2-1 電話とテレビ

 家に着くなり、急いで手を洗い、何故あんなことをしてしまったのか、自問自答繰り返していたのを今でも思い出す。結局のところ、謎は謎のままで、答えは出なかった。脳内警察からしてみれば、状況証拠不十分と、被害者の記憶が信ぴょう性に欠けるとのことで、迷宮入り事件として脳内の奥に保管せざる得ない事件だった。


 そこからはいつも通り動画サイトで動画をあさり、テレビゲームや、携帯を見て時間を過ごした。腹が減れば買ってきたものを食べ、眠くなれば昼寝をする。友達とくだらないラインをしたり、休みの日だって言うのに無駄に動くサークルのラインを既読だけつけてみたり。


 高校生の頃からバイトをはじめ、コツコツとお金を貯めてきた6年間、とうとう目標の50万を超え、最後のバイト代で60万円を到達したのが、2か月前の6月。静岡に住む両親からは、月5万円のこの家の家賃と、月2万円の仕送りが送られてくる。

 そんな親に甘え、目標金額に達した次の月でバイトを辞めた今、特にすることもなく、自堕落な生活を送っている。というわけだ。


 普通な様で普通じゃない。そんな1日だと言ったが、普通じゃなかったのは起きて数十分の出来事だけ。

 それ以外はあまりにもいつも通り過ぎて退屈だった。やりたいこともなければ、やらなきゃいけないこともない。


 高校生の頃の友達や、大学の、こう、夜のクラブで騒いで騒いで騒ぎまくっているような人は、毎日のようにSNSに画像や動画を挙げて楽しんでいるって言うのに。

 自分の一日を改めて思い返してみて、フッと呆れた笑いが出てきてしまい、そのまま願えりを打った。


その瞬間、パッと、21インチのテレビがついた。そこに映しだされていたのは、とある心霊番組。

 時刻は20時をすでに回っており、夏休みの時期は、こういった芯が冷えるような、見ているとどことなく冷えるような番組が所謂ゴールデンタイムという時間帯に良く放送されるようになる。

 だが、そんなことはどうでも良い。問題なのはどうして勝手にテレビがついたのか。そんな疑問と、テレビに流れている貞子特集の心霊番組が相まって、心臓の脈打つスピードが速くなる。


 寝ころびから起き上がり、辺りをばたばたと見渡し、テレビのリモコンを探すが、黒いリモコンは姿を見せない。

焦る鼓動。滴る冷や汗。なんでないんだと心の中で何回も唱える。


 ばたばたと布団をめくってみたり首を何回も振り探し出していると、ふと、お尻に何かを踏んだ違和感を感じる。

 違和感とともに、テレビから発せられるキャー!という叫び声が、声量を大きくして部屋中に響き渡った。


「うるさっ!」


 テレビの音量と比例するように、自分自身の声が大きくなる。案の定、俺の尻の下には、黒いリモコンが押しつぶされて置いてあった。

 急いで音量を下げ、はぁー。とため息をついて、リモコンを小さい木の素材をしっかりと生かした机の上において、ゆっくりと寝ころんだ。


 ブーっと布団が振動した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る