2-1 電話とテレビ
勢いよく起き上がり、布団の上を叩きながら、振動の出所を探る。振動し続ける布団を探していると、そこから銀色のリンゴが部屋の光によってきらりと光り、姿を現した。
その振動元を手に取り、表面に向けると同時に携帯は振動をやめた。どこの誰のかもわからない、青目の光る子猫が前面に広がるロック画面を見ると、ぽつんと、不在着信の文字と電話のマークが表れていた。
驚きが二度続き、やや息切れしているのがわかる。
ロック画面を解除して、電話をかけてきた人を見てみると、画面には【大輝】の文字が記されていた。
電話主である佐々木 大輝≪ひろき≫は、大学生1年生の頃、選択科目である栄養学で隣の席に座り、そこから仲良くなった人物である。
無駄にラインのやり取りを交わし、夜はふらっと二人で飲み歩いたりもする。そういうときは決まってメッセージではなく電話をかけてくるような奴だ。
とはいっても、彼に友達は多く、先週も俺は関わったこともない人たちとバーベキューに行ってくる!とか言って写真付きでメッセージが送られてきた。
ここで再度携帯が振動する。どうやらひろがかけなおしてきたようだった。
「もしもし?」
「もしもし!?やっと出たな!今暇?今暇なんだけど!」
ともあれ、佐々木 大輝とはこういう人間なのだ。表裏がなさそうで、活発で、誰にでも人当たりが良い。その癖、意思が強く自分の思い通りのことを進めようとする。
なんとも自分勝手で、居心地が良い。
「まあ確かに暇はしてるけど、飲みにはいかないぞ」
そう答えると、電話越しにごねる声が聞こえてくる。色々言っているけれど、今月はもうあまりお金がない。なくはないけど、今日はなんだか外にはもう出たくない。何故だかあのフランス人形が頭から離れない。
ぎゃーぎゃーと喚いているひろに改めて行かない事を伝えようと、声を出そうとした瞬間に、携帯電話から大きなノイズが鳴り響いた。
あまりの音量に耳から携帯を離し、画面を見ると、そこにはまだ通話中の文字と、彼の名前。ノイズがやや小さくなったので、改めて電話を耳に近づける。
「……きゃはは」
微かに、でも確かにノイズの流れる電話から女の子の笑い声が聞こえた。一度携帯を離し、画面を見てみると、そこには佐々木大輝の文字が映し出されている。
まだ通話中で間違いない。
「お前今誰といんの?」
そう、聞いてみるも、相手からの返事はない。最早ノイズすら耳から聞こえていなかった。
改めて携帯を離し、画面を見てみると、そこには子猫が可愛らしく映し出されていた。
どうやら電話が切れてしまったみたいだ。
恐らくひろは誰かとおり、俺も混ぜて居酒屋にでも行く予定だったのだろう。女の子の知り合いと言えば夏葉しかいない。
ただ、夏葉とひろはどう考えてもそういう関係になってると思う。
だから……と言い訳を心の中で繰り返し、ひろに電話を掛けなおすことはなかった。
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