹野友紀

第1話  藤倉一弥の初仕事? 


 カッターシャツに制服のズボンの学生が歩いていた。

 彼の背にはかなりの荷物が見えたが、その足取りは軽くずんずんと見渡す限りの田園風景の中を歩いていく。

 名を藤倉 一弥かずやという。

 此処は居倉という地名である。


「ふう。バスも無いのか此処ら辺は……」

 じんわりと汗を流しながら一弥はこう呟いた。

 時刻は五時を回っていた。

 だが、この時期はまだ日が高い。

 三方を山に囲まれているが、唯一西には何も無かった。遥か遠くにうっすらと山間が映る。

 居倉口駅から目的地までは十キロは優に有あった。

 もともと先方からは車で迎えに来るというありがたい申し出が有ったにもかかわらず、それを一弥の父――藤倉 基経もとつねが丁重にお断りした事がこの事態を引き起こしていた。 

 そんな訳で一弥はこんな時刻に父の使いでこんな田舎の周りには見渡す限り田園しかないような場所を歩いている。

 日が傾き暗がりが東の方から迫ってくる。

 すぐに暗闇に覆われると先ほどまでの石畳の道は急に寂しくなった。

 なんでも基経は今日に都合が出来たので一弥に一晩、ある所で寝ずの番をしてくれと頼んだのであった。

 一弥は渋々ながら同意した。

 父は高名な鬼祓い師で実に多忙だった。

 田舎道は先ほどからつき始めた点々のささやかな電灯が石畳を照らしていた。

 一弥はかなりの行程を進んだのだろうか小高い丘を見上げるとそこに小さく光が見えた。人家のようである。此処が父の言っていた家だろうと思って歩を早めた。

 こんな暗い夜には小さな光でも人は人恋しくて光に吸い寄せられていくのだろうか。それは夏の夜の小さな昆虫たちが火にむかって急いで飛んでいく心が少しわかったように感じた。




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