第47話 ラーメン屋の行列にならぶ


 ヒチコックたちは大通りを歩き、街並みの上に突き立つ教会の尖塔を目指した。


 途中で一度曲がると、道が開ける。まっすぐな大通りの奥に、教会の姿がはっきりと見え、その向こうに建つホテルの影が確認できた。

 さらに近づいてみると、教会とホテルでは、ホテルの方がちょっと背が高いことが分かる。また、尖塔に見えた教会は、てっぺんに小さな十字架があり、その周囲が屋上になっているみたいだ。もしかしたらあそこでお祈りしたりするのかもしれない。


「かっちょいい教会ですねえ。あとで見学にいきましょうよ」

 ヒチコックは提案する。

「でも、ホテルと隣接してるぞ。あれは、ホテルの、教会側の部屋の眺めは最悪だな。教会で視界が遮られちまってる。泊まるのは、反対側の部屋にしてもらえよ」

 とは、死織の現実的な意見。


 教会の正面では、いままさに、さっきの4頭立ての馬車が止まり、ドアが開いて中から白いベールで顔を隠した聖女様が出て来たところ。あんな美人のNPCもいるらしい。

「おー」

 思わずヒチコックは声をあげて拍手した。



 たこ焼きだけではまだお腹が空いているので、ヒチコックは死織に「あれも食べません?」と提案した。屋台の焼きそば。

「まるでお祭りメニューだな」

 といいつつ、拒絶はしない死織。今度は死織が奢ってくれた。

「ああ、ビール飲みてえな」とか言っていたが、あいにくビールは売っていない。


 食べ終えた2人はそのあとホテルを目指して進み、でもまだあと少しだけ小腹が空いており、目線はきょろきょろと大通りの左右に走っている。


「なあ、ちょっと小腹すいてないか?」

 死織が提案する。それはまさにヒチコックが感じていたことそのまんまだった。

「あたしもなんですよ。あとちょっと何か食べて、満腹になりたいですね。あ、ラーメンなんかどうですか?」

「そうするか」

 死織はヒチコックとが指さした店を見てうなずく。

 ヨーロッパ調の街の外観をぶち壊す第2のオブジェクト。そこにはベタな『ラーメン屋』が建っていたのだ。


 そのラーメン屋は、ちょっと古い感じのデザインだった。黄色いかんばん、白いのれん。あまりにありがちな感じである。

 だが、昼前だというのに、その店頭にはすでに行列ができていたのだ。一目見て、人気のラーメン屋だとわかる。


「並んでみるか」

 歩き出した死織に、ヒチコックはついていった。ちょうど小腹がすいているし、行列に並ぶのも調味料のひとつ、と聞いたことがある。

 2人は、列の最後尾についた。


「人気の店なんですね」

 ヒチコックは小声で死織にささやく。なんか常連っぽい人が多くて、あんまりバカな話を大声でできる雰囲気ではない。

「みたいだな」

 死織も小声で返してきた。

「おまえ、ラーメンとかよく行くの?」

「いえ、あたしは、行きません。死織さんこそ、行くんですか?」

「いや俺は、少なくともラーメン屋には、詳しくない」



 列の動きは案外速かった。

 ヒチコックと死織は、ちょっとずつ進み、やがて店内に入る。

 行列は店の中までくねっと続いており、満席のカウンターではプレイヤーたちが無言で麺をすすっていた。

 店内は、店員たちの喧騒と、オーダーを確認する声が、立ち込める湯気にこもって騒然としている。プレイヤーたちの麺を啜る音がBGMのように響いていた。無駄口をたたかず、ただひたすら麺にいどむプレイヤーたちの姿は、一種荘厳ですらあった。


 列が進み、2人は券売機の前にたつ。

「1番安いのでいいな」

 死織が小声で確認し、ヒチコックはうなずいた。


 死織がまず買い、つぎにヒチコックが銅貨を入れてボタンを押した。

 その瞬間、華やかなファンファーレが鳴り響き、拡張現実AR演出で花吹雪が舞い散る。



『おめでとうございます!』店内にアナウンスが鳴り響く。『あなた様は当店、1万人目のお客様でございます。記念品として、こちらの景品をお受け取り下さい!』


 ヒチコックは、びくんとなってしまった。



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