買い出しです!そのいち!
「先輩おんぶして〜」
「女流川さんに頼んで」
「先輩じゃなきゃやだもん」
「遠慮しなくていいですよ!さぁ、私の背中に乗ってください!」
「……いいよ。歩くから」
「そ、そうですか……」
断られた女流川さんが、しょんぼりしている。
三人で校外へ出て、五分ほど経ったくらいだ。
「あの、女流川さん。どこに向かってるんですか?」
「よくぞ聞いてくれましたね。実は、スーパーへ向かっています」
「スーパーですか……」
麗咲に、何か買っておいた方がいいか訊いてみよう。そう思って、僕はスマホを取り出した。
……すぐさま、女流川さんが、僕の手を抑えてきた。
「いや、違いますよ。妹に欲しいものがないか訊くんです」
「なんだ、そんなことですか……。てっきり私は、スーパーで親が目を離した隙に、一人で歩いている幼女を連れ去ろうと考えているとか思われたのかと……」
「さすがにそこまでは思わないですよ」
それでも、危ない人であるのは間違いないが。
「先輩、いっつも妹が妹がって言ってるよね」
清爽さんが、少し引いたような顔をした。
「そんないつも言ってるかな……」
「朝学校に着いたら、妹にライン送ってるし、休み時間も暇さえあれば妹と電話。昼休みはもちろんビデオ通話。放課後は、私のことなんてほかっておいて、一目散に家に帰っちゃう」
「……春風さん、本当ですか?」
「嘘に決まってるじゃないですか」
今度は目流川さんが、引いてしまった。
僕が麗咲をこの世で一番大事に思っているのは、まぎれもない事実だが、そこまではしていない。
……そもそも、麗咲はまだ小学生なので、学校にスマホは持ち込めないのだ。
「でも、私が目の前にいるのに、妹の話ばっかりなのは、本当だよ?」
「……なんで怒ってるの?」
「別に?」
なぜか急に、清爽さんが機嫌を損ねていた。
確かに、清爽さんは、僕が他の女性の話をすることを、極端に嫌うが……、妹くらいは勘弁してほしい。
空気を晴れさせるため、僕は話題を変えることにした。
「女流川さんは、姉妹とかいますか?」
「えっと……、いないことにしておきます」
「いや、なんですかその濁し方」
「先輩、人の妹にまで手を出すの?」
「なんでそっちの方向に持っていこうとするのかな」
「い、いくらメルヘンワールド建設に協力してもらえるとはいえ、そこまではできません!」
「本気にしないでください」
答え方的に、いることは確定らしい。
……この人の姉妹だから、きっと、まともじゃないだろうな。
「私のことはいいですから!えっと……、清爽さんは、姉妹はいるんですか?」
「いないよ。一人っ娘。でも、先輩がお兄ちゃんみたいなもんだから」
そう言って、清爽さんが、僕の腕に抱きついてきた。
女の子の柔らかさが、僕の思考をジャックする。
「清爽さん、頼むからそういうのやめてほしいんだけど」
「えぇ〜?先輩、まんざらでもなさそうだよ?」
図星だった。
そりゃあ、こんなに可愛い女の子に抱きつかれて、まんざらでもなくないわけがない。
……ただ一つ、清爽さんには、彼氏がいるという点さえ無ければの話だが。
「ふむふむ。春風さんは、押しに弱いと」
「メモしないでもらえます?」
「いつか参考にします」
女流川さんは、不気味に微笑んだ。
この人は前科があるので、本当にやりかねないのが怖い。
「で、女流川さん。スーパーには、何しに行くんですか?」
「それは着いてからのお楽しみですよ」
「先輩、お菓子買って?」
「太るよ?」
「……ゼリー買って?」
そんな風に会話しながら歩いていると、スーパーが見えてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます