ヒチコック・ザ・ガンナー

第25話 連撃、連射、連弾!


 ヒチコックが空になったマガジンを抜くと、手に残った銃は異様に軽くなった。腰のマガジン・ポーチには、予備の弾倉はまだ実体化していない。再装填まで10秒の時間がかかるのだ。


「逃げろ!」

 果敢にオーガに挑む死織が、悲痛な叫びをあげている。なんとかしたい。でも、弾の無いガンナー・ヒチコックに、できることはない……。


「お姉ちゃん、これ」


 足元に抱き着いてきたメイミーが、小さい両手で大事そうに持ったアイテムを差し出してきたのは、そのときだった。

 メイミーの両手に乗った四角いアイテム。拡張現実A・R風に開いた解説ウィンドウに『特別ボーナス』の文字とともに短い解説文が表示されている。


『回復弾。これで撃たれた者は、HPが1発あたり…………回復される』


 ヒチコックは、全部読まずにメイミーの手から、そのマガジンをひったくった。

「ありがとっ!」

 弾頭が緑色の特殊弾が詰まった、ずしりとくるマガジンをすばやくガバメントの銃把に叩き込み、スライドをリリースする。

 ばっ!と銃を構えると、赤いチャイナ・ドレスの死織の背中に向けて、トリガーを引いた。

 ガンっ! ガンっ! ガンっ!


 着弾のたびに、視界のすみでパーティーメンバーである死織のHPゲージが、ぐっ、ぐっ、と伸びてゆく。

 ヒチコックは落ち着いて狙ったが、死織が動いていたため、7発中1発外すも、死織のHPを半分以上回復させることに成功した。


「このバカ野郎!」回復してあげたのに、死織に怒鳴られた。「敵に1発当てたろっ! オーガの奴も、ちょっと回復したぞっ!」

「いいじゃないですかっ! 1発くらい!」

 ヒチコックも言い返し、マガジン・ポーチにちょうど今出現した新しいマガジンを抜き取ると、実弾をリロードする。

「来ました。10秒経ちました!」

「ヒチコック! タッグ・チェンジだ!」


 言うや否や、死織がバク転でオーガの前から離脱してくる。

 当然、オーガの前にたつのは、ヒチコック。


「えっ、えっ? あたし?」

 ぎょえーっと思ったが、前に一歩踏み出し、銃口を上げる。両腕を振り上げて突進してくるオーガに向け、怖えーっと思いながら、渾身の連射を浴びせる。

 スライドが弾け、銃が跳ね上がる。薬莢を飛ばしながら、轟音を響かせるガバメントの反動リコイルを抑え込み、トリガーを絞る。


 こころの中で、1、2、3と数え、7の直後にマガジン・キャッチ・ボタンを押して空のマガジンを抜き取り、ポーチから新しいマガジンを取り出す。


「マガジン・チェンジ、ミスるなよ」

 呑気にそんなことを言ってくる死織がなにをしているのかと思いきや、大胆にも戦闘中にモード・チェンジ。格闘モードから魔法モードに戦闘スタイルを変えたようで、回復魔法の『ヒール』をかけたあと、攻撃力アップの『ストロン』、防御力アップの『ディフェン』をかけてくる。

 攻撃力アップは、ヒチコックの銃撃にも効果が現れ、2本目のマガジンの途中から、表示されるダメージ値とノックバック距離が大きく変化した。


 ヒチコックの14連撃が全弾オーガに命中し、最終弾が怪物の胸に突き刺さって、ガバメントのスライドが後退位置でストップするのに合わせて、ふたたび格闘モードへ戻した死織が旋風脚で飛び込んできた。


 体ごと回転する強烈な回し蹴りをくらって、オーガの猪面がのけぞる。

 そのクリティカル・ヒットを足がかりに、死織はパンチ、パンチ、からの肘撃、膝蹴り、両手同時の掌打。穿つような蹴りから、低い体当たり!


 が、そこで死織の硬直。攻撃を出したあと動きの止まるあの魔の時間。

 オーガが復帰し、拳を振り上げ、死織へ……。しかし、ヒチコックの残弾はゼロ!


 ひゅん!と風を裂いた苦無くないが、そのときオーガの目に刺さった。苦無。忍者が使う小型の投げナイフである。

 ヒチコックははっとして、苦無を投げた張本人、カゲロウの姿を探したが、すでに近くにはその影すらなかった。

 助けられた死織は、逆にカゲロウの姿なんぞ探さず、そのままオーガにコンボを叩き込んだ。


 腕を鞭のようにしならせた打撃、単鞭! 掌打から拳打。鷲が翼を広げるようなモーションからの膝蹴りへと繋いで、打ち上げるような掌底をオーガの顎に決めた。


 ぱーん!というエフェクトが光って、オーガの巨体が浮き上がる。

 死織の空中コンボが炸裂!

 宙に浮いてしまったオーガには、もう反撃もガードも不能だった。地に足のつかない巨大な鬼へ、死織のパンチが連発で突き刺さり、肘撃ちから膝! 旋風脚! ミドルキック! 肩からの体当たり! 低い蹴りの連発!


 着地する暇すら与えられず、死織の連撃に翻弄されたオーガは、襤褸切れのように地面に落下した。



 死織はふたたび硬直。落下したオーガは、だがいまだHPゲージが失われていない。


 ヒチコックはアイテム・ポーチから実包を選択すると、一発だけ実体化させた。いまだマガジンは再出現していない。しかし!


 起き上がり、死織に迫るオーガ。

 ヒチコックは、排莢口から45口径の実包を直接薬室に放り込むと、スライドを閉鎖して実弾を装填。銃口をあげて、オーガの頭に照準を合わせた。これなら、1発は撃てる。


 一瞬の脱力。トリガーを絞り、頭を狙って撃つ!


 ガンっ!


 ヘッド・ショット!の文字が表示され、大ダメージをオーガに与える。が、さすがはしぶとい。あと1ドット、ゲージが残っている。ヒチコックのマガジンはまだ再生されない。


「ほわたぁぁぁぁぁっ!」

 死織の奇声とともに、むき出しの電柱みたいな美脚が、醜悪なオーガの頭を捉えた。

 HPゼロ!

 とどめを刺されて爆散し、いくつもの光の小片となって昇天してゆくオーガ。巨大な強敵の、それが最期だった。

 そして……。


 華やかなファンファーレとともにLVアップする死織。


「ああっ、ずっるーーい!」

 ヒチコックは、思いっきり指さした。


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