メルヘンワールドへようこそ!
@sorikotsu
女流川音愛です!
「メルヘンワールドの建設に、ご協力をお願いします!!!!」
報告を受けて、噴水広場に訪れたところ、聞いていた通りのお姉さんが、マイクを持って、演説をしていた。
僕は、報告書をもう一度確認する。
『噴水広場でマイクパフォーマンスをしているお姉さんを発見!金色の髪の毛はセミロング。頬に星のマークのシール。うちの制服を少し改造して、なんとなくヤンチャっぽくした感じの着こなし。胸はでかいし可愛い。こういう女の子と付き合いたいの!』
……稚拙な文章だなぁ。と思ったけれど、まさにその通りの容姿だ。
それに、状況もあっている。
「あっ!そこのお姉さん!二億円ください!」
……はちゃめちゃな演説で、通りすがる生徒に声をかけている、やばい美少女。
うちの学校の制服を着ているが、見覚えはない。間違いなく他校の生徒だ。
そして、報告を受け、なおかつここまで来てしまった以上は、僕がなんとかするしかないわけで。
僕はゆっくりと、警戒しながら、お姉さんの方へ向かう。
すると、僕に気がついたのか、お姉さんが、嬉しそうな顔をした。
「お兄さん、私たちの活動に興味あります?」
「私たちって……。あなた、一人じゃないですか」
「いいえ。私には、愛と勇気がついています」
「聞いたことあるフレーズだ」
「なんなら夢と希望もついてますよ」
「すごいですね」
「お兄さん、二億円ください!」
お姉さんが、僕に手を差し出してきた。
「あの、僕は、この学園のボランティア部の副部長をしている、春風凛助(はるかぜりんすけ)です。報告を受けて来ました。今すぐ出て行ってください」
「ちょっと!一度にまとめて色々話さないでください!私パンクしちゃう!」
「じゃあ、シンプルに、この学園から出て行ってください」
「あなた、お名前なんでしたっけ」
「この会話、ループしますよ?」
「怖い話ですね」
「いいから、出ていってください」
僕は、お姉さんの背中を押した。
「ちょ、ちょっと。なんなんですか。いきなりボディタッチなんて。ホストですかあなたは」
「ボランティア部の副部長です。いいから帰ってください」
「さっきから帰れ帰れって。私のこと何にも知らないのに、ただ一方的に追い出すのって、どうなんですか?ぷんぷんぷん!」
「ぷんが一個多くないですか?」
「サービス中なんです。ムカとか、ルンとか、シクとか、全部一つずつ増えます」
よし。
警察を呼ぼう!
多分マジな人だ、この人。
最近四月も半ばで、暖かくなってきたせいもあるのだろう。
僕はスマートフォンを取り出した。
「ウェイト。へいボーイ。どういうつもりですか?」
「なんですかいきなり。そのキャラクターは」
「最近海外ドラマにハマっているんです。特に好きなのは……、あの、屈曲な……、えっと……、イケメンの……、男性俳優さんなんですけど……」
「だいたいの海外の男性俳優がヒットしますよそれ」
「そんな話はどうでもいいんです。あなたまさか、ポリスに連絡しようとしてません?」
「そのキャラウザいんでやめてもらっていいですか?でもご名答です。今から警察呼びます」
すると、お姉さんが、慌てたように、僕の手を握って来た。
「させませんよ」
「さっきボディタッチ云々言ってたのは、どこの誰ですか……」
「やっと、私の名前を訊いてくれましたね?」
「そのつもりはなかったんですけど」
「私は、女流川音愛(めるかわおとめ)です。女が流れる川に、音を愛すると書いて、女流川音愛。珍しい苗字でしょう?」
ダメだ。このままだと埒が明かない。
そう思った、まさにその時。
遠くに、我が学園の生徒会長、魅森美夏(みもりみなつ)さんの姿が見えた。
真っ白の美しいロングヘアーをたなびかせながら、フラフラと歩いている魅森さん。どう見ても暇そうだ。
「魅森さ〜ん!」
そして、僕は大声で、魅森さんに助けを求める。
気がついた魅森さんは、こちらを確認すると……、すごい勢いで、逃げて行った。
……面倒ごとに巻き込まれるのが、嫌だったのだろう。相変わらず、まともに働こうとしない、あれで生徒会長なのだから、この学園がいかに平和なのか、わかってしまう。
「へへっ。残念でしたね!フラレてやんの〜!」
「うわ、めちゃくちゃムカつくんですけど」
「隙あり!」
「あっ、ちょっと」
油断した隙に、女流川さんに、スマートフォンを奪われてしまった。
「返してください。罪を重ねるつもりですか?」
「その通りですよ。罪を重ねて、並べて、ある程度揃ったら消えますから」
「テトリスですか……」
「ぷよぷよぷよです」
「どっちでもいいです。あの、女流川さん。そろそろ本当に、帰ってくれないと、取り返しのつかないことになりますよ」
「話だけでも聞いてくださいよ。無条件に、私を牢屋へぶちこもうとするからでしょう?ぷんぷんぷん!」
少し怒ったような顔をする女流川さん。
えっ、なんで、僕が悪いことしたみたいになってるんだ。
「あのですね。あなた、不審者ですよ?不審者の話を聞いてあげるほど、僕は優しくありません」
「つまりドSってことですね?」
「どうしてそうなるんですか……」
「私は女流川……。つまりMです。相性抜群ですよ」
「何の相性なんですかね」
「聞きます?」
「結構です。いいから出て行ってください」
僕は再び、お姉さんの背中を押す。
「待ってくださいよ!メルヘンワールド建設計画の概要だけでも聞いてください!」
「そんな怪しい計画は聞く必要ありません」
「怪しくなんてありません!ほら!」
女流川さんは、メルヘンワールド建設計画のチラシと思わしきものを、僕に突きつけてきた。
軽く、流し読みしてみる。
『メルヘンワールド!某千葉のアレを超えちゃおうプラン!ドキドキ学園のバカ余ってる土地を有効活用!学園内に遊園地だなんて、ざんし〜ん!うふふ!夢踊る学園生活に、イベント盛りだくさんのメルヘンワールド!ぜひみなさん、お越しください!あと二億で建設可能!募金お待ちしてます!』
「……あの、女流川さん」
「なんですか?」
「自分でやってて、恥ずかしくないですか?これ」
「めっちゃ恥ずかしいですよ」
「恥ずかしいんですか……」
「だ、だから、私は、さっさと二億集めて、ズラかりたいと思ってるんです。会長になるってことですね。働きたいとも、代表として顔を出したいとも思いません。こんなのネットでボロ叩きにあいますよ」
なぜそこまで分析できているのに、こんなアホな活動をしているのだろうか……。
「そもそもですね、うちの学園のだだ余ってる土地は、すでに、第二運動場としての活用が決まってますから」
「あぁ、その話ならもう大丈夫ですよ」
「……はい?」
「だから、その辺も兼ねて、詳しく話すための時間が必要なんです。どうですか?これから茶道部でお茶でも飲みながら」
「なにうちの生徒みたいな仕切り方してるんですか……」
まぁ、口から出まかせかもしれないけれど、ちょっと厄介だし、適当に油断させといて、隙を見て警察呼ぼう……。
そんなこんなで、僕たちは、茶道部へ向かうことにした。
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