高校六年生です!
「粗茶ですが」
「あんまペットボトルのお茶で言わないですよそれ」
「えへへ。雰囲気です。なんせここは茶道部の部室ですから!」
と、いうわけで、茶道部を訪れた僕たち。
女流川さんは、畳の上で、寝っ転がっている。
そして、僕に手渡したお茶は、飲みかけだ。
……色々ガサツな面が目立つが、まぁそれはいいとして、訊きたいことが山ほどある。
「えっと。女流川さん。なんで茶道部の場所、知ってたんですか?」
「だって、私はここの生徒ですから」
「いや、それはありえません。見覚えないですもん」
「えっ。春風くんは、全校生徒の顔を覚えてるんですか?」
「まぁ、そのくらいは。ボランティア部ですから」
「そ、それは理由になるんでしょうか……」
「そこはいいです。で、とにかくあなたは、うちの学校の生徒じゃないはずだ。なぜそんな嘘を?」
「だから、嘘じゃないんですって!」
女流川さんは、体を揺さぶりながら、抗議する。
その動きに合わせて、女の子を主張する部分が、激しく揺れ動いたので、僕はとっさに目を逸らした。
「私は、間違いなくここの学校の生徒です」
「まぁ、それならそれでもうどうでもいいですけど……、あの、そろそろスマホ返してもらえます?」
「じゃあ、私の話、聞いてくれますね?」
「……手短に、どうぞ」
「わかりました。私の生い立ちから話す予定でしたが、それはカットします」
「一応言っておいてよかった」
女流川さんは、起き上がり、正座をする。
そして、ごほんっ、と、軽く咳払いをして、話し始めた。
「まず、私、女流川音愛は、高校六年生です」
「……」
「……あの、相槌か何か打ってもらえると助かります。なにぶん空気が張り詰めているもので」
「あなたがここを選んだんですよ?」
「そうですね……。えぇ。あの、でも、高校六年生に対する、ツッコミは?」
「アホなこと言ってるなぁってくらいです」
「春風さん。私のこと嫌いですか?」
「スマホを返して、二度とこの学園に近寄らないと誓ってくれれば、好きになれそうです」
「ごめんなさい。私、好きな人がいるので」
「なんでフラれた感じになってるんですか」
申し訳なさそうに頭を下げる女流川さんに、僕はなんとなく敗北感を覚えた。
「話を戻しましょう。私は、高校六年生。つまり、二十一歳なんです。そして、今年もし、この学校を卒業できなければ、校則に従って、退学が決定します」
「……つまり、留年していると?」
「そういうことになりますね」
少し真剣な表情になる女流川さん。
「……いや、それと、メルヘンワールドに、どんな繋がりが?」
「色々深い事情はあります。でも、簡単に言うと、メルヘンワールドの建設に成功すれば、私は、あらゆる努力をすることなく、この学校を無事卒業できる約束を取り付けたんです」
「要するに、真面目に勉強するのが嫌だから、別の案を考えたと」
「悪く言えばそうですね」
「普通に言ってもそうなると思いますけど」
なるほど。とりあえず事情は把握できたな。
……かと言って、協力する義理もないわけで。
「さて、話は聞きましたから。スマホを返してください」
「……おっぱい、触ります?」
「は?」
「いいですよ。おっぱい触っても」
「あの、マジで変質者ですか?」
「わ、私は本気です!何の努力もせず、卒業を勝ち取りたい!そのためには、おっぱいくらい差し出しますから!」
そう言って、女流川さんは立ち上がり、僕に向かってくる。
僕も立ち上がり、目が変になっている女流川さんから離れた。
「女流川さん。落ち着きましょう。僕はそんなことされても、協力しません」
「いいんです。おっぱいはどうせ、いつか、赤子に触らせるものですから」
「本当に落ち着いてもらえます?」
「落ち着いたら、おっぱい触ってくれますか?」
「目的と手段が入れ替わってませんか?」
僕は、じりじりと下がっていったが、ついに壁まであと少しのところまで到達してしまった。
茶道部の部室はかなり狭く、入り口に行くためには、必ず女流川さんを押しのけて行く方法しかない。
……だが、今の女流川さんとの接触は、あまりに危険だ。
「女流川さん。ボディタッチ云々はどうしたんですか」
「そんなもん。アレですよ。アレ」
「そもそもですね。僕なんかが協力したところで、意味がありません。ボランティア部です。メルヘンワールドの建設において、できることなんて何もないですよ」
「お尻もセットでどうですか?」
ダメだ、聞いてないぞこの人。
僕は壁に完全に背をつけ、ついに……、女流川さんが、壁ドンのような状態で、僕にもたれかかってきた。
柔らかすぎる感触が、僕を支配する。思春期男子には、あまりにも強すぎる刺激だ。
「め、女流川さん。頼むからやめてください」
「メルヘンワールドの建設に、ご協力を……」
「手握るのやめてもらっていいですか?」
「春風さん。私、二十一歳ですから。しっかり大人なんです……」
一体どこでスイッチが入ったんだこの人は。本当に。
女流川さんの顔が、目の前に迫ってくる。その鼻息は荒く、当然、僕にもかかってきている状態だ。
「さぁ!協力すると言いなさい!じゃないと、春風くんの春風くんを、アレしちゃいますよ!」
「完全に趣旨変わってるじゃないですか。いやマジで、勘弁」
そう言いかけたところで、女流川さんが畳の上に置き去りにした、僕のスマホが鳴った。
一瞬、その音に、女流川さんが気を取られた隙に、僕は女流川さんを優しく押しのけ、スマホを手に取り、一目散に逃げ出した。
「こら〜!待ちなさい!」
大きな声が、後ろから聞こえたが、僕は靴もそのままに、学校を後にした。
……結局、第二運動場の云々について、聞いていなかったことを、帰り道で思い出したが、忘れることにした。もう関わりたくないので。
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