第18話 あたしにその手を汚せというのか
「ヒチコック」死織は真剣な眼差しで、若きガンナーの目を見つめた。「お前、本気で戦う気があるか? 本当に本気か?」
ヒチコックは、死織の目を見つめ返し、ゆっくりとうなずく。
「そのために、なんでもできるか?」
「なんでも? って?」
「ヒチコック。もし本当に、みんなで力を合わせて、100匹のゴブリンと戦おうというのなら、条件がある。おまえ、いまから
ヒチコックは、えっ?と目を見開いた。
「それが、俺の条件だ。いいか、この状況なら、俺たちは絶対に逃げた方がいい。ただし、そうなると確かに、村人とキャラバン隊は全滅する。もし、全員で力を合わせて戦って、生き残ろうというのなら、そのためには、お前が馬4頭を殺すこと、それが必要だ。できるか?」
「え? でも、なんで?」
「理由はふたつある。ひとつは、ここにいる全員を追い詰めるためだ。馬が5頭あれば、キャラバン隊の何人かはそれで逃げることを考える。人数が減ったり、自分も逃げたいと思う奴がいるようでは、みんなの力は合わせられない。しかし、馬が無いと分かればもキャラバン隊も腹を括るはずだ。また、もとより『村人』は、村を去ることが出来ない。村人には逃げるという選択肢は与えられないんだ。その村人たちを救うためには、キャラバン隊の力が必要だ。ちなみに、おそらく街道はすでにゴブリンの分遣隊が抑えていて、馬があっても逃げられるかどうかは、かなり怪しいぞ」
眉をしかめたヒチコックはうなずく。
「もうひとつの、理由は?」
「おまえだ、ヒチコック」
死織は少女をまっすぐ見つめる。
「お前が本当に戦えるのか、俺には信用できない。ここで、馬の4匹くらい撃ち殺せるようでないと、明日襲ってくるゴブリン相手に、とてもとても引き金なんて引けるもんじゃねえからな。どうだ、ヒチコック。みんなを救うために、おまえは鬼になって、馬4頭を殺して来られるか? それが出来たら、俺はおまえに力を貸してやる。みんなと一緒に戦って、ゴブリンたちを撃退してやるよ」
ヒチコックは唇を噛んだ。その目に涙がにじむ。が、次の瞬間、ぎゅっと口を引き結び。強くうなずいた。
「やる。4頭殺す」
「1頭は残せよ。このあとの作業に必要だ。全部殺すな。あと、馬は撃たれたら消えてなくなる。死体は見なくて済むから、そこは安心していい」
「わかった……」
30分ほどかかったろうか?
やがて戻って来たヒチコックは、泣いていた。
うつむき、流れる涙を黒い制服の袖で拭いながら、死織の前に立った。
「4頭しかいなかった。3頭殺した」
死織はうなずいた。
「1頭は、あのカゲロウとかいう忍者が乗って行ったんだろう。良かったな、ひとつ命を無駄にせずに済んだ」
死織は空を見上げる。
日が傾き始めている。急いだ方がいい。
「じゃあ、つぎは、俺の番だな。おっぱじめるぞ」
喧噪で沸き返るテッドの酒場に向かう。
いまちょうど、キャラバン隊による酒盛りが始まったようだ。死織は気合を入れて、酒場のスイング・ドアを跳ね飛ばすように開いた。
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