幼馴染ではない?柴藤綾乃さん

 スマホで感想サイトにアクセスし、自分のお気に入りの作品の感想を読む。


 俗にいう歩きスマホだけど、歩き読書をしていた僕には死角はない。

 とはいえ、さすがにラノベは読まない

 トラックにひかれてしまうだろう。

 もしかしたら異世界転生して俺TUEEEできるかもしれないけど、まだ僕は死ぬつもりはない。

 読みたいラノベがまだいっぱいあるからだ。

 

 ということで、読んでいるのは感想サイトの感想だ。

 僕が利用しているのは、大手の感想サイト読者メーターなのでいろいろな人の感想を読むことができる。

 さすが、とあるラノベサイトキミラノが、提携するだけある。


 利用者の感想は千差万別だ。

 僕にとって面白い作品でも酷評する人もいるし、僕と違ったところが面白い人もいる。

 みんな違うからみんないい。

 もちろん、自分と同じフィーリングの利用者もいる。


 特に水無月冬弥という参加者とは妙にフィーリングがあう。

 彼は自分の感想サイト「現代異能バトル三昧!」を運営し、年に1回発刊されるラノベランキング本の協力者である古強者年数だけはベテランだ。

 もしも機会があるのなら、覗いてみるといいと思う。

 

 閑話休題宣伝活動はおいといて

 

「おはよう、文彦君」

 

 僕を呼ぶ声が聞こえたので僕は歩きスマホをやめ、声のした方をみると柴藤綾乃しばふじあやのさんが自分の家の前でにこやかな笑顔を浮かべていた。

 

「おはよう、綾乃さん」

 

 彼女とは幼稚園からの知り合いで、小中高が一緒であるが幼馴染ではない。

 

 クラスはあまり一緒じゃなかったし、家が近所といえ、両隣でもなければ道路を挟んだ向かい側幼馴染の絶対的トライアングルにも住んでいない。

 だからこそ、「文彦くん」「綾乃さん」という親しそうで親しくない、微妙な距離感な名前で呼び合っている。


「今日は、どうしたの?」


 同じ高校で、同じバス停でバスにのって通学するため、通学時間帯はよく会うが、|家の前でわざわざ僕が来るのを待っていること《ラブコメ時空》は初めてであった。


「ごめんね、ちょっとあって一緒に通学したいの、いいかな?」

 

「別にいいけど? でも、どうして?」

 

「ひとりで通学するのがちょっと恐くて……、帰りはお父さんが迎えに来てくれることになっているけど……、いいかな?」


「何があったの?」


「ストーカーかも。最近、つけられたり、家の近くで見張られたりしたから」

 

 不安そうな綾乃さんの声、僕はまわりを見渡したが、それらしき人影は見つけられなかった。


「今はいないようだね」


「うん、もしかしたらわたしの気のせいかもしれないんだけど……」

 

 戸惑っているのか、勘違いかもしれないと思いたいのか、僕は綾乃さんの声から迷いを感じた。

 

 「西野~学内カースト最下位にして異能世界最強の少年~」(MF文庫J:ぶんころり著)のメインヒロインであるローズのようにヤンデレもラノベで読むのなら面白いけど、リアルならノーサンキューだ。

 ちょー恐い。

 特に男のヤンデレならなおさらだ。


 彼女の力になりたい。

 

 とはいえ、僕はあまりにも無力だった。


「僕に絶槍みたいなアイテムがあれば守ってあげるんだけどな」

 

 僕の言葉に綾乃さんは目を輝かせる。


「絶槍って、『世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する ~レベルアップは人生を変えた~』に出てくる槍?」

 

 ラノベの話に食いついてくる綾乃さん。

 

 微妙な距離感でありながら、僕と綾乃さんの縁が切れないのは、共通の趣味があるからだ。

 

 それがラノベ

 

 綾乃さんはラノベの中でも、現代の話や、青春もの、そして群像劇が大好きだった。

 

 僕とはちょっと好きなものが異なるけど、共通する面白いラノベもあるし、たがいにラノベを勧めることもあった。

 

「そう? あれくらいチートな槍じゃないと非力な僕では勝てないよ」


「えーっ、わたしのストーカーってモンスターなの?」


「いや、それだけ僕が弱いってことだよ、平民レベル1みたいなものだし」


「なにそれ」


 綾乃さんが笑う。

 うん、彼女には笑顔が良くにあう。

 これで眼鏡をかければ、もっと美人になると思うけど、彼女は水泳部。

 眼鏡は不便なのだろう。

 残念だけど

 

 本当に残念だけど……


「でも、悪い心だけ破壊するような槍があったらいいね」


 人を傷つけたくない彼女らしいアイデアだった。


 僕は夢想する


 綾乃さんの想像している槍を……


「そうだね、あるといいね」


「うん」


「じゃあ、そろそろ行こうか、バスが出発しちゃうよ」


「そうだね」


 綾乃さんは歩き出した僕の隣を同じように歩いていく。

 

「あー、安心したら、ちょっと眠くなってきちゃった。もしもバスの中で寝ちゃったら起こしてね」


「いいけど、恐くて寝むれなかったの」


「違うの……」

 

 恥ずかしそうに綾乃さんは言った。


「恐かったから、ちょっとラノベを読み始めたら……」


「読み始めたら?」


「朝になっちゃった」


「朝になった」

 

 この時、僕が生暖かい目で綾乃さんを見てしまったことは誰も責めることはできないはずだ。きっと。


「ちょっと分厚かったし、最終巻だったから、途中で読みやめられなくて……」

 

「何を読んでいたの?」


「…………」


「…………」


 僕の問いに沈黙した綾乃さんだったけど、沈黙に耐えきれなくなって告白する。


 

 その槍は刃も柄も魔力で構成されており、まるで幻のような存在で、肉体を傷つけることはなない。


「……終わりのクロニクル……」

 

 「終わりのクロニクル」(電撃文庫:川上 稔著)は、世界の命運をかけた壮大な物語。多くのキャラが登場し、群像劇が好きな綾乃さんなら大満足、面白さが約束された名作だ。なぜ、アニメ化されなかったのか不思議なほどの作品である。

 

 ただ

 

 その本の厚さも約束されていた。

 







 なにせ、1001頁もある。




「確かに眠れないね、それは」


 僕は納得するしかなかった。

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