2-2 都市伝説『メリーさんの電話』
静かになった携帯を一度布団の上に置き、ふと、テレビに目を向けると、薄暗い木々に囲まれた中にぽつんと、井戸が写し出されていた。
映画貞子でも特に有名なシーンではないだろうか。その井戸からゆっくりと、でも早く青白い手が表れ、井戸のふちを勢いよく掴む。
ここから髪が長く、白い服をきた女性が現れ、地面を擦りながら近づいてくる。もう小さい頃から何十回もみた光景である。
毎年毎年飽きずに流すよな。なんてため息をついて、布団の上に座りながら壁に寄りかかり、ぼーっとその映像を見ていると、またもや携帯が震えだした。
電話の主は恐らくひろだろう。奴はたとえ誰といようと、一度誘おうと思った人間はなんとしても誘う。最高記録は13回。何度切っても俺が頷くまで短いスパンで電話をかけてきた記録がある。なんとも執念深い。
毎度のことだからなんとなく諦めており、相手に伝わるわけでもないのに、面倒くささをかもちだし携帯を手に取る。
非通知だった。
あまりの衝撃に、勢いよく、携帯から手を離す。小さく跳ね上がり、携帯は裏向きに停止した。
ラインやその他SNS等で、電話番号登録すると、こうやって訳もわからないところから電話がかかってくることは折り畳み携帯の頃からよくあった。だからということではないが、別段非通知から電話がかかってきたところで、それに関してはなにも驚きはない。
いや、言い過ぎた。多少は驚きはあるものの、携帯を勢い余って手放してしまう程ではない。
ただ、確かに、絶対的な確信があるほどに、この電話には違和感を感じていた。
その確かな違和感の正体は、数秒もたたず、理解できた。
普通非通知は、相手に電話番号を知られたくない時に使う、完全に怪しい設定だ。だからこそ、相手から電話がかかってくる際、非通知の電話は、着信を拒否している。
つまり、携帯に非通知と表示されること自体、有り得ない事だった。
ザザっと、携帯からノイズが走る。
なんでだ!?と、急いで携帯を確認すると、既に携帯は通話中になっており、数あるマークの中でスピーカーのマークが照らされている。
「……きゃはは」
その電話から発せられたのは、先ほどノイズが鳴り響いていた時に聞こえた、女の子の声。しかし、今度は大きく、はっきりと、静かな部屋に陽気な声が響いた。
微かなノイズとともに、彼女の声がゆっくりと聞こえた。
「私、メリーさん。今ゴミ捨て場にいるの」
その高い可愛らしい声とは想像も出来ない悪寒が、体を一瞬で駆け巡った。
今日であったフランス人形と、メリーさんという単語。そして電話。今現在、自分自身に何が起きているのか、理解するのは簡単だった。
ただ、理解はしたが何が起きているかはわからなかった。
そもそもな話、有り得ないのだ。どこかで現実に起きた話なんかではなく、実在もなんもない、創作話なのだから。
こんな事はあり得ない。
ブッと電話が切られた音がした。いつの間にか自分の肩が上下に大きく揺れる。背中に冷たい感触がぶわっと広がるが、夏の暑さにのせいで出た、汗とは全く違うことが感じ取れた。
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