建国の戦い

第二十二幕 一堂に会す

 フランカ州にあるコルマンドの街。比較的高級な飲食店の2階にある個室を借り切ったマリウス。眼の前の卓には美味として知られるフランカ料理と、質の良い葡萄酒で満たされたグラスが並んでいた。



 そして……彼と共に同じ卓を囲む4人の美女達・・・・・・の姿。


 イスパーダの女傑、ソニア・バルデラス。

 フランカの才媛、エロイーズ・ギャロワ。

 ガルマニアの麗武人、アーデルハイド・ニーナ・ヴァイマール。

 そしてリベリアの妖花、ヴィオレッタ・アンチェロッティ。


 旅路の果てに遂にマリウスの元には、彼が望んでいた美しき同志達が一堂に会していた。感無量であった。



 マリウスはワインのグラスを掲げて音頭を取る。


「皆、僕の同志となってくれた事、改めて礼を言っておきたい。僕は中原一の幸せ者だ。今日は皆の親睦と意思の統一を兼ねてこの席を設けさせてもらった」


 マリウスの言葉に女性達はそれぞれ頷いた。


「ただまだほとんど初対面同士の人もいるから、この機会にきちんと正式な自己紹介を済ませておきたいと思う。じゃあ加入順でソニアから良いかな?」


 マリウスが水を向けるとソニアは一瞬狼狽した様子になったが、すぐに改まって咳払いした。そして彼女にとってほぼ初対面と言えるヴィオレッタの方に向き直る。



「あー……おほん! こう改まるとちょっと緊張しちまうけど……イスパーダはサランドナの、ソニア・バルデラスだ。マリウスとは、その……酒場での喧嘩で知り合ったんだ」


「あらぁ? マリウスに喧嘩を吹っ掛けるなんて度胸あるのねぇ?」


 斜め上のヴィオレッタの返事にソニアが少しつんのめる。


「違うよ! その……下手打っちまって、助けてもらったんだよ! で、こいつとはその時からの付き合いって訳さ。こう見えて武芸には自信があるんだ。旗揚げ前でも後でも、戦になったらアタシが先陣を切ってやるから大船に乗ったつもりでいな!」


 その立派な胸を張って腕を組むソニア。だがそれを見たヴィオレッタは、ハァ……と露骨に溜息を吐いた。


「……何だか危なっかしいわねぇ。泥船の間違いじゃなくって?」


 その言葉と態度にマリウスとアーデルハイドがギョッとしたように彼女を見やる。案の定ソニアの目が据わる。


「……あんだってぇ? 喧嘩売ってんのかいっ!?」



 ――ドガァッ!!!



 ソニアが椅子を蹴倒して立ち上がる。大きな音に、しかしヴィオレッタは全く怯む事なく頭を振った。


「ふぅ、やっぱりね……。そうやってすぐに熱くなる所が頼りないって言ってるのよ。ただの喧嘩と違って、戦じゃ熱くなった方が負けよ? 敵の挑発に乗って罠に嵌り討ち死にした猛将なんて、過去の歴史上でも枚挙に暇がないわ」


「……ッ!」

 激昂していたソニアが冷水を浴びせられたように固まる。隣ではアーデルハイドもバツの悪そうな顔をしていた。まさにドラメレク相手に同じ状況に陥った苦い記憶が甦る。


「……ちっ! 確かにアタシに足りないのは冷静さだね。喧嘩と戦は違う……。そんな当たり前の事も実感してなかった。いきり立っちまって悪かったね」


 静かな口調になったソニアは蹴倒した椅子を戻して座り直した。


 エロイーズ勧誘の時もそうだったが、ソニアは自分の間違いや至らない部分を素直に認めて相手に謝罪できる器の大きさを持っていた。ただ気性が荒いだけの暴れ者ではないのだ。


 案の定ヴィオレッタも少し意外そうに目をまたたかせた。そしてすぐにフッとその口元を緩ませる。


「いいのよ。私こそ不躾だったわ。これからは私達自身も同志となるんだし、お互いに高め合ってマリウスを支えていきましょう」


「……! ああ、そうだね! こっちこそ宜しく頼むよ!」


 2人は立ち上がって握手を交わした。その光景を眺めやってマリウスがホッと胸を撫で下ろす。


「ふぅ、一時はどうなる事かと思ったけど上手く纏まって良かったよ」


 するとそんな彼をエロイーズが揶揄する。


「うふふ、相変わらずマリウス様は女同士の諍いが苦手のようですわね? 彼女達は皆広い器の持ち主です。そうそう深刻な事にはなりませんわ」


「もう、からかわないでよ……。おほん! それじゃ次はエロイーズだね」


 マリウスが揶揄されたのを咳払いで流して、エロイーズに順番を振る。彼女はニッコリと笑って、自身と面識の薄いアーデルハイドの方に顔を向けた。



「アーデルハイド様は初めまして、ですね。フランカはコルマンドのエロイーズ・ギャロワと申します。この街で商人をやっておりました。内務関係は私にお任せ下さいまし」


 エロイーズの挨拶を受けてアーデルハイドも頷き返した。


「貴女の噂は遠いガルマニアの地にも届いていた。非常な才媛であると聞き及んでいる。貴女に内事を任せられるなら我等も安泰というものだ」


「あら? うふふ……過分な評価、恐れ入りますわ。ご期待に添えるよう精一杯務めさせて頂きます」


 コロコロと笑うエロイーズだが、アーデルハイドの目は真剣だった。


「私も私兵を率いていた時に資金繰りには散々苦労させられた。精強な軍もまずは国が豊かであってこそ。エロイーズ殿、これからも何かとご迷惑をお掛けすると思うが、どうか我等の事を宜しく頼む」


