第3話 チェーロアルコと赤い犯行

黒田中文化祭のしおり

〜KURODA〜


〜黒田中文化祭のお供〜

部活動紹介②


文芸部

 文芸部では文芸部員で作った文集『ボイルされた時計』と、文芸部員以外の生徒から募集し、最優秀賞を獲得した小説『主は来ませり』を販売しています。ぜひお越しください。

         〜文芸部部長部長 成田 絵里〜



美術部

美術部では、絵や彫刻などの展示、販売をしています。また、開会式では、書道部との合同でパフォーマンスをします。ぜひ、ご覧ください。

  〜美術部部長 蒼井 洸七〜



グローバル部

グローバル部では、募金活動やペットボトルのキャップ集め、プルタップ集めなど、日々の国際ボランティアの活動の紹介や、小さなお子さんでも楽しめる、日本地図と世界地図の特大パズルをご用意してます!楽しく地理を学びましょう!

ぜひぜひ、ご覧ください!

〜グローバル部部長 大野 美里〜



奇術部

奇術部では、15分程の奇術ショーを部室で行います。11時から16時まで、1時間おきに1度行いますので、是非お越しください!

〜奇術部部長 大屋 蓮〜



料理部

料理部では、様々なお料理、スイーツを提供しています。お腹が空いたら、是非料理部へ!

〜料理部部長 城崎 有美〜


吹奏楽部

吹奏楽部は、開会式での演奏と、多目的ホールで期間中、毎日14時から演奏を行います。是非、お立ち寄りください。

〜吹奏楽部部長 長谷部麗〜


生物部

 生物部では、蟻の巣の展示や黒田川の水を顕微鏡で観察ができるようにしています。

 身近な自然に触れてみましょう!

           〜生物部部長 安西 匠〜


生徒会より


多く語るつもりはありません。皆さんは、文化祭に向け、しっかりと準備していることでしょうし、ルールを守って楽しみましょう。

くれぐれも、ハメを外しすぎませんようご注意ください。

〜生徒会会長 赤嶺 七瀬〜



しおりの5ページに、黒田中の地図と部活動の出し物の場所、ゴミ箱の位置などを記載しています。ぜひ、ご活用ください。特に、一般の方につきましては、スリッパを用意している昇降口が限られています。ご注意ください。

また、文化祭期間中、生徒会室では、インフォメーションセンターの役割もしています。お困りの際は、2階の生徒会室まで。

〜生徒会副会長 古賀 俊樹〜


 黒田中は上から見ると、長方形になっている。東側には教室や職員室のある一般棟。西側には書道室や音楽室などがある特別棟。更にその特別棟に併設するように体育館が存在している。

 私たちが目指す美術室は、特別棟3階の1番手前の教室である。何故か渡り廊下は1階と2階にしかない。3年生の教室は一般棟の3階で、一旦2階に降り、そこから渡り廊下で特別棟に行き、それから階段を上る必要がある。大した手間ではないと思うけど、琴音は毎回、そのことに文句を言う。

「遠いわ。もう少し便利な構造にできなかったのかしら?不便で仕方ないわ」

 と、毎回お決まりの文句を言いつつも、美術室を目指す。琴音は運動が苦手なだけでなく、体力自体もないため、こういう文句は多い。

「まあ、運動不足の琴音にはちょうどいいんじゃない?」

「余計なお世話」

 琴音は休日はいつも、引きこもって調べ物をしているため、雪のような白い肌をしている。足を捻って骨折のような軟弱さは絶対嫌だけど、この美肌には憧れる。

 琴音が階段のことにぶつくさ文句を言っているのを聞き流しながら階段を上り切ると、美術室の前に数人人が集まっていた。

「なかなか盛況だね」

 私の言葉に、琴音は眉を顰めた。

「何か様子がおかしくないかしら?」

「え?」

 よく見ると、美術室の前にいる人たちは困惑したり、深刻そうな顔をしていたりする。

「ホントだ。何かあったのかな……」

 美術室の中を覗いてみると、美術部員たちが慌ただしく動いていた。

 「本当に無くなってるの?」とか、「チェック漏れとかじゃないの?」とか、そういった不穏な会話が聞こえてくる。

「何があったのかな?何かの紛失とか?」

「さあ?いい話じゃないことは確かね」

「美術室に入ってみる?」

「止しましょう。邪魔になるかもしれないし」

 そう言って、踵を返した琴音と私を呼び止める声が、美術室から聞こえた。

「琴音!美波!」

 少女がひとり、が美術室から飛び出して来た。

 彼女は西内沙耶。私たちと1年生の頃に同じクラスだった女の子だ。どちらかと言えば童顔で愛嬌のある顔立ちと仕草が特徴的だ。トレードマークの赤いリボンで髪を留めている。

 その沙耶が申し訳なさそうに切り出した。

「ちょうどよかった。ちょっと力を借りたくて……」

「ちょうどよかったって……。何事かしら?ただ事ではないようね?」

「そうなの。大事件が起きてて……」

「大事件?」

 私と琴音は口を揃えて聞き返した。というか、100人中99人はこの状況下だと同じリアクションを取るだろう。

「そう。まず、これを見て」

 そう言うと、沙耶は赤いカードを見せた。

カードには文章だけが書かれていた。

『自由の女神のポストカードはいただいた。 怪盗チェーロアルコ』

「どういうこと?」

 私が首を傾げると、琴音は珍しく困惑した顔で答えた。

「どういうことって言われても、どういうことなんでしょうね?」

 私と琴音は顔を見合わせ困惑するしかなかった。

「沙耶。ひとまず、いろいろ聞きたいことがあるのだけど、1番聞きたいことを聞きましょう」

「何?」

「私にこれをどうしろと?」

 琴音は首を傾げた。

「犯人を見つけてもらいたいの」

「無理よ」

「お願い!琴音と美波しかいないの!」

 ちょっと待って。今、琴音と美波って言った?

「え?私も?」

「うん」

「無理だよ」

 琴音は呆れたように言った。

「そもそも、何故私たちに犯人が見つけられると思っているのよ?」

「え?この前、万引き犯捕まえてたよね?」

 ……なるほど。それでか。

「あれは偶然よ。2度も奇跡は起きないわ」

 沙耶は不思議そうな顔で首を傾げた。

「え?美波と一緒にいたんでしょ?」

「そうだけれど?」

「じゃ、奇跡じゃないよ」

「どういう意味かしら?」

「そのままの意味だけど……?」

 さも当たり前のように言う沙耶に、琴音は困惑した表情をした。私も同じような顔をしていただろう。

「まあ、いいわ。ひとまず、何が起きたかを説明してちょうだい。解決できるとは思わないけれど、できる範囲で協力はするわ。

 このまま見て見ぬふりも目覚めが悪いしね。いいわよね?美波」

 私は苦笑いした。どうせ、私に拒否権はない。

「琴音がそう言うならいいよ。琴音風に言うと、乗りかかった船だしね」

 沙耶は嬉しそうな顔をした。

「ありがとう!」

「早速、詳しい話を聞かせてもらえるかしら?」

「うん。美術部では、ポストカードを作ったり、絵を売ってたりするの。

 でね、蒼井くんが描いた『自由の女神』を描いたポストカードがなくなっててね。そこにさっき見せた赤いカードが置いてあったの」

 琴音は思い出すように言った。

「蒼井くん・・・・・・。ああ、美術部の部長やってる彼ね」

「そうだよ」

 蒼井洸七くん。イタリア人とのハーフで、かわいらしい顔立ちのイケメンだ。

 私も琴音も同じクラスになったことはないし、ほとんど関わりもない。けれど、性格も良く、文武両道という話はよく聞く。

「ただのいたずらじゃないかって思ったんだけど、売上金も合わないし、売り子やってた子たちも売った覚えがないって言うし・・・・・・」

 私は赤いカードに目線を落とした。

「要するに、窃盗犯が出たってこと?」

 なぜか、沙耶は困ったように首を傾げた。

「窃盗・・・・・・って言うのかな?ちょっとわからないんだよね」

 琴音は怪訝そうな顔をした。

「わからないとはどういうことかしら?」

「カードの裏面見て」

「裏面?」

 私はカードを裏返した。そこにはこう記載されていた。

『文化祭が終わり次第、お金はお支払いします』

「なるほど。わからないって、そういう意味ね。わかったわ」

 わからないことがわかるという、カオスな状況だ。

「蒼井くんの熱狂的なファンとかじゃないの?」

「その発想は短絡的すぎないかしら?美波、あなたが熱狂的な彼のファンで、彼の作品を盗むとしたら、こんなカード残すかしら?」

「う……」

 私は言葉に詰まった。確かに、私だったら、こんなカードは残さない。

「それに、わざわざ盗んでおいて、文化祭終了後にお金を払うなんてどうかしてるわ」

「手持ちがなかったとか?」

「それなら、美術部員に一声かければ済むわ。カードを残す理由にならない」

 なるほど。カードを残す理由か・・・・・・。

「つまり、琴音はこれが計画的な犯行って言いたいわけね」

「そうね。少なくても、思い付きの犯行じゃない。パソコンやスマホで文字を打って、印刷しているしね」

 思わず眉間にしわが寄る。ただのいたずらと軽く考えていたけど、考えれば考えるほど、意味のわからない犯行に思えてくる。

「で、当の本人の蒼井くんは?」

 私の質問に、沙耶は少し困った顔で答えた。

「生徒会室に行ってる。当日の打ち合わせでね。

 だから、まだこのことを知らないんだ」

「早めに知らせた方がいいでしょうね。当事者だもの」

「そのつもり。

 ……そういえば、去年も盗難事件があったよね」

 沙耶が思い出したように言った。

「あったわね。文芸部の売り上げ盗難だったかしら?」

「そうだったね。呪われてるのかな、ウチの文化祭」

 琴音は呆れたように言った。

「全く。ウチの文化祭は面倒なことが起こるわね……」

 琴音は気を取り直すように、眼鏡を上げた。

「それはさておき、沙耶。あなたは蒼井くんにこのことを知らせてきなさい」

「あ、そうだった。

 じゃあ、よろしくね!琴音!美波!」

 そう言うと、沙耶は生徒会室に向かって駆け出して行った。

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