第48話 金なら1枚、銀なら5枚


 かたん!と音をたてて、食券のうえに銀色のプレートが落ちてきた。ヒチコックは目を瞠る。

 派手な演出にびくんとなっていたヒチコックに、店内の客と店員から盛大な拍手が送られる。

「おめでとう」「やったな」そんな声があちこちから掛けられる。


 ヒチコックは照れくさそうにちょこんと頭を下げると、銀色のプレートをつまみ取る。

 拡張表示で解説が出た。



『これは、シルバー・チケットです。ここぞという時にご使用ください。その時その場で、その人に必要なアイテムが出るはずです』



「うおー、凄いの出ましたよ、死織さんっ!」

「ほお、シルバー・チケットか」死織は感心した声をかえす。「金なら1枚、銀なら5枚って言ってな、『ハゲゼロ』では、3年間の間にだいたいゴールド・チケット1枚、シルバー・チケットが5枚出ると言われているんだ。俺はゴールドを貰った記憶はないが、シルバーなら何枚も貰った気がするぜ」

 すごく曖昧な経験談である。


 が。

 そんなアイテムが、LV3でもう出たんだ! ヒチコックは嬉しくなってシルバー・チケットを大事にストレージに格納した。アイテム一覧を開いて、そこに銀色に輝くシルバー・チケットがあるのを確認する。きらきら光る銀色のカードを見ているだけで嬉しくなる。


「いいから、おまえ、ちゃんと食券も取れよ」

 死織に注意された。

「はーい」

 ちょいとへこんだヒチコックだが、死織がアドバイスをくれる。


「大事に使えよ。だが、チケットはお守りじゃねえ。使うべきときには、思い切って使うんだ。大事なアイテムは、使うべきときに使う。それが、すべてのゲーム共通の、攻略のコツだぜ」



 店内はカウンター席ばかり。それが全部埋まっている。空席ができるたび、列の先頭のプレイヤーが腰かけ、カウンターごしに店員のNPCに食券を渡し、ひとつふたつ言葉をかわしている。

 そして、ヒチコックはあることに気づいた。


「死織さん、あれ……」

「ん?」


 カウンターごしに出されたラーメンである。

 どんぶりは、大き目サイズだった。だが、そこからのぞくラーメンは、チャーシューやもやしやキャベツが、富士山のように盛り上がり、これでもかとばかりに、無茶にのっけられている。


 ちなみに、いまのヒチコックと死織は、たこ焼きを食べ、焼きそばを食べたあとの、小腹が空いただけの状態。は食べられない。


「いやいやいや」隣で死織が苦笑した。「あれはきっと、特盛りとかチョモランマ盛りとかのオーダーだろう。俺たちが頼むのは、ただの普通のラーメンだからさ」

「ですよね」

 ヒチコックはほっとして隣の死織を見上げた。



 が、見ていると、店員が客に出すラーメンは、ひとつの例外もなく、どんぶりから具が山のように盛り上がっているのである。それは、見ようによってはひとつのオブジェにすら感じられた。存在感、威圧感、そして量感が半端なかった。



「でも、あの特盛みたいなのしか、さっきから出てきてないですけど。普通のサイズのラーメン、だれも頼んでないってことですかね?」

 不安になってヒチコックはたずねた。


「いやいやいや」死織は笑う。ちょっと顔が引き攣っているが。「だって、俺たちが買った食券は、普通のラーメンのだぞ。値段だって6Gだ。『ハゲゼロ』でのランチ代のレートは、普通5から15G。ディナーで10から30Gってところだ。たった6Gで、あんな大量の食事が出てくるはずがないさ」


 たしかにそうである。

 さっき食べたたこ焼きが4Gなのだ。6Gであんな特盛の巨大なラーメンが買えるはずがなかった。

 きっとヒチコックたちの分は、ちいさい普通のサイズのラーメンが出てくるにちがいない。


 店員が2人並んで座れる席を用意してくれている。ヒチコックと死織の席だ。


「死織さん。ここって、有名店なんですよね?」

「さあ? 行列してるから、そうなんじゃねえの?」

「表の看板、見てきましたか?」

「えーと、表のかんばんには、『二郎』って書かれてたな」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る