「……!」


 あくまで真摯な様子のアーデルハイドに、エロイーズも目を見開いて態度を改めた。


「……正直、女武人というとどうしてもソニア様の印象が強かったので、あなたの事を少々誤解していたようです。こちらこそこれから宜しくお願い致しますわ、アーデルハイド様」


「ちょっと! そこで何でアタシが出てくるんだい!?」


 握手を交わす2人に、引き合いに出されたソニアが口を尖らせて抗議する。マリウスは苦笑しながら宥めた。


「あはは、まあまあ抑えて、ソニア。さあ、それじゃ次はアーデルハイドだね。宜しく頼むよ」


 順番が回ってきたアーデルハイドは頷いてからヴィオレッタの方に向き直る。



「うむ……それでは後はヴィオレッタ殿だな。お初にお目に掛かる。ガルマニアはブラムニッツのアーデルハイド・ニーナ・ヴァイマールと申す。ヴィオレッタ殿はエロイーズ殿に劣らぬ智謀の士であるとか。私は見ての通りの未熟者なので、ご指導ご鞭撻の程宜しくお願い致す」


 頭を下げるアーデルハイド。ヴィオレッタはちょっと気圧された様子になった。


「あらまぁ、非の打ち所がないわねぇ……。別に私が教える事なんて何も無さそうだけど?」


「そんな事はない! 私はマリウス殿のような優れた武人になりたいのだ! その為ならばどんな教えでも喜んで乞うつもりだ。マリウス殿は……私の憧れだから」


 最後にちょっと言い淀むアーデルハイドの様子を目にしたヴィオレッタの目が光る。


「ふぅん……マリウスのような、ねぇ? 好いた殿方・・・・・には自分を認めて欲しいわよねぇ?」


「――ぶっ!? な、何を言われる、貴女まで!? わ、わ、私はあくまで武人としてマリウス殿を尊敬しているのであって……」


 瞬間的に顔を赤く染め上げてしどろもどろになるアーデルハイド。つい先程までの凛々しい女武人の姿はそこにはなかった。以前に似たようなやり取りをしたソニアが思わず吹き出す。


 ヴィオレッタも我が意を得たりとばかりに艶然と微笑む。


「あら、可愛い所もあるじゃない。気に入ったわ。これから宜しくね、アーデルハイドちゃん?」


「ちゃ、ちゃん……!?」

 未だかつて呼ばれたことのない呼称に麗武人が固まる。


「ははは、彼女に掛かったらアーデルハイドも型なしだね! さて、それじゃ最後はヴィオレッタなんだけど……」


 促されたヴィオレッタは肩を竦める。



「もう皆との挨拶は済んだしねぇ……。じゃあ一言だけ」


 ヴィオレッタは他の3人の女性達を順繰りに見やる。


「リベリアはトレヴォリのヴィオレッタ・アンチェロッティよ。私……マリウスに本気だから、のんびりしてると奪っちゃうわよ?」


「「「……ッ!!」」」


 その宣言に、今度はエロイーズも含めた全員が硬直して目を剥く。


「あ、あの……ヴィオレッタ? 流石にこの場でそういう発言は……」


「うふふ、分かってるわよ、マリウス。……勿論冗談よ? 皆本気で固まっちゃって可愛いわねぇ」


 マリウスの嗜めにヴィオレッタは妖艶に微笑む。


「ま、そういう訳で、今後とも宜しくね?」



(((どういう訳だ!)))



 期せずして3人の女性の心の声がシンクロした。マリウスは取り成すように声を上げた。



「おほん! これで皆は正式に同志になった訳だね。ま、まあこれからも色々あると思うけど、皆と一緒なら乗り越えていけると信じている。僕も皆の上に立つ立場として恥じないように努力していくつもりだから、これからも宜しく頼むよ」


 マリウスは立ち上がってワインで満たされた銀杯を掲げた。女性達も空気を悟って同じように杯を掲げて立ち上がった。



「僕達のこれからの成功を願って……乾杯っ!」


「「「「乾杯!」」」」



 4人が唱和する。そして自己紹介が終わり、ようやくといった感じで料理に手を付けていった。


 こうして何とか無事に(?)親睦を深めた一同は、いよいよ旗揚げの為の具体的な計画を立てていくのであった……

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