買い出しです!そのに!

「……さて、ここにお宝があります!」


そう言って、女流川さんが指差したのは……、ダンボールの山だった。

スーパーで、無料で配っているものである。

確かに、引越しの作業なんかでは、使われる場面も見られるけれど……、果たして、お宝とは一体。

ドヤ顔の女流川さんに対して、ややついていけていない僕と、清爽さん。


「あの、女流川さんってさ、バカなの?」


そして、清爽さんから、鋭い攻撃……、いや、口撃が放たれた。


「はい、バカですよ。伊達に留年しまくってませんから」

「誇らしげにしないでください」

「成人式はもちろん行ってません」

「悲しい情報付け足すのやめてもらえます?」


で、問題は、このダンボールがなぜお宝なのか、というところなのだが。


「メルヘンワールドの建設費用は、私がたまにバイトして稼いで貯めた、十六万円と、駅前の募金活動で集めた二千円の、計十六万二千円です。これでは、到底建物の建設なんて無理なんですよ。だから、このダンボールを使います!」


……この人、秘密基地でも作るつもりなのかな。


「あの、女流川さん。両親の指示は、遊園地を建設することじゃなかったの?」

「まぁそんな感じですね。早速これを、三人で運んでいきましょう!」

「え〜。私、そんなの持ちたくない」


明らかに嫌そうな顔をする清爽さん。まぁ、正直僕もやりたくない。


「……ボランティア部の、みなさん。ダンボールを運びましょう?」


ボランティア部。そこを強調して、女流川さんは再度言った。

……断ることも可能だ。物理的に難しい依頼は、これまでも退けてきたし。

ただ、ここまで来たのが完全に無駄足になるのも嫌だから、多少は付き合ってあげるのも、優しさだろう。


「……じゃあ、とりあえず持てる分だけですよ?」

「やった!じゃあ、私は二十箱持ちますから、お二人はその半分、十箱ずつお願いしますね!」

「いやいや。無理ですよ」


どんなパワフルお姉さんなんだよ、この人。


「もちろん、このまま持って行くつもりはありません。紐を持参しました。ダンボールを潰して、結ぶんです。リュックみたいにして、背負えばいいんですよ」

「絶対嫌!ねぇ先輩、帰ろう?駅前のパフェが食べたい」

「その提案は置いといて、まぁ女流川さんの言っていることは、現実的ではないですよね」

「そ、そんなことないですよ。見ていてください!」


そう言って、女流川さんは、手際よくダンボールを潰していき、重ね始めた。

……二十どころか、五つ重ねただけでも、その厚みはなかなかのもの。


「……はぁ」


何かを諦めるかのようにして、女流川さんが、ため息をついた。

それと同時に、僕のスマホが振動する。どうやら、麗咲から、返信があったらしい。

そこには、必要な食材が書いてあった。

なまものも、多く含まれている。


……このまま、家に帰らないといけないということだ。


「あの、女流川さん。大変申し訳ないんですけど、僕は、妹からお使いを頼まれたんで、今回は手伝えません」

「そんな!私と妹、どっちが大事なんですか!」

「妹です」

「即答しないでくださいよ!」

「女流川さん。でもさ、肉体労働なら、先言わないとダメじゃん。不親切でしょ?」

「ぐ、ぐぬぬ……」


完全に正論だった。


「だって……、正直に言ったら、二人とも、ついて来てくれなさそうじゃないですか」


そして、悲しそうな顔をする女流川さん。


「……いや、私は別に、先輩がやるっていったらやるし。ね?」

「その同意の求め方は困るけれど……。まぁ、ちゃんと言ってくれれば、台車を持ってたり、もう少し人を呼んだりできたのは、事実ですね」


ボランティア部には、一応、他にも何人か所属している。募集をかければ、手伝ってくれる生徒もいるくらいだ。


「じゃ、じゃあ。次は、そうします」

「よーし!帰ろ?先輩」

「清爽さん。話聞いてた?僕はこれから、おつかいを……」

「あっ、私、いいこと考えちゃった」


ピンッ、と、人差し指を立てる清爽さん。


「これから先輩の家に行って、パーティしようよ」

「……なんで?」

「だって、先輩と少しでも長い間一緒にいたいし」

「う、うん……」


普段からアプローチの激しい清爽さんだけど、こんな風に、真面目な顔をして、そういうセリフを言われると……、さすがにドキッとするな。


「決まりですね!早速行きましょう!」

「えっ、女流川さんは呼ばないよ?」

「えぇ!?」

「……だって、二十一歳の女の子とか、ね?」

「まさか留年ではなく、年齢の方を責められるとは思ってませんでした。普通にショックです……」


ガクッと肩を落とした女流川さんは、さすがにかわいそうだった。

……僕としては、人がたくさんいると、麗咲が喜ぶので、どっちでもいいんだけど。


「でも、そうですよね。私、遊んでる暇ないですもん。メルヘンワールドを少しでも早く建設しないと……」

「ダンボールなんかで作ろうとしてる時点で、先が思いやられるけどね」

「清爽さん。私のこと嫌いすぎてませんか?」


ごもっともだった。

まぁ、清爽さんは基本、僕以外の人間に対しては、こんな感じだけど。

特に、同性に対しての当たりは強い。


「まぁ、決めるのは先輩だけどね」


そう言って、清爽さんが、こっちを見た。

それに合わせるようにして、女流川さんも、こちらを見てくる。


「……女流川さん。僕の妹に、変なことしないって、誓えますか?」

「あの、春風さん。私、こう見えてまともな人間ですよ?」

「まともな人間は三年で高校を卒業します」

「そ、それは……はい」


と、いうことで、我が家にて、プチパーティーが開かれることとなった。

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