7.『メリー』は大喜利がしたい
「起きろー!第一回大喜利大会!ここに!開幕!」
伝説級の悪霊たちが来て3日立ち、現在は4日目の昼。起きるにはいつもより少しはやい、12時前くらいに、意味不明な言動と共に、俺はメリーに起こされた。
ぐほっ。と、腹になにか重いものが乗っかり、体内から息が漏れる。おはようございます。涼さん。と、いつものように淡々と喋る貞子を確認し、おはよう。と挨拶を返す。
どうやら、俺の腹の上に載っているのはメリーみたいだ。
「大喜利!を!するぞー!」
二度目にして、内容を理解できた。とりあえずメリーをどかし、俺はテレビの方へと目を向ける。テレビに映る一本王決定戦を見て、どうやらメリーが興味を示したようだ。
「いや大喜利ったってな、素人じゃなんも面白いこと言えないぞ?二人とも」
全く。と頭を掻き呆れた感情を上乗せして、メリーたちを論する。大喜利というのは、何かお題に対して、それから大きく外れず、かといってまじめなことを言わず、笑わせるなんとも難しいお笑いだ。
それを、素人三人で、しかも、まるでバックトゥーザフューチャーの如くやっていた幽霊二人に、酷なことは間違いない。
「お前は幽霊失格だ。何故?」
唐突に貞子そう呟く。うーんと悩む姿を見せるメリー。貞子ものりのり、メリーものりのり。やるしかないのか。泥沼の大喜利大会……。
というわけで、大喜利大会が始まった。最初のお題は『お前は幽霊失格だ!何故?』
何度も言うが大喜利は難しいのだ。本当に。こいつらに出来るわけなんてない。と、考えていたが、その考えとは裏腹に、メリーは勢いよく手を挙げる。
おおっ。と思わず口に出してしまう。それに対してどや顔のメリー。なかなか自信があるようだった。
ここで改めて、貞子がお題を復唱する。
「お前は幽霊失格だ。何故?」
「塩にびびる」
ふふん。と自信ありげに答えを出すメリー。一同失笑である。
「いやいや幽霊は塩が苦手だろ!普通!」
「僕は塩じゃビビらないもん!」
「伝説級の悪霊と一緒にするな!」
むぅ。とふてくされるメリー。こんな事だろうと思った。全くこいつは趣旨を理解できていない。
まあ、本人が楽しそうならいいか。と、座っていたベッドに横になる俺を見て、メリーはふてくされたまま、俺に敵意を向ける。
「じゃあ涼答えてよ!」
「はあ!?無理無理そんな滑る前提でやりたくないわ!」
「お前は幽霊失格だ!何故!?」
問答無用に話を進めるメリー。ばっと起き上がり、正解を探す。頭を動かせ脳に酸素を入れろ。うーんうーんと悩ませるをにやにやと見つめながら、さーん、にーい。とカウントダウンを開始するメリー。
その時、ふと一つの答えが頭をよぎる。
「……指先しか半透明になれなかった」
しばしの沈黙。ぽかんと口を開くメリーとジッとこちらを見つめる貞子。だから嫌だって言ったのに。
しかし、数秒後にクスクス。と笑いが起きる。貞子だ。
「あ~幽霊って透明になれるのが前提なのに、そいつ半透明しかも指先だけなんだ!そりゃあ失格だね!幽霊として」
ふふふ。と笑いながら今の答えの解説を始めるメリー。やめろ!と内心恥ずかしさで死にそうにながら叫んだ。小さな笑いをよんだこの回答を十分吟味してから、メリーは俺の
方を向いた。
「秀でてるねえ~」
「やかましいわ」
秀でてるなんてどっから持ってきたんだなんだそのボキャブラリーは。
「理解した!大喜利が何か!理解した!貞子もう一問だして!」
だけれども、答えが褒められたのは悪いはしない。乗ってやろうじゃねえか。とそう意気込む。
「こいつ幽霊一日目だな。何をした?」
この幽霊しばりなんなんだ。俺はまた頭を働かせる。幽霊一日目……と考えていると、すかさずメリーが手を挙げる。早い。今度こそ!と意気込むメリーに対して、貞子はもう一度お題を発表する。
「こいつ幽霊一日目だな。何をした?」
「人とぶつかりそうになると、アッスミマセンって小声で謝ってからよける!」
うんうん。そりゃあ確かに一日目だわ。小さくおお~と歓声はあがるが、それでも笑いは起きない。まあそりゃ三人やっているから。という理由もあるが。
「え!?ダメ!?」
本人的には爆笑だったのか、俺らの反応を見て、大きく慌てる。まあそんなもんだ。大喜利っていうのは。と、俺はメリーを慰めた後、手を挙げる。うわあああん!と泣く真似をするメリーを隅に置いて、貞子はお題を読み上げた。
「こいつ幽霊一日目だな。何をした?」
「立ち止まっている人の前に立ち、え?見えてる?俺のこと見えてる?見えてない?といいつつ?ほんとは~?みえ?みえ?てな~い!ってしつこく聞いている」
