クラスメイト?な皐月レオン

 当然というか何というか、綾乃さんとの登校は特に問題なく終わった。

 

 バスの中では、それぞれスマホで電子書籍のラノベを読んでいた。

 個人的には紙の本のほうが好きだけど立ったままの状態では、さすがに両手が塞がるのがつらい。


 というわけで、僕の中では古典である「ブギーポップは笑わない」(電撃文庫:上遠野浩平著)を読んでいた。

 僕が生まれる前に作者は子供もいたけど初版が出た作品で、現在もなお巻数を増やし続ける有名な現代異能バトルだ。


 ただ、これから追うには、ちょっと刊行数が多すぎて、本棚を圧迫しかねなない

 こんな時、電子書籍は楽だ。


 アニメ化されたから読みだしたけど、面白い作品は発刊からどれだけ月日を重ねても面白い。

 

 バスが学校前につくと、僕は綾乃さんと別れた。

 同学年だけどクラスは違うし、まさかストーカーも校内までは来ないだろう。

 授業はそれとなく受け、休憩時間はラノベを読んでいるうちに昼休みになった。

 

 パンの購買を買いに行くもの、机をあわせ一緒に昼飯を食べるもの、様々だけど、僕は弁当箱とラノベをもって教室を離れ、外へ出た。


 校舎と武道場や体育館を繋ぐ通路のわきにある中庭が目的地だ、

 その庭にある四阿あずまやが僕の昼食&昼の読書の場所なのである。


 四阿は壁がないから、夏は暑く、冬は寒い

 でも、だからこそ、誰もあまり利用しないため、静かに本が読めるのだ。

 雨は防いでくれるしね

 

 僕が四阿に到着すると、すでに先客がいた。


「やあ、今日はボクが一番だね」


 そういって笑っているのは僕のクラスメイトの皐月レオンだった。


 金色の髪と蒼色の瞳のハーフのボクっ娘。

 一見華奢な体つきだけどスポーツ万能、なのに病気による欠席や早退、診察のための遅刻が多いというミステリアスガールである。


 残念ながら、眼鏡はかけていない。

 

 どこからどうみてもアウトドアタイプなのだが、彼女も綾乃さんと同じ……

 ……僕のラノベな仲間であった。

 

 僕は4時限目の授業の光景を思い出す。


「一番も何も、午前中は授業に出ていなかったからじゃないか」


「そんなこと言っても、昨日は退魔の仕事で朝ま……じゃない。ちょっと体調がすぐれないから休んでいたんだよ」

 

 レオンはそういうとメロンパンをモフモフと食べ始めた。

 また、彼女の妄想癖がはじまっていた。

 

 彼女は俗に言う厨二病に罹患してしまっているのだ。

 

「そうか大変だね」

 

 僕は妄想とわかりながら相槌を打った。

 僕だって厨二病に罹患している、

 レオンほど酷くないだけだ。

 

 ラノベ読み、特に僕やレオンのような現代異能バトルが好きな人間にとって、厨二病は、投手が肩や肘を痛めるとの同様、職業病みたいなものだ。

 

 ラノベのジャンルの定義はいろいろあるけど、ここで僕がいう「現代異能バトル」とは、|「現代異能バトル三昧!」の管理人水無月冬弥氏ぶっちゃけ作者が提唱するジャンルだ。

 

 水無月氏曰く


 現代(もしくは似通った世界)で

 異能(人外の力)をもったキャラたちが

 バトル(戦う)ことで物語が進んでいく


作品のことである。


 とはいえ、異能バトル自体は、「とある魔術の禁書目録」や「ストライク・ザ・ブラッド」のように今でも人気が高いけど、最近は、なかなか現代の定義にあう世界観の物語はなかったりする。


 現代の人間はすぐに異世界へ行っちゃうしトラックに轢かれてGO!、現代と言いながら魔法や不可思議現象が公然と存在するそれ現代ちゃうねん、ファンタジーやねんのが最近の流行りだったりする。

 

 ちょっと寂しい

 

 閑話休題作者の愚痴はここまでだ

 


「ボクの言う事、信じてないよね?」


 僕もいろいろ夢想はするけどここは現代日本だ。


 現代異能バトルのように、誰も知らないところで異能バトルが繰り広げられているような事はない。

 だけど、現代異能バトルをこよなく愛する僕だから、レオンの言っていることに反論することはない。


 まわりだってそうだ。


 レオンが模擬刀やモデルガンを持ち歩いていても、先生たちも何も言わない。

 まるで見ていないように、存在していないように振舞っている。


 だから、今日もそばに模擬刀を置いているレオンに対し、ごくごく自然に答えよう。

 

「ソンナコトナイヨ」

 

 デビュー当時の演技派俳優仮面ライダーアギト撮影時の要潤さんのような棒口調で答えると、レオンはなぜか笑った。


「ホント、大変だったんだよ。結局、堕天使の一人は取り逃がしちゃうし。今も不意打ちされないかヒヤヒヤしているんだよ」

 

 その割には呑気そうである。


 以前、レオンは「君だからいうけど、僕は国連軍のエージェントで、日本のオカルト関係の公的機関『桜花』に出向中なんだ」と過積載としかいえない設定を語ったことがあるけど、それが真実ならラノベ仲間といっても教えちゃダメな禁則事項だと思うのだけど、どうなんだろうか?


「それは大変だったね、まあ、ここはきっと大丈夫だからラノベでも読んで休んだら?」


 弁当を食べ終わった僕は、ポケットからラノベを取り出した。

 

「そだね。キミといるとほんと落ちつけるよね、ラノベ読みも捗るし」

 

 レオンもバックからラノベを取り出した。

 

 そして僕たちは本を読みだした。

 

 静かに

 

 静かに

 

 昼休みが過ぎていく……


(……これくらいかな)


 僕は本から目を離す。

 

 あと5分で5時限目だ。


 気がつくとレオンはラノベを持ったまま、長椅子に横たわり寝息を立てていた、

 何があったかは知らないけど、とても疲れる事があったのだろう。

 

 起こすかどうか悩んだが、せっかくラノベを読みながら眠りにつくという。

 この世界で一番幸せな寝かたをしたのだから、起こすのはやめた。

 どうせ、遅刻しているしね。

 

「おやすみ、レオン」


 僕はそっと四阿を後にした。

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