市立図書館の知り合い?のディアナさん
結局、5時限目も、6時限目もレオンが顔を出すことはなかった。
あの四阿でまだ寝ているのか、それとも彼女曰く「詳しくは話すことのできないミッション」があったのか、それは僕にはわからない。
レオンの人生は彼女のもの、彼女の好きにすればいい
人の人生は短いのだ。
僕もせいいっぱい頑張って生きていくつもりだけど、いったいどれだけのラノベを読むことができるのか……。
そんな事を歩きながら、僕はぼんやりと歩いていた。
放課後、綾乃さんのように部活で青春を謳歌させる人もいるだろうけど、僕は帰宅部であった。
とはいえ、すぐに家に帰るわけではなかった。
ごめんなさい母さん、僕にはまだ帰るべきところがあるんだ。
と心の中でボケながら辿りついたのは、市立図書館であった。
昭和初期に建てられた建物は、なんだか荘厳な趣があるのはいいが、夏は暑く、冬は寒いという、人よりも季節情緒を選択した空調のせいもあって、あまり人気はなかった。
だが、去年くらいから、急に利用客が増えだしたのだ。
特に大々的な改修をしたわけでもないのに、なぜか環境が改善したようで、かなりすごしやすくなっていた。
そして蔵書も、匿名の寄贈主のおかげでだいぶ増えていた。
もともと、街の中心部、高校と大学が近いという立地条件もあり、以前の閑古鳥の状態が嘘みたいであった。
なぜ知っているって?
それは、僕が小学生の時からこの図書館を利用しているヘビーユーザーだからだ。
図書館に入ると涼しげな空気が流れてくる。
クーラーは入っていないはずなのに、まるで気分は洞窟に入り込んだかのようであった。
……洞窟に入ったことはないけど……
夕方ということもあって学生が多い。
以前より人が多いと言っても、やはり図書館にくる人は限られている。
僕のような本好きか、勉強するためか
だがら、他の場所と比べると、知的で眼鏡をかけた女性が多い。
それだけで僕はちょっと幸せな気分になる。
「ニシシ! 少年よ、私の棲家にようこそ」
笑顔を浮かべながらティアナが僕に声をかけてきた。
「こんにちわ、ディアナさん。でも、ここは市の図書館、あなたの棲家じゃないですよ」
このやりとりは毎回、ディアナとかわしている挨拶のようなものであった。
ティアナさんは、この図書館で知り合った
その名の通り、彼女は日本人ではないようだった。
赤い髪と褐色の肌の眼鏡美女
少なくとも外国の血が混じっている貌であり、眼鏡がよく似合う女性であった。
「いやいや、私は朝から晩までここにいるッス。これはもう名実ともに私の棲家といっても過言ではないッスネ」
「過言だよ」
僕はきっぱりと言うが、ディアナさんはとってもご機嫌斜めであった。
「文彦殿が言ったッスよ、『ここを棲家にするといい』って」
「僕にそんな権限あるわけないでしょ」
僕はため息をつく。
ディアナさんと初めて会った時、うまく日本語が伝わっていなかったようで、いったいどの部分を曲解したのか、僕が彼女が図書館を「棲家」として提供したと勘違いしているようなのだ。
何度も訂正しているんだけど、鈍感系ハーレム主人公ばりに聞く耳をもってくれないのだ。
「ニシシ、それよりもお茶にするっスよ」
ディアナさんはスキップしながら図書館の奥に進んでいき、僕も追随する。
図書館の一番奥にあるこじんありとした読書スペース、そこがディアナさんの憩いの場所であった。
アンティークのテーブルとソファー
この昭和初期の建物には相応しいけど、市立図書館としては購入費用どうしたんだろうと考えてしまうほどの品質を感じさせるソファーにディアナさんは無造作に座る。
「ほら、文彦殿も座るッス」
爬虫類のような鱗の尻尾を揺らしながらディアナがさそう。
いつも見るたびに思うけど、なかなか精巧なギミックのコスプレだった。
まるで本当に生えているかのようだった。
ディアナさんの頭につけられた角もそうだけど、よく周囲の人は止めないんだろう?
ディアナに勧められて僕もソファーに座る。
座るとすぐに、司書が紅茶をもってきてくれた。
とても綺麗なお姉さんだ、眼鏡もかけている。
なぜ司書のお姉さんが紅茶をいれてくれるのか?
最初は疑問に思ったけど、もう今は考えることはやめた。
どんな理由であれ、眼鏡美女の淹れてくれたお茶は美味しいのだ。
紅茶を呑みながら、鞄から僕はラノベを取り出した。
ラノベのタイトルは「真ハイスクールD×D1 新学期のウェルシュ・ドラゴン」(ファンタジア文庫:石踏一榮零著)」
悪魔であり竜の力を宿した少年兵藤一誠が仲間とともに戦う現代異能バトルだ。
ただ、闘いの舞台は地球でないことも多いことから、パワーインフレも凄まじい作品だ。
なにせ兵藤一誠自体が、DXDの世界の中でも世界最強の生物とされるドラゴン、その中でトップクラスの赤い龍ドライグをその体に宿しているのだ。
面白い話なんだけど難点は一つ
1巻と銘打っているが、実質26巻目ということだ。
出版社がかわったわけでもないのに、番号を1に戻すなんて、ある意味詐欺のような気がしないでもない
「お、竜の物語っスか、竜はいいっすよね」
僕の読んでいるラノベに気付き、ディアナさんは嬉しそうだった。
ディアナさんのコスプレも「竜のコスプレ」らしい、角と尻尾しかないのでよくわからないけど。
「白竜や赤竜もいいッスけど、黒竜はどうッスか?」
「黒い竜も嫌いじゃないよ、だいたい悪役だけど」
「黒は邪竜の証ッスよ」
笑うディアナの手に文庫本があった。
タイトルは「創竜伝」
「ちょっとまて」
思わず僕は突っ込んだ。
「ディアナさんは、なんで
「黒竜が強いからッス」
「それは認める」
さらにいえば文庫版のCLAMP先生のイラストも最高だ。
「とはいえ、未完の名作をチョイスするとは」
物語の終わりがわからず悶々としないのだろうか
それにしても
……
「まあ、そんなことより、本を読もう」
「そうッスね」
こうして図書館での、図書館っぽくない優雅な読書タイムがはじまった。
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