ぐふっ。とメリーの笑い声が聞こえた。
「う……うざっ……その幽霊っ……うざっ……」
腹を抱え、苦しそうに笑うメリーを見て、ウケた……!ウケた!と喜ぶ俺。
「なかなかいいですね。今の」
貞子からも高評価。大喜利の才能でも開花したのか!?と内心舞い踊る。
「そんな幽霊道端で目撃したらちょっと見ちゃうよね」
くすくすと、まだ笑いが収まらないメリーは少し嫌そうな顔をしてそう呟いた。
「見たら見たで笑いと苛立ちが交差して複雑な感情になるな」
「そしてその人と目があうのですね」
先の展開を予想して思わず笑いが零れる。そいつ絶対こっち来て同じことやるじゃん。
「見えてたら見えたで空気読めよ……みたいな反応してね!」
「なんかこっちが悪いみたいにすんのやめろ」
ははは。と一同笑いがこみ上げる。まさか幽霊大喜利でここまで話が盛り上がることがあり得るのか。と、予想だにしない出来事が起きた。
「あーでも、僕これで自由だああああああ!って叫びながら走る幽霊なら目撃したことあるよ」
「生前なにがあったんだよそいつ」
「私は何度も何度も首つり自殺しようとして、でも縄が透けちゃう人なら見たことあります」
ええ、何それ怖い……。
「その幽霊目撃情報どうだっていいわ!」
「でも男の幽霊はやっぱり女湯に入ってる人が多いらしいね」
「ああ、メリーは基本的に浮遊しませんからね。ごった返してますよ。最早幽霊だらけで女体見れてないんじゃないですかね?」
「ぶふっ!バカばっか!」
「ついていけないからもうやめてー!」
これ以上幽霊あるあるとか続けられても、かなり困る。知ってるか?身内トークで盛り上がられるのが一番つらいんだぞ!
ごめんごめん。と笑いながら謝るメリーは、そろそろ大喜利飽きてきた~と俺たちに言う。いや、お前が始めたんだろ飽きるのはやっ。
「んじゃそろそろラスト問題にするか」
時間的にもそろそろお昼ごはんの時間だった。
ラスト問題……うーん。と頭を悩ませる貞子を、俺たちは黙って見つめる。一分程たち、貞子は思いついたかのように顔を上げた。
「このなぞなぞ、本当に謎だ。どんなの?」
「いや幽霊大喜利じゃないんかい」
「やかましいです」
長い時間大喜利をやっていると、着眼点が変なところに辿り着いてしまうし、テンションがそっちに寄ってしまう。これは夜思い出して悶える奴だな。と、後悔した。
メリーはかなり頭を悩ませているようで、なかなか答えが出ない。かくいう俺も、良い回答が見つからなかった。
五分が過ぎた。この問題はやや難しすぎたのかもしれない。俺が思いついた内容も、『上は洪水、下は大火事、これが20年後の日本……?』とか『隣の彼女が急に黙り込んだよ?な~んでだ?』みたいな内容しか浮かばない。
なかなかしっくりくる回答がなかった。
それからまた二分程経過して、そろそろ終わるか……みたいな空気になったところで、メリーがぽつりと呟いた。
「パンはパンでもサイパンでザッパ~ン?……」
時が止まった。
パンはパンでもサイパンでザッパ~ン……パンはパンでも……
心の中で何度も復唱していると、少しずつ笑いがこみ上げてくる。い、意味わかんねえ。なんだそのなぞなぞ。
「その答えは海の中……でしょうか」
真面目に答える貞子を答えに、思わず声を出して笑ってしまった。
「なんだその問題!なぞなぞすぎる!」
え?え?面白かった?と顔をきょろきょろとさせて、メリーは喜ぶ。
「お前がナンバーワンだ」
「やったー!!!!!」
わー!と喜ぶメリー、正答を探す貞子。その光景が、なんだかとてもおかしかった。
メリーの喜びが落ち着いてきたところで、メリーが社長のような態度でベッドに寄りかかる。
「まさにあの瞬間、神が下りて来たよ。なんの神かって……?決まってるじゃないか。笑いの女神だよ」
「やかましい。女神に謝れ」
少しウケたらこれである。物凄く腹立たしい。図が高い図が高い。と俺を指さし、不適に笑うメリーを、貞子にアイコンタクトで蹴るように伝える。
何かを察したかのように、貞子はメリーの頭をひっぱたいた。
「いったい!!何すんの!馬鹿になるじゃん」
「そしたら何発叩いても問題ないな」
何でよ!と頭を押さえながら叫ぶメリーに対して、俺は馬鹿にしたように答える。
「これ以上馬鹿になり得ないからだよ」
むきゃー!と叫びまわるメリーを見て、貞子は小さく、涼さん、秀でてますね。と、そう言った。
やかましいわ。
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