パーティです!
「麗咲さん!メルヘンワールドに興味ありますか?」
「???」
頭の上にはてなマークを浮かべている麗咲が、困った顔で、こちらを見てきた。
……麗咲はとても優しい子なので、相手を傷つけるような発言はしないのだ。
「女流川さん。そこ邪魔なんだけど」
「あっ、はい……」
清爽さんが、女流川さんを手で追い払い、麗咲の横へ腰掛けた。二人は仲良く、身を寄せ合って、ソファーに腰掛けている。
「いや〜。麗咲ちゃんホントかわいいよね〜!こんな妹が欲しかった!」
「違う。鈴が妹」
「えっ?」
麗咲、なぜお前は、年上のお姉さんを妹にしたがるんだ……。
そうツッコミを入れたかったが、あいにく手が離せない。
今日はパーティということで、普段家事をしてくれている麗咲を休ませる意味も込めて、惣菜をたくさん買ってきたのだ。それを、皿に盛り付ける仕事を、僕がやっている。
「ずるいですよ清爽さん!私も姉妹に入れてください!」
「音愛はダメ」
「そんな!?」
清爽さんは、この家に何回か遊びにきているので、麗咲との仲は良好だ。
対して、女流川さんの方は、やはり初見では馴染み辛いところがある。明らかな変人なので。
……まぁ、歳も離れてるしな。
「よし。これでいいか」
センスのない僕が盛り付けた惣菜たちを、リビングへ運ぶ。
「わぁ。すごい。食べ物だ」
「麗咲ちゃん。なにその反応」
「先に食べておいてくれる?僕は片付けをやるから」
「そんな、悪いですよ。私、手伝います」
「いや、女流川さんにうちのもの触らせたくないから……」
「……しょぼん」
しょぼん。って口に出す人、初めて見たな。
言葉通り、しょぼんとして、女流川さんは席に着いた。
清爽さんと、麗咲は、当然隣同士。席は四つ。
自然、僕と女流川さんは、隣同士ということになるな……。
まぁ、それが一番いい形ではある。麗咲の隣には起きたくないし、清爽さんの隣だと喧嘩しそう。
ささっと片付けを終わらせて、僕も席に座る。
女流川さんは骨つき肉を、清爽さんはサラダを、麗咲はポテトを食べていた。三者三様だ。
僕は……、エビフライにしようかな。
そう思って、箸を伸ばしたところで、急に女流川さんが、その手を掴んできた。
「……なんですか?行儀悪いですよ?」
「春風さん。エビフライって美味しいですよね」
「はい……」
「麗咲ちゃん。コーラ飲む?」
「ご飯の時は、炭酸飲まない」
「え〜。先輩、固い教育しすぎじゃない?」
「いや、麗咲が自主的にやってることなんだよ」
そう言いながら、僕はエビフライを掴んだ。
が、女流川さんが、何か言いたそうな顔で、ずっとこちらを見つめているので、食べるに食べられない。
「……食べたいんですか?」
「違う、違うんですよ。せっかくこんな素晴らしい会に招待してもらっておいて、エビフライまで食べようだなんて、そんなことは思ってません」
「思ってなきゃ出てこない長文ですね」
僕は思わず、ため息をついてしまった。
そして、エビフライを、女流川さんの皿に乗せる。
「いや、そんな。欲しいだなんて、思ってないんです」
「無理があるでしょう……」
「麗咲ちゃん、あ〜ん」
「あ〜ん」
清爽さんは、もはや麗咲とイチャイチャすることに対してしか、脳のキャパシティを割いていないらしい。
お互い幸せそうなので、いいと思う。
「気にしないでください。僕は他のやつ食べるんで」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
そう言って、女流川さんは、エビフライを、尻尾から食べ始めた。
特殊だが、もはやこの人のそういうところをツッコんでいたら、キリがないと思うので、やめておく。
エビフライはなくなった。じゃあ、次は……、唐揚げかな。
幸せそうにエビフライを頬張る女流川さん、イチャイチャしている麗咲と清爽さん。
その光景を見ながら食べる唐揚げは、なんだか普段よりも美味しく感じた。
……いや、惣菜だから、そんなこと言うと、麗咲にめちゃくちゃ失礼なんだけど。
もちろん、麗咲の作る唐揚げの方がうまい。と、必要のない弁明を、僕は心の中でしてしまった。
「先輩も、あ〜ん」
清爽さんが、悪ふざけで、ポテトを僕の口元へ近づけてくる。
「麗咲、こういう女の子にならないようにね」
「うん。頑張る」
「……先輩、酷くない?」
「清爽さん。麗咲が真似すると嫌だから、変なことしないで」
「うわ。照れてるんだ先輩。かわいいね〜!ね〜麗咲ちゃん!」
「ね〜」
二人して、嬉しそうに僕をからかってきた。
……最凶のコンビと言えるのかもしれない。
「いつか混ざりたいものですね……」
その二人を見て、ボソッと、僕だけに聞こえるような声量で、女流川さんが呟いた。
頼むから勘弁してほしい。
あらかた食べ終わったので、僕は片付けを始める。
断ったのだが、どうしても聞かなかったので、麗咲と二人で、皿洗いを始めた。
もちろん、残りの二人も協力を願い出てきたが、女流川さんはアレだし、清爽さんは意外と不器用で、皿を割ったら怖いから、おとなしく座っておいてもらうことにした。二人とも、しょぼんとしていた。
「凛助、楽しいね」
「皿洗い?」
「もうっ」
麗咲が、可愛らしく頬を膨らませた。
「違う。人がいっぱいで」
「そっか。麗咲が喜んでくれてよかったよ」
「涼もいたら、もっと楽しかった」
「……あ〜。うん。そうだね」
実は、澄雪さんも誘ったのだ。
ただ、あの人の性格上、来ないだろうなとは思った。
……すごい人見知りだし。
あんなギャルみたいな喋り方で、中身はすごくウブなのだ。
「凛助は、楽しかった?」
麗咲が、手を止めて、僕の方を見つめながら、そう訊いてきた。
僕は、リビングの方を見る。
清爽さんと、女流川さんが、何やら言い合いをしている様子だった。けれど、険悪なムードではない。子供のじゃれ合いみたいなもので……。
それを見ていると、自然と笑えてきてしまった。
「……うん。楽しかったよ」
「よかった」
そして、麗咲も微笑んだ。
どうやら、パーティは大成功だったらